ANAとJALが共同で「カスタマーハラスメントに対する方針」を発表

全日本空輸(以下、ANAグループ)および日本航空(以下、JALグループ)は6月28日、「カスタマーハラスメントに対する方針」を発表。両社は共同で、カスタマーハラスメントの定義、および該当行為例を9項目に整理して明文化した。代表者は「お客様に高品質なサービスを持続的に提供していけるよう、従業員が安心して働き続けられる環境を構築してまいります」と説明している。

○■安心で快適な空の旅に向けて

冒頭、ANAグループの宮下佳子氏が説明した。カスタマーハラスメントが社会問題化し、世の中の関心も高まっている昨今。厚生労働省では2022年2月に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発行している。直近では、東京都では条例化に向けた検討を進め、また厚生労働省では従業員を守る対策を企業に義務付けるよう検討中。今後も、カスタマーハラスメント対策への動きはますます加速していくと考えられている。

宮下氏は「これまで明確な基準がなかったことで、現場ではお客様対応の判断に迷うことがありました。従業員に大きな負担がかかり、結果、休職や退職を余儀なくされるケースも発生しています」と報告する。ANAグループ、JALグループともに、昨年度だけでも約300件ほどのカスタマーハラスメント事案を確認。暴言、長時間の拘束、過剰な要求などはどの部門でも確認されたほか、空港や機内では暴行も発生しているという。

「将来を担う大切な従業員が、そのような理由で職場を離脱することに会社としても強い危機感を感じております。お客様に高品質なサービスを提供する担い手である、従業員の職場環境を守りたいという思い、また業界として対策を推進していきたいという思いは、ANAグループ、JALグループともに共通しています。そこで今般、共同方針を発表するに至りました」(宮下氏)

続いて、JALグループの上辻理香氏が説明した。両社ではサービスの提供を通じて利用者から寄せられる意見・要望は”金言”であり、企業の新たな気づき、従業員の成長につながるかけがえのないものと捉えている。しかし暴言や暴行などの著しい迷惑行為が発生した場合、安心・安全な空の旅の提供が難しくなってしまう。そこで著しい迷惑行為に対しては組織的に対応していくと説明。

カスタマーハラスメントの定義としては『顧客または取引先などを含む第三者からの優越的な立場を利用した「航空法、その他関連する法規に反する行為」、および「これらにつながりかねない行為」、または「義務のないことや社会通念上、相当な範囲を超える対応を要求する行為」により従業員の就業環境が害されること』と定めた。

「これまでも航空法をはじめとする関連法規に反する行為には毅然とした対応をとってまいりましたが、義務のないこと、社会通念上相当な範囲を超える対応を要求する行為に対しては、法的な後ろ盾がないことから対応に非常に苦慮していました。定義を明確にすることで、従業員、会社、お客様と共通認識を持って取り組みを推進してまいります」(上辻氏)

カスタマーハラスメントに該当する行為の具体例も示した。こちらは業界団体である定期航空協会とも協力し、昨年度より議論を重ねてきたものだという。「たとえば、現場ではお客様から乗務員の能力を否定するような侮辱的な発言を頂戴することがございます。その場で土下座を強要されるケースもございます。同じクレームを繰り返され、どんなに誠意を尽くしてご説明し、お詫び申し上げても揚げ足をとられ、なかなか対応が終わらないこと(長時間の拘束)もございます」と上辻氏。

従業員を守るためのカスタマーハラスメント対策だが「その実現には従業員だけでなく、お客様や社会の理解も不可欠です。今後は各社における教育や啓発などに加え、両社にて勉強会や意見交換会などの取り組みを進めてまいります」としている。

○■カスハラとクレーマーはどう区別?

質疑応答の時間がもうけられ、宮下氏、上辻氏がメディアの質問に回答した。

あらためて、共同方針を策定したことによる効果を聞かれると「これを策定したことにより、従業員にとっても安心して対応できるようになると思います。またお客様にも広くご理解いただくことで、ご自分でもご認識のないままカスタマーハラスメントにつながるような言動、たとえば従業員の身体を小突いてしまったりとか、そういった件数が減っていくことも期待しております」。

カスハラとクレーマーはどう区別するか、については「線引きの難しさはありますが、基本的にクレームはお客様のご意見、ご要望であり、会社の気付き、従業員の成長につながるものと思っております。一方で、明らかにそういうものを生み出さない、いわゆる暴言などをカスタマーハラスメントと認識しています」「お客様にいただくご意見・ご要望の多くは、私どもがきちんと改善につなげるべきものです。やり取りによってご要望がカスタマーハラスメントに発展してしまうケースもありますので、反省すべきところは反省し、毅然と対応するところは毅然と対応していくということで、ご理解を求めていくという姿勢を私どもは推進していきたいと考えております」と説明する。

ただ、今回の策定により利用者に寄り添う気持ちが阻害されてはならない、とも繰り返す。「エアラインはお客様接点の多い現場をたくさん抱えております。お客様との出会い・接点はとても大切なものです。今回の指針がお客様に寄り添う気持ちを阻害してはならない、と改めて思います。エアラインは、1人ひとりのスタッフ、係員がお客様の声を聞く窓口です。お客様の声には真摯に向き合うこと、これを社内でもしっかりと浸透させつつ、不当な要求に対してはきちんと自分の気持ちを伝えることを教育していきます」とした。

近藤謙太郎 こんどうけんたろう 1977年生まれ、早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、フリーランスとして独立。通信業界やデジタル業界を中心に活動しており、最近はスポーツ分野やヘルスケア分野にも出没するように。日本各地、遠方の取材も大好き。趣味はカメラ、旅行、楽器の演奏など。動画の撮影と編集も楽しくなってきた。 この著者の記事一覧はこちら

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