[社説]鹿児島県警に特別監察 組織のうみを出し切れ

職務上知り得た秘密を退職後に漏らしたとして、鹿児島県警の元生活安全部長が国家公務員法違反の疑いで逮捕、起訴された。同県警を巡っては4月以降に現職の警察官3人が相次いで逮捕されている。警察庁は今月24日、同県警に特別監察を開始した。不祥事の原因などを検証する特別監察の実施は10年ぶりであり、由々しき事態である。
前部長が法廷で、本部長による「事件の隠蔽(いんぺい)」を告発したことで事態は一変する。現職の警察官の盗撮容疑に「最後のチャンスをやろう」などと述べて、捜査を進めなかったと主張した。ウェブメディア側に情報を提供した動機については「隠蔽が許せなかった」と語った。
本部長は繰り返し隠蔽を否定しているが、警察官の逮捕が覚知から5カ月もたっていることなどを踏まえると、説明は釈然としない。
同県警は4月、捜査情報を外部に漏えいしたとして、地方公務員法違反(守秘義務違反)の疑いで巡査長を逮捕した。この事件の関連で福岡市のウェブメディアの記者宅を家宅捜索しており、元部長が漏えいした内部情報はこの捜索で見つかっている。
重大なのは、同県警が自分たちに批判的なメディアを強制捜査していることだ。最高裁は2006年、「取材源の秘密は、取材の自由を確保するために必要なものとして、重要な社会的価値を有する」と判断している。
報道関係者への強制捜査は、言論や表現の自由、ひいては国民の知る権利に関わり、慎重にも慎重を期すべきである。
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同県警を巡っては、捜査書類を速やかに破棄するよう促す内部文書を捜査員らに配布していたことも明らかになった。
「再審や国賠請求等において、破棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません」などと周知されていたという。
刑事裁判で検察側は、有利な証拠のみを裁判所に提出し、有罪を立証するケースがほとんどで、被告側に有利な証拠は警察から検察に送られないことも十分に想定される。刑事裁判のやり直しを求める再審請求では、検察側が開示した新たな証拠が、無罪を立証する決め手につながったケースもある。
ウェブメディアに報道された後、同県警は文書を修正した。隠ぺい体質をうかがわせる出来事といえ、見過ごすことはできない。
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警察庁は、同県警の警察官による盗撮事件の捜査に関し、本部長がきめ細かい確認と指示を現場にしていなかったとして、本部長を長官訓戒の処分とした。本部長は会見で事件の隠ぺいを改めて否定したが、これで幕引きとするなら疑惑は依然として疑惑のままである。
特別監察が組織の防衛を優先する形ばかりのものとなれば、国民の理解は得られない。同県警のみならず警察全体の信頼を揺るがす事態にも発展しかねない事態であることを肝に銘じ、この際すべての膿(うみ)を出し切るべきである。

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