ショートステイとは?介護現場に見る利用実態と課題

ショートステイとは、要介護者が短期間、介護施設に滞在し、日常生活上の支援や機能訓練等のサービスを受けるものです。自宅での介護の限界を感じた時や、介護する家族の都合により一時的に在宅介護が困難になった際に、施設で介護サービスを受けることができます。
家族の介護負担を軽減しつつ、要介護者の心身の状態に合わせた適切なケアを提供することで、在宅での生活を継続的に支えていく上で重要な役割を果たしています。
介護保険制度における在宅サービスの中で、ショートステイはデイサービスと並んで、中核をなすサービスの1つといえます。2021年度の介護給付費等実態統計によれば、在宅サービス全体の総費用額4兆7,400億円のうち、ショートステイ(短期入所生活介護・療養介護)の費用額は約4,700億円で、全体の約10%を占めています。
在宅介護の重要なセーフティーネットとして、その存在感は年々大きくなっていると言えるでしょう。
介護の現場や利用者の間で「ショートステイ」と呼ばれているサービスは、介護保険制度上は「短期入所」と表記されています。
具体的には、「短期入所生活介護」と「短期入所療養介護」の2種類のサービスが、ショートステイの正式名称となります。
ややこしいのですが、法律用語としての「短期入所」と、その通称である「ショートステイ」に、サービス内容の違いはありません。あくまでも呼称の違いであって、提供されるサービスは同一です。
介護の現場では、「ショートステイ」の方が親しみやすく理解されやすい言葉として定着しているため、広く使われているというのが実情でしょう。
上記の通り、短期入所(ショートステイ)には「生活介護」と「療養介護」の2つのサービス類型がありますが、それぞれ利用対象者や提供施設、サービス内容などに違いがあります。
短期入所生活介護は、特別養護老人ホーム(特養)をはじめ、養護老人ホーム、軽費老人ホーム(ケアハウス)、有料老人ホームなど、主に生活支援を行う介護施設においてサービス提供がなされます。
基本的には、比較的安定した状態にある要介護高齢者の利用が想定されており、日常生活上の世話や機能訓練等を通して、在宅での生活を支えることを主眼に置いたサービス提供が行われます。
これに対し、短期入所療養介護は、介護老人保健施設(老健)、介護療養型医療施設、介護医療院など、医療ケアが可能な施設を中心にサービス提供が行われるのが特徴です。
医療依存度が高く、常時医学的管理が必要な要介護高齢者の利用が一般的で、医師や看護師による健康管理や医療的ケア、リハビリテーション等を含む、より専門的なサービス提供が可能となっています。
ショートステイは、自宅での介護が一時的に困難になった場合などに、短期間施設に滞在して必要なサービスを受けるしくみです。利用期間は原則として1ヵ月(30日)以内とされていますが、この期間設定には一定の幅があります。
介護保険制度上、連続して30日を超えてショートステイを利用することは想定されていません。あくまでも在宅生活の延長として、緊急時や一時的な利用に対応するためのサービスという位置づけであるためです。
ただし、利用者や家族の事情等によっては、30日を超えて延長利用が必要になるケースも考えられます。こうした場合、市町村の判断により、特例的に利用期間の延長が認められる場合があります。
とはいえ、ショートステイの一般的な利用イメージとしては、1週間から2週間程度の利用が中心となります。要介護高齢者の心身の状態や生活環境、介護者の事情等に合わせて、数日から数週間単位での柔軟な利用が可能であることが、このサービスの大きな魅力の1つと言えるでしょう。
家族の旅行や冠婚葬祭等の際の数日間の預かりから、病気や怪我等で在宅介護が難しくなった場合の数週間の利用まで、幅広いニーズに対応できるのがショートステイの強みです。
ショートステイは本来、短期的な利用を前提としたサービスですが、31日以上、長期間にわたって利用せざるを得ないケースも少なくありません。いわゆる「ロングショートステイ」と呼ばれる利用形態です。
実際、2022年度に短期入所生活介護の利用者のうち、31日以上利用している方は10.6%でした。
ロングショートステイの主な理由としては、特別養護老人ホームなど介護施設の不足があげられます。重度の要介護状態になって在宅介護が限界に達したものの、特養等の施設入所の順番が回ってこない。やむを得ずショートステイを繰り返し利用することで施設入所の代替としているケースが存在するのです。
本来、ロングショートステイは制度の想定外といえます。あくまでも在宅生活の一時的な補完であって、長期的な生活の場ではないからです。
しかし、地域の介護基盤の脆弱さを背景に、そのすき間を埋める受け皿としてショートステイが使われている実態は無視できません。
サービスの本来の趣旨とは異なる状況ではありますが、現実に困っている高齢者と家族の存在を考えれば、一概に否定はできない難しい問題であると言わざるを得ません。
介護サービスを利用する際の費用負担は、利用者や家族にとって大きな関心事です。ショートステイの利用料金は、大きく分けて「介護保険適用の基本料金(自己負担分)」と「食費・居住費(滞在費)等の実費負担」の2つから構成されています。
基本料金の部分は、要介護度に応じて設定された介護報酬単位数をもとに算定されます。ここに、介護保険負担割合証に記載された自己負担割合(1~3割)を乗じた金額が、利用者の自己負担となります。
食費と居住費については、所得に応じた負担限度額が設けられていますが、一定額の自己負担が発生します。ユニット型個室など、部屋のタイプによって居住費の金額は異なりますし、施設ごとに食費の設定も異なるため、1日あたりの合計の自己負担額は数千円~1万円以上と、かなりの幅があるのが実情です。
長期間利用すれば、その分利用料も嵩んでいきます。年金収入のみの高齢者世帯にとって、例えばロングショートステイともなれば、費用負担は深刻な問題となるでしょう。
介護の社会化を理念とする介護保険制度ではありますが、その費用をめぐる利用者の不安や負担感は、依然小さくないと言わざるを得ません。公的な給付と自己負担のバランスについては、今後も継続的な議論と制度的な対応が求められる課題だと言えます。
ショートステイはどのような人が、どのように利用しているのでしょうか。厚生労働省の介護給付費等実態統計を見ると、その実態が浮かび上がってきます。
短期入所生活介護利用者を要介護度別に見ると、要介護2以上の中重度者の割合は年々増加傾向にあります。2022年度の数値を見ると、要介護2が22.6%、要介護3が28.6%、要介護4が20.3%、要介護5が10%と、合計で実に全体の約80%が要介護2以上の中重度者という結果になっています。
重度化が進む要介護高齢者を在宅で支えるのは容易ではありません。介護の限界に直面するケースが増える中で、ショートステイに求められる役割は確実に大きくなっていると言えるでしょう。
また、近年は家族構成の変化もショートステイのニーズを高める一因となっています。核家族化の進行に伴い、単身高齢者世帯や高齢夫婦のみ世帯が増加の一途をたどっています。
配偶者や子どもによる介護が難しいケースも多く、頼れる身内がいない状況で介護を必要とする高齢者も珍しくありません。ショートステイは、こうした環境変化を背景とした新たな利用層の受け皿としても、重要性を増しているのです。
ショートステイの利用理由は実にさまざまですが、中でも大きな割合を占めるのが「家族の介護負担軽減」です。介護者の身体的・精神的な疲労がたまった時に、一時的に要介護者をショートステイに預けることで休息を取る、いわゆる「レスパイト」目的での利用が数多く見られます。
家族の急病や事故、冠婚葬祭など、突発的な事情で一時的に在宅介護が難しくなるケースでの利用も少なくありません。介護離職を防ぐ観点からも、ショートステイが担うセーフティネット機能への期待は大きいと言えます。
また近年では、ショートステイの新たな利用目的として「在宅看取りの支援」にも注目が集まっています。人生の最終段階を自宅で過ごしたいというニーズは以前から根強くありましたが、重度化・医療化の進展に伴い、在宅での看取りを希望するケースも増えつつあります。
こうした中、看取り期に定期的にショートステイを利用することで、家族の負担を和らげつつ、本人の希望する場所での看取りを実現するという新たな活用法が広がりを見せています。
医療との連携に力を入れる介護老人保健施設(老健)や介護医療院など、医療依存度の高い利用者の受け入れに積極的な施設では、看取りを見据えたショートステイ利用者も着実に増えている状況です。
このように、ショートステイの利用理由は実に多岐にわたります。計画的・定期的な利用から緊急的・突発的な利用、さらには看取りを見据えた長期的な利用まで、そのニーズは多様化の一途をたどっています。在宅介護の現場に欠かせない存在として、ショートステイへの期待は今後ますます高まっていくことが予想されます。
ショートステイへのニーズが高まる一方で、サービス提供体制の整備状況は地域によって大きく異なるのが実情です。ショートステイを実施する施設・事業所の数や定員には、かなりの地域差が見られるのです。
特に顕著なのが、大都市部とそれ以外の地域との違いです。東京や神奈川、大阪など大都市圏では、高齢化の進展に施設整備が追いつかず、ショートステイの空き状況が慢性的に逼迫しているケースが目立ちます。
典型的な「介護難民」問題の一つの表れと言えるでしょう。
さらに、利用者の経済的な事情も無視できない要因の一つです。ショートステイの利用には、先述の通り、一定の自己負担が発生します。年金収入のみの高齢者世帯にとって、頻繁な利用は経済的な負担が大きいのが実情です。
利用料の安い施設を選ぶ傾向が強まれば、相対的に利用料の高い有料老人ホームなどでショートステイの空き枠が目立つ結果にもつながります。
いずれにしても、各自治体には、地域の実情に即したきめ細かなショートステイ整備計画が求められていると言えるでしょう。サービスを必要とする人に必要なサービスが行き届く地域づくりを目指し、自治体や事業者、地域住民が一体となって取り組む体制の構築が急務だと考えます。
ここまで見てきたように、ショートステイは、在宅介護を支える重要なサービスとして不可欠の存在感を示しています。家族介護者の負担を軽減するレスパイトとしての役割から、看取り期の利用者を支える役割まで、その守備範囲は実に広いと言えます。
介護が必要になっても、できる限り住み慣れた自宅で暮らし続けたい。多くの高齢者がそう望んでいることは、これまでの調査データから明らかになっています。しかし、その実現のためには、在宅介護を下支えするさまざまなサービスの存在が欠かせません。
ショートステイは、そうした在宅介護の支援ネットワークの中で、大きな役割を担っているのです。
とりわけ、在宅医療を必要とする重度の要介護者にとって、ショートステイの存在意義は計り知れません。医療と介護のはざまにある高齢者を支えるサービスとして、その重要性は年々高まっています。
在宅医療を受ける要介護高齢者の数は急速に増加している中で、医療ニーズの高い要介護者を在宅で支える上で、ショートステイが果たすべき役割は非常に大きいと言えます。
特に、介護老人保健施設(老健)や介護医療院など、医療機能を併せ持つ施設でのショートステイは、在宅療養者の命綱とも言うべき存在です。
医療依存度の高い利用者を積極的に受け入れ、状態の変化に迅速に対応しつつ、在宅復帰に向けた支援を行う。こうした施設の役割に、今後ますます注目が集まるのではないでしょうか。
医療・介護の専門職がチームとなって、利用者と家族に寄り添うことで、在宅での看取りをサポートする。そんな新しいショートステイの姿が、これからの超高齢社会を支える礎となっていくのかもしれません。
2025年には、いわゆる「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となり、医療や介護のニーズが飛躍的に高まることが見込まれているのです。
こうした超高齢社会を見据え、国は地域包括ケアシステムの構築を掲げています。住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供することで、たとえ介護が必要な状態になっても、できる限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができる地域づくりを目指す。
そんな理念の下、各地で地域包括ケアシステムの実現に向けた取り組みが進められています。
その中で、ショートステイには、在宅サービスと施設サービスを結ぶ「架け橋」としての役割が期待されているのではないでしょうか。医療・介護・予防・生活支援などを切れ目なく提供するためには、そのつなぎ目となるサービスが不可欠だからです。

ショートステイは、在宅と施設を結ぶ懸け橋としての役割を持つ
ショートステイは、在宅サービスでは対応しきれないケアニーズを、施設サービスに引き継ぐ重要な結節点。逆に、病院や施設から在宅復帰する際の中継ぎ点としても、大きな役割を果たすことができるはずです。
そう考えると、これからのショートステイには、サービスの量的な拡大だけでなく、質の向上も強く求められることになります。地域包括ケアの一翼を担うサービスとして、より高品質で専門的なケアを提供できる体制の構築が必要となるでしょう。
そのためには、まずケアの担い手となる人材の育成・確保が欠かせません。介護職や看護職をはじめ、リハビリ専門職や管理栄養士、ケアマネジャー(介護支援専門員)など、多様な専門人材の量と質を高めていくことが重要です。
処遇改善はもちろん、キャリアアップの仕組みづくりや働きやすい職場環境の整備など、人材の定着・育成に向けた取り組みを強化していく必要があります。
制度面での対応はもちろん、現場レベルでの地道な取り組みの積み重ねが何より大切だと考えます。全国各地のショートステイ現場で、利用者本位のサービス提供を目指した創意工夫の取り組みが日々行われています。
そうした先進事例に学びながら、地域の関係者が手を携えて、これからのショートステイのあり方を模索していく。それが地域包括ケアの実現につながる道筋ではないでしょうか。
超高齢社会の中で、ショートステイへの期待は今後ますます高まっていくことでしょう。変化する時代の要請に応えながら、サービスの進化を遂げていくこと。利用者や家族、そして地域から信頼され、選ばれるサービスであり続けること。
それが、これからのショートステイに期待されていることだと言えるのではないでしょうか。

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