1950年からヘビーピートにこだわり続ける若鶴酒造、ウイスキー最新作「三郎丸IV」はハイランドピートでクリア&スモーキー

若鶴酒造は6月21日、三郎丸蒸留所の東京レセプションメディア発表会を開催。シングルモルトウイスキーの最新作「三郎丸IV THE EMPEROR」を6月27日に発売することを発表した。

三郎丸蒸留所は1950年からスモーキーなウイスキーを作り続けており、コンセプトは「The Ultimate Peat(ピートを極める)」と筋金入りだ。火災からの復旧や大規模改修を経て、2020年からシングルモルトシリーズ「三郎丸」を販売している。1本目がナンバリング「0」なので、今回の「IV」は5製品目となる。

まずは三郎丸蒸留所の紹介から。かつて、日本のウイスキー蒸留所は2015年時点で全国に10カ所と、あまり存在しなかった。三郎丸蒸留所も北陸唯一の蒸留所だったのだが、昨今のウイスキーブームを受けて、現在(2024年6月時点)は稼働予定も入れれば100以上の蒸留所がある。そのため、三郎丸蒸留所は北陸「最古」のウイスキー蒸留所と名乗ることにしたそうだ。

創業は文久2年(1862年)と古い。もちろん、当初は日本酒を作っており、ウイスキーを手がけ始めたのは戦後のこと。当時、米が枯渇して日本酒が作れない状況になったことから、現在の代表取締役CEO、稲垣貴彦氏の曽祖父である稲垣小太郎氏が蒸留酒の研究を始めたという。

1950年当時、ウイスキーは雑酒としてカテゴライズされていたので雑酒の製造免許を取得し、ウイスキー作りをスタートさせた。1952年に酒税法が改正され、ウイスキーの製造免許ができるとそれも取得。そしてウイスキーを作り始めて3年、1953年に「サンシャインウイスキー」を発売した。4月に発売したのだが、5月に火災が発生して施設が全焼。しかし、地元の助けを借りて半年もかからずに復興した。

現在の稲垣貴彦CEOは若鶴酒造の5代目。大学の卒業後はIT企業に勤務していたが、2015年に富山に戻った。そのとき、曽祖父が作ったウイスキー(三郎丸1960の原酒、1960年蒸留)を飲んで感動し、ウイスキー作りを引き継ごうと思ったという。

しかし、蒸留所の設備や建物は老朽化しており、このままではウイスキー作りを続けることは難しいと考え、改修することにした。当時はまだメジャーではなかったクラウドファンディングに挑戦。3,800万円を超える支援を集め、蒸留所を生まれ変わらせた。

新しい蒸留所は見学もできるようにして、日本全国に加えて海外からも人が訪れるように。以前は年間で1万人前後だった見学者は、コロナ禍でいったんは少なくなったものの、2023年には2万8,500人と、コロナ禍以前と比べて約3倍にもなっている。

○ウイスキーを蒸留する装置、鋳造製ポットスチル「ZEMON」とは

三郎丸蒸留所といえば、世界初となる鋳造製ポットスチル「ZEMON」が特徴だ。通常のポットスチルは銅板を叩いて伸ばし、溶接して作るのだが、銅板が薄いために20~30年使うと穴が開いてしまうことがある。鍛造のZEMONは厚みを2.5倍ほどにでき、寿命を格段に伸ばせる。材料に銅とスズを使っているので、酒質がまろやかになる効果も。加えて短納期とコストダウンも実現しているなど、いいこと尽くめだ。

熱伝導率が小さいこともメリットだと話す。従来のポットスチルは銅で作られており、熱伝導率が高かった。これは、火でポットスチルを熱して蒸留しているからだ。現在は、ポットスチル内のチューブに蒸気を流して間接加熱するタイプが多く、この場合は外部からの熱伝導率は関係ない。それどころか、熱伝導率が小さければ、熱を効率的に利用できるメリットも出てくる。

三郎丸蒸留所は「ZEMON」を導入したことによって、従来の蒸留機よりもエネルギー換算で蒸留効率が88%もアップしたそうだ。CO2排出量が約半分になるという効果が得られたのだ。

「1950年から、できるだけピートの強いウイスキーを作るところだけは伝統的に守ってきました。私もそういったウイスキーが好きなので、『ピートを極める』ことをコンセプトにしてます。私がここに戻ってきた当時の売上は4億円ぐらいだったのですが、ウイスキー事業がそこから15倍成長しまして、今では日本酒の売上を逆転しました」(稲垣氏)

現在の三郎丸蒸留所にはレストランも併設されており、味や香り、蒸留所から出る音や熱など、五感で楽しめるようになっている。JRの最寄駅(JR城端線 油田駅)から徒歩1分という立地もよく、見学者も気軽に訪れることができる。海外からは特に台湾の方々が多いとのこと。

「ピート」とは泥炭のことで、ウイスキーの原材料となる麦芽を乾燥させるときに利用する。そのときに燻した香りが麦芽に付くことによって、ウイスキーにあのスモーキーな香りが生まれるのだ。「樽の内側を焼いているからスモーキーなウイスキーになると言われることもありますが、それは間違いです」と稲垣氏。

ピートは植物が炭化したものだが、元の植物によって燃やしたときの香りは異なる。例えば、アイラ島(スコットランド)のピートは湿度のある海風のようなしっとりとした印象で、内陸であるハイランドのピートはカラッとした分かりやすいスモーキーさとフルーティーさが特徴だ。

三郎丸蒸留所では、2020年にアイラ島のピートだけを使った原酒と、ハイランドのピートだけを使った原酒を作った。2023年11月にアイラ島ピートを使ったウイスキーを「三郎丸III THE EMPRESS」として発売し、今回はハイランドピートを使った「三郎丸IV THE EMPEROR」を発売するというわけだ。この2製品は使っているピート以外はまったく同じ条件で仕込んでおり、ピートの違いを純粋に味わえる珍しいシリーズとなっている。

商品名にある通り、三郎丸シリーズにはタロットカードの名前が。世代順に、「三郎丸0 THE FOOL」、「三郎丸I THE MAGICIAN」、「三郎丸II THE HIGH PRIESTESS」と、タロットカードのタイトルが付けられている。

「タロットには若き魂の旅というテーマがあります。蒸留したてのウイスキーは無色透明で、いわゆるスピリッツの状態です。そこから3年間の熟成を経てウイスキーになります。この若きスピリッツが色々な経験をしながらウイスキーになるという意図を、タロットのシリーズに込めています」(稲垣氏)

ウイスキーの熟成に使う樽は、バーボン樽がメイン。再利用するとき、一般的には樽の内側を炎で焦がすリチャーリングという作業をするのだが、三郎丸蒸留所では行っていない。その代わりに、樽の内面をゆっくりと加熱処理するトースティングを行っている。

「三郎丸IV THE EMPEROR」は2種類が発売される。通常版のアルコール度数は48%で、ボトリング本数は1万2,500本。希望小売価格は1万5,400円となる。

もうひとつの「三郎丸IV THE EMPEROR カスクストレングス」は、カスク(樽)の強さ、つまり樽出しのウイスキーをそのまま詰めたもの。水を加えていないので、アルコール度数は60%と高く、価格は2万900円。こちらはオンラインショップ「私と、ALC.」会員限定抽選販売となる。

発表会では「三郎丸IV THE EMPEROR」と「三郎丸III THE EMPRESS」をテイスティングさせてもらった。同じ条件で作られ、使っているピートのみ違うウイスキーを並べて飲む機会はめったにない。

ハイランドピートの「三郎丸IV THE EMPEROR」はもちろんスモーキーでウッディだが、さわやかなイメージで果実味や甘やかな印象。味わいは香りのイメージ通りで、パワフル。オイリーでうまみたっぷり。

アイラピートの「三郎丸III THE EMPRESS」はスモーキーでソルティ。パワフルでスパイシー。ウッドのバニラ感も強め。味わいは柑橘味もありながら、ビターな感じが楽しい。

どちらも、たった3年の熟成期間とは思えないほど美味しい。これが、「ZEMON」に使われているスズの効果なのであれば、発明といっていいのではないだろうか。ウイスキー好きであれば、ぜひ試して欲しいところ。数量限定品なので、発売されたらなるはやで手に入れることをおすすめする。

柳谷智宣 やなぎや とものり 1972年12月生まれ。1998年からITライターとして活動しており、ガジェットからエンタープライズ向けのプロダクトまで幅広い領域で執筆する。近年は、メタバース、AI領域を追いかけていたが、2022年末からは生成AIに夢中になっている。 他に、2018年からNPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立し、ネット詐欺の被害をなくすために活動中。また、お酒が趣味で2012年に原価BARを共同創業。 この著者の記事一覧はこちら

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする