厚生労働省は5日、2023年の人口動態統計を発表。1人の女性が生涯で産む子どもの数の指標となる「合計特殊出生率」が全国で「1.20」と過去最低になった。
都道府県別にみても軒並み下降し、特に東京都は0.99と1を割り込んだ。
各市区町村も少子化対策には知恵を絞ってはいるが……。
「東京都港区の『電子スマイル商品券(港区子育て応援分)』は子1人あたり5万円分がデジタル商品券として支給されますが、『主人がビール券として使ってしまった』という主婦の声を聞きました」(全国紙社会部記者)
山口県や鹿児島市などでは男性の家事・育児参加を促進するイクメン育成プロジェクトを実施。また山口県周防大島町では、みかん鍋を囲んでの婚活イベント「鍋婚」などで結婚を後押し。全国各地で行われる少子化対策が一向に数字に結びつかないのだ。
そんななか、少子化対策を強化する「改正子ども・子育て支援法」が5日、参院本会議で可決・成立。
「岸田首相が言った『異次元の少子化対策』の目玉『加速化プラン』として、第3子以降の児童手当月額3万円などが盛り込まれました。
しかし公的医療保険に上乗せして国民から徴収する支援金も成立したため、『少子化対策を囮にした徴税だ』と批判が」(前出の記者)
この支援金は2026年度から健康保険などに上乗せされる。
「岸田首相は『賃上げなどによって国民の負担軽減を図る』などとしましたが、実質賃金は2023年度の月平均で前年度比2.2%減と、多くの国民は“賃下げ”状態。
そもそも、同法を推進したこども家庭庁は昨年度、約5兆円もの予算を組みましたが、同年の出生率が今回、過去最低の結果として明るみに。血税が“異次元の水泡”と化したんです」(同記者)
どうして国民の血税をつぎ込む少子化対策が、こう的外れなのか。
家族社会学の権威であり、中央大学文学部教授の山田昌弘さんは、次のように分析する。
「未婚の女性や、特に若い世代の女性には、『収入が高くない男性と結婚したくない』という心理傾向があると思われます。
25~34歳までの未婚女性に『結婚相手に求める年収』を聞いた調査(朝日新聞の2018年世論調査)で最も多かった回答は『400万~599万円』で41%もいました」
一方、「現実の未婚男性の年収」を調べた明治安田生活福祉研究所のレポート「生活福祉研究74号」では、20~39歳の未婚男性の半分以上が年収399万円以下。
「女性の親にすれば、結婚前から『共働きでやっていきなさい』と言いづらいものでしょう。親子で『そういう人が現れるまで……』と待ち続けながら、年を取っていってしまう。『年収400万円以上』というのは、現実のハードルとして高すぎるんです」(山田さん)
人口動態調査でも、2023年の婚姻件数は約47万組と減少の一途。
この「結婚するカップルの数を増やすこと」も大事だが、「少子化対策としては、結婚している夫婦から生まれる子の数を増やすのも重要では」と話すのは法政大学経済学部教授の小黒一正さんだ。
「日本で生まれる子の約98%が、結婚している夫婦から生まれます。その有配偶出生数は1970年代からほぼ『2』をキープしており、『結婚している夫婦からは約2人の子が生まれる』といえるでしょう」
■第3子以降に支援する出産一時金を1千万円に
結婚する女性の割合は小黒さんの見立てで現状約60%だという。
それがもしも約80%まで引き上げられたとしても、夫婦から生まれる子の数が2のままなら「合計特殊出生率は1.6あたりまでしか上がらない」と小黒さん。
一方、結婚する割合が約60%から増えないとしても、
「夫婦から生まれる子の数が3に増えれば合計特殊出生率は1.8まで上がり、さらに夫婦から生まれる数が3.5に増えれば、同率は2を超える計算に」(小黒さん)
とはいえ現実の生活を考えれば、夫婦が3人目の子を持つハードルは高そうなのだが、「そこからが、異次元の少子化対策なんです」と小黒さんは次の提案をする。
「岸田内閣が42万円から50万円に引き上げた出産育児一時金を、第3子以降は1千万円に引き上げる施策です。結婚している夫婦からは2人生まれるのが現状ですので、1千万円プラスされることで、『3人目を持とう』という夫婦は飛躍的に増えると思います」
ただ、それこそ財源が足りないのではないか……。
「今回法制化された加速化プランの『児童手当の拡充』は、第3子以降月額3万円支給で、その子が高校卒業までに最大で合計約650万円支給される見込みですので、1千万円も荒唐無稽ではない。
この施策で年間10万人出生数が増えればそれだけで成果ですが、支出は1兆円ですむ。加速化プラン3.6兆円の枠にも収まるんです」(小黒さん)
本当の意味での「異次元の少子化対策」が必要だ。