ウクライナへの「超ビッグな贈り物」実際どう使う? ロシア激おこ必至「絶対墜とす」 早期警戒管制機を手にした意味とは

2024年5月下旬、スウェーデンが早期警戒管制機をウクライナに供与すると発表し、世界を驚かせました。見た目こそ地味ですが、現代戦では戦闘機ウン十機ぶんの価値があるとも言われます。そのため運用にはかなり注意が必要な模様です。
2024年5月29日、スウェーデン政府はウクライナへの大規模な軍事支援パッケージを発表し、国際社会を驚かせました。その目玉となったのが、戦闘機の供与に匹敵ないし、もしくはそれ以上の意義を持つ早期警戒管制機S100D「アーガス」2機の供与です。
S100DまたはSAAB 340 AEWと呼称される「アーガス」は空中および海上の索敵が可能なASC-890「エリアイ」レーダーシステム(推定探知距離300~400km)を搭載し、レーダー操作員と友軍航空機を誘導する管制官、そして指揮官が乗務する、いわゆる「AWACS(空中警戒管制機)」ないし「AEW&C(早期警戒管制機)」と呼ばれる航空機です。
ウクライナへの「超ビッグな贈り物」実際どう使う? ロシア激お…の画像はこちら >>スウェーデンがウクライナに供与する予定のサーブ100D早期警戒管制機(画像:駐日スウェーデン大使館)。
S100Dは地上のレーダーでは物理的に探知不可能な「地球の丸みの影」となってしまう超低空を含む広い範囲を監視し、また戦闘機を誘導することで航空戦の要となりうる、いうなれば「空飛ぶ司令部」です。これまでウクライナに対して早期警戒管制機を供与した国はありませんでした。
S100Dそのものには戦闘能力はありませんが、非常に強力な空中目標探知能力を有しています。また「リンク16」と呼ばれる戦術データリンクを通じ、同じネットワーク内に存在する味方戦闘機などに、自機がレーダーで探知した情報などをリアルタイムに分配することができます。
この「リンク16」はウクライナ空軍への供与が決まっているF-16戦闘機すべてが標準的に備えています。つまり、同戦闘機ならば早期警戒管制機S100Dのレーダー情報を、あたかも自機みずからで捉えたものと同じように扱える、ということになります。
たとえば、F-16はロシア空軍の主力戦闘機Su-35と比べた場合、機体サイズが小さいため、レーダーアンテナの物理的な大きさによって決まる目標の索敵・探知範囲は短いと考えられますが、リンク16によって情報を得られるのであれば、この欠点は問題にならず、むしろ優位に戦えると言えるでしょう。
現代戦闘機の航空作戦において、早期警戒管制機と同一のデータリンクに入ることができるというアドバンテージは極めて大きく、得られる戦術情報が格段に上がるため、パイロットの状況認識が著しく改善することにつながり、結果、任務の達成率や生存性を数倍にまで引き上げます。
早期警戒管制機の有無というのはこれほどまでに差が出るため、S100Dがあるということはウクライナ軍にとってはかなり有益な一方、ロシア軍としては最優先で破壊すべき重要ターゲットとなることは間違いありません。
Large 240531 s100d 02
スウェーデン製の早期警戒管制機S100D。ベースはサーブ340という双発のプロペラ式旅客機(画像:サーブ)。
ロシア空軍は、伝統的に早期警戒管制機に対する攻撃能力の拡充を重要視してきた経緯があり、複数の対抗手段を持っています。たとえばMiG-31戦闘機などに搭載されるR-37M長射程空対空ミサイルの推定射程距離は300kmありますが、これは前出のサーブS100Dのレーダー探知距離に匹敵するものです。また、地上部隊が運用するS-400地対空ミサイルシステムの射程も300km以上とされます。
ロシア空軍は2024年の1月と2月に、自軍の早期警戒管制機A-50「メインステイ」をたて続けに1機ずつ計2機、ウクライナ空軍の地対空ミサイルによって撃墜される大損害を被っています。ということは、ウクライナ空軍がS100Dの運用を始めれば、その復讐に燃えるであろうことは想像に難くありません。
ゆえに、S100Dを有効活用するため前線近傍に進出させようとするなら、ロシアの長距離ミサイルの脅威にさらされるのは間違いないでしょう。
Large 240531 s100d 03
ロシア空軍が運用する早期警戒管制機A-50。2024年1月と2月に、立て続けにウクライナ軍のミサイル攻撃によって喪失している(画像:ロシア国防省)。
一方、ポーランドやルーマニアなどNATO(北大西洋条約機構)諸国の領空にとどめておくのであれば、安全は確保できるでしょうが、そうなると国土の半分しかカバーできません。
またNATOは大型でより高性能なE-3早期警戒管制機による索敵情報の提供を既に行っていると推測されるため、もしNATO諸国の領空にとどめておくとなると、運用するメリットは限定的になってしまいます。
筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)が考えるに、おそらくウクライナ側はS100Dを自国上空ながら比較的安全な西側空域で本土と前線防空のために警戒に就かせるのではないでしょうか。
そうなると、S100Dの運用を開始した後は、今度はウクライナが早期警戒管制機を用いた防空戦術を改めて策定する必要に迫られるはずで、その作り込みが同国にとって今後の課題になると思われます。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする