幕張メッセで開催された「建設・測量生産性向上展」で、建機大手のタダノが完全電動のEVラフテレーンクレーンを展示しました。電動化は静粛性や排ガスゼロ以外のメリットも多々あるほか、実は自家用車よりもEVに向いているそうです。
千葉県の幕張メッセで2024年5月22日から24日まで行われた建築業界向けの展示会「CSPI-EXPO2024」に、建設機械大手のタダノがフル電動ラフテレーンクレーン「EVOLT eGR-250N」を展示しました。
ラフテレーンクレーンとは、ひとつの運転席で、走行とクレーン操作が行える車両です。従来のラフテレーンクレーンは、トラックや油圧ショベルなどと同じく、ディーゼルエンジン搭載が主流でした。
しかし近年、地球環境への負荷を減らすためにあらゆるモノの電動化が進んでいます。その流れは交通として利用される自動車のようなモビリティー分野だけでなく、建築現場で使われる重機にも及んでいます。
クレーン車はイチバン“EV化向き”? 世界初の電動クレーン車…の画像はこちら >>フル電動ラフテレーンクレーン「EVOLT eGR-250N」の車体正面。電動化されているが、車体自体はディーゼルエンジン方式の「GR-250N」と同じものが使われている(布留川 司撮影)。
今回出展された「EVOLT eGR-250N」(以下eGR-250N)は、前述したような従来型のラフテレーンクレーンを完全電動化したもので、世界初になるそうです。同車は2軸4輪で、一般道を自走でき、クレーンとしての能力も最大吊り下げ性能は25t、最大地上揚程が44.2mもあり、そのスペックは同クラスのディーゼルエンジン仕様と同等になっています。
また電動化には騒音低減のほかにもメリットがあります。クレーン作業と走行時の騒音が減るのはもちろんのこと、モーター駆動だからこそ走行時の加速がスムーズで、渋滞時の加減速、頻繁に「ストップ・アンド・ゴー」を行うような場面でも、ドライバーがストレスを感じにくいといいます。
とうぜん、完全電動化したことで排気ガスもゼロになったので、アクセルを踏み込んだ際なども黒煙が出るようなことはありません。このように、「eGR-250N」は完全電動化によって二酸化炭素排出ゼロを実現したクリーンな建機といえますが、純粋な道具としての利便性はどうなのでしょうか。
乗用車やトラックを中心に進められているEV(電気自動車)化では、最大のネックになっているのがバッテリー容量による走行距離の制限と充電時間の長さです。環境への配慮も大事ですが、建機の場合はその能力が従来のディーゼル車と比べて劣っていては本末転倒だといえるでしょう。
メーカー担当者の説明によると、「eGR-250N」はクレーン作業だけなら約11時間の作業が可能で、走行のみの場合は約70kmの移動ができるそうです。
しかし、ラフテレーンクレーンの実際の運行では、車両基地から現場までの往復と現場でのクレーン作業が連続して行われます。メーカーでは具体的な運行の目安として「約5時間のクレーン作業」と「約42kmの移動」を挙げており、これが一度の充電で稼働可能な「eGR-250N」の上限となります。
なお、メーカー担当者によれば、この数値は同種のラフテレーンクレーンによる実際の運行データを参考にしており、そこで出た平均的な1日の移動距離20~30kmというのを目安にしているのだとか。そのため、前出の走行可能距離約42kmという数値はこれを充分にクリアしているそうです。
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タダノが2023年12月より販売を開始したフル電動ラフテレーンクレーン「EVOLT eGR-250N」(画像:タダノ)。
また、通常のEV車と異なり、電動クレーンは現場で充電をしながら作業することも問題ないといいます。「eGR-250N」では、市販の電気自動車が用いるCHAdeMO(チャデモ)方式の急速充電が可能で、その場合は約2.5時間で満充電できます。一方、AC200ボルトのいわゆる三相商用電源を使った通常充電の場合は約8時間で満充電可能です。
ちなみに、後者は工事現場で他の建機にも使われているため確保しやすく、充電しながらクレーン操作を行うプラグイン状態の作業も可能です。メーカー担当者も「現場で充電を行えばそれだけ長くクレーン作業を行うことができますし、移動で消費したバッテリー電力を現場で充電・回復させることも可能です。充電とバッテリー消費に関しては運用しだいで対応できるため、この電動クレーンは非常に使えるモノだと思います」と説明していました。
どんな現場でも確実に電源設備を確保できるとまでは言い切れませんが、それでも一般のEV車と比べて運用面でバッテリーの消費を抑えることが可能なのは、建機ならではの特徴といえるでしょう。
とはいえ、EV化にはとうぜんながらデメリットもあります。「eGR-250N」の場合、最も負担が大きくなるのは導入コストで、販売価格は1台あたり約1億4800万円(税別、装備品等により価格は異なる)にもなります。これは、ディーゼルエンジン仕様の同クラスのラフテレーンクレーンの3倍にもなる金額です。
ランニングコストについては、モーター駆動ゆえにディーゼル車と比べてメンテナンス回数が少なくなり、電気使用料金については地域や契約によって異なるため純粋な比較が難しいそうですが、目安としては燃費と同等かそれよりも安くなるとのこと。全体的に見ればEVクレーンはディーゼルクレーンよりもランニングコストの面では安く済むようです。
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タダノが2023年12月より販売を開始したフル電動ラフテレーンクレーン「EVOLT eGR-250N」(画像:タダノ)。
車両本体価格が高いため、現時点では販売よりもリース(タダノでは従来のリースとは異なる方式のため賃貸と呼称)契約の方が多いものの、「eGR-250N」はすでに複数の現場で稼働しているとのハナシでした。
今後は、この車両の開発で得たノウハウを元に新たなEV建機の開発も見据えており、メーカー担当者もハイブリッドや水素(燃料電池)といった他の駆動方式による新モデルの開発に前向きな発言をしていました。
技術革新が着々と進んでいる建機業界。近い将来、異なる分野の非ディーゼル建機が同社から実用化されているかもしれません。