[社説]同性カップル事実婚表記 権利保障へ重要な一歩

長崎県大村市が、男性の同性カップルに対し、続柄欄に事実婚関係を示す「夫(未届)」と記載した住民票を交付した。
男女間の事実婚と同様の表記が認められたことになる。性的少数者の権利擁護につながる重要な一歩だ。
住民票の続柄は世帯主から見た関係で、同性カップルの場合、「世帯主」と「同居人」または「縁故者」と記載するのが一般的とされる。
異性間の事実婚では、「世帯主」と「夫/妻(未届)」と表記されてきた。
事実婚関係を示す住民票を受け取ったのは、3月に大村市に移り住んだ男性カップル。
別々だった世帯の合併を申請した際、住民票の続柄を「夫(未届)」にしたいと市に相談した。
スムーズに進んだわけではないが、市のパートナーシップ宣誓制度にも登録する2人の関係が「内縁の夫婦に準ずる」と判断された。
園田裕史市長は「自治事務として市の裁量の範囲内で対応した」と説明する。
そもそもパートナーシップ制度は、腰が重い国に代わって、住民に近い自治体が同性カップルを公的に認めてきた制度である。
住民の声に耳を傾け、生活実態に即し対応した結果、風穴が開いた形だ。
2人は「認められなかった権利が認められていく突破口になる」と喜ぶ。
ありのままの生き方を尊重し保障する動きが、また一つ広がった。
■ ■
大村市に続いて、栃木県鹿沼市も同性カップルに事実婚の表記適用を決めた。鳥取県倉吉市も同様の対応をしている。今後、他の自治体にも広がりそうだ。
問題は社会保険の扶養に入れるなど事実婚の異性カップルと同様の法的メリットを享受できるかである。
大村市の男性カップルは、事実婚の場合に認められる年金の手続きなどを進める意向だという。
一足飛びにはいかないにしても、平等に扱うべきだとの動きを後押しする力になるだろう。
松本剛明総務相は記者会見で「市から事情を聴き、その状況を踏まえて対応を検討したい」と述べた。
住民票の記載は自治体の責任で行う自治事務だ。当事者に寄り添うサービスの一環であり、多様性尊重の流れに水を差すようなことがあってはならない。
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性的少数者の権利保護を重視する司法判断が相次いでいる。
今年3月、札幌高裁は婚姻の自由を定めた憲法24条1項に関し「同性間も保障する」とし、同性婚を認めない民法などの規定を違憲とした。
さらに最高裁は同月、「犯罪被害者給付金」支給対象の事実婚に同性パートナーも該当し得るとの判断を示した。
日本は先進7カ国で唯一、同性婚や国レベルのパートナーシップ制度を導入していない。
政府も国会もいつまで放置するつもりなのか。法整備を前に進める時だ。

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