延命治療とは何か?意味や内容、終末期医療での選択肢を知ろう

延命治療とは、病気や怪我などによって回復の見込みがなく、死期が近い患者に対して、生命維持や余命の延長を主な目的として行われる医療行為のことを指します。
重篤な状態にある患者の命を少しでも長らえるため、人工呼吸器や胃ろう、点滴などの医療技術を用いて生命維持を図ります。一方で、延命治療を行う際は、単に生存期間を延ばすだけでなく、患者の苦痛をできるだけ和らげ、残された時間をその人らしく過ごせるようQOL(生活の質)の維持・向上にも配慮することが重要です。
2023年に実施された「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」によると、病気で治る見込みがないと診断された場合、57.2%が抗生剤の服用や点滴による延命治療を望むと回答しています。
延命治療に対するニーズは一定数あるものの、本人の意思を尊重しながら、その人らしい最期の時間を過ごせるよう支援していくことが重要だと言えるでしょう。延命治療とは何か?意味や内容、終末期医療での選択肢を知ろうの画像はこちら >>
延命治療には大きく分けて、呼吸を助ける治療、栄養を補給する治療、全身管理のための治療などがあります。
呼吸を助ける代表的な治療としては、人工呼吸器があります。気管切開などを行い、人工呼吸器を使って呼吸を助けます。
栄養補給については、口から食べられない場合に鼻から管を通す経鼻栄養や、胃に直接穴を開ける胃ろうによって栄養を摂取します。そのほか、心臓マッサージや薬物投与による心肺蘇生、透析療法なども延命治療に含まれます。
前出の意識調査では、呼吸困難時の人工呼吸器使用を望まない人の割合が一般国民で57.3%、医師で80.8%、看護師で87.6%、介護支援専門員で79.7%となっており、医療・介護の専門職ほど人工呼吸器の使用には慎重である様子がうかがえます。
呼吸困難時に人工呼吸器使用を望むか
延命治療の内容や目的、メリット・デメリットを理解し、患者本人の意向を十分に踏まえた上で選択することが大切です。
延命治療と混同されやすい言葉に「緩和ケア」があります。しかし、これらは延命治療とは異なる概念です。
WHOによれば、緩和ケアとは「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処を行うことで、苦しみを予防し和らげ、QOLを改善するアプローチ」と定義されています。
つまり、痛みなどの苦痛症状を和らげることに主眼が置かれた医療・ケアと言えます。
一方、日本老年医学会によると、終末期のケアとは「痛みやその他の身体的症状を和らげるのみならず、患者の心理的・精神的な要求を真摯に受けとめ、援助し、患者のQOLを維持・向上させる医療およびケアである」とされています。
人生の最終段階にある患者の身体的・精神的な苦痛を取り除き、最期まで尊厳を持ってその人らしく過ごせるよう、全人的なケアを行うことが重視されています。
このように緩和ケアは、延命そのものを目的とはせず、あくまで患者のQOL向上を主眼に置いたケアであると言えます。患者・家族の希望や価値観を十分に尊重し、最善の医療・ケアの選択につなげていくことが重要となります。
終末期の患者に対する延命治療をめぐっては、治療開始の是非だけでなく、開始した治療をいつまで継続するか、あるいは途中で治療を中止・変更するかなど、さまざまな選択が必要になります。
そうした局面において、患者の価値観や希望を十分に尊重しながら意思決定を支援していく取り組みとして重要なのが「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」です。
アドバンス・ケア・プランニングとは、患者と医療・ケアチームとが、将来の医療・ケアについて話し合いを重ね、患者本人の意思をまとめ、共有するプロセスを指します。
前出の意識調査では、アドバンス・ケア・プランニングについて「よく知っている」「聞いたことはあるがよく知らない」と回答した一般国民の割合はあわせて27.4%、医療・介護従事者では約半数が「よく知っている」と回答しています。
ACPの認知度
一般への認知はこれからですが、終末期における患者の意思を尊重する上で重要なプロセスと言えるでしょう。
患者の意向を事前に把握し、治療の選択肢について話し合いを重ねていくことで、その人らしさを大切にした意思決定支援につなげていくことが求められます。
患者本人の意思をあらかじめ示す文書として知られているのが「事前指示書(リビング・ウィル)」です。延命治療に関する希望などを事前に文書にしておくことで、本人が意思表示できなくなった際の医療・ケアの指針となります。
このような事前指示書を作成しておくことは、患者の自己決定権を尊重し、その人らしい最期を迎えるために重要な手段の一つと考えられています。

事前指示書の作成は本人の意思の尊重につながる
しかし、現状では事前指示書には法的拘束力がないのが実情です。前出の意識調査でも、事前指示書の作成には一般国民の69.8%、医療・介護従事者の8割以上が賛成しているのに対し、それに従った治療を法律で定めることについては「定めなくてもよい」「定めるべきでない」との回答が大半を占めました。
事前指示書を法制化することへの慎重論が根強いのは、文書の作成時と実際の治療開始時とでは患者の意思が変化している可能性が考えられるためです。また、家族の総意と異なるケースも想定されます。人生の最終段階では、様々な要因が絡み合って意思決定が難しくなるケースも少なくないでしょう。
こうした現実的な課題を踏まえ、事前指示書の一律の法制化には二の足を踏む向きが多いようです。
そのため、専門家からは事前指示書の作成と併せて、患者・家族と医療者との継続的な対話を重ねる重要性が指摘されています。
画一的な文書の適用ではなく、そのときどきの患者の意向を丁寧に汲み取りながら、臨機応変に臨床判断を行っていく柔軟な姿勢が欠かせません。
つまり、リビング・ウィルはあくまで意思決定プロセスにおける「対話のツール」の一つとして位置付けるべきだというのです。
事前指示書の作成をゴールとするのではなく、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を通じて患者の意思をくみ取り、寄り添っていく継続的な支援のあり方が改めて問われていると言えるでしょう。
単に書面を残すだけでなく、対話を重ねるプロセスそのものに意味があるのです。
超高齢社会を迎えた日本において、本人の意思を尊重した望ましい延命治療の選択のあり方が問われています。
事前指示書の役割と課題について社会的な理解を深めると同時に、ACPの理念を広く共有し、様々な立場の人々が対話を重ねていく必要性が高まっていると言えるでしょう。
患者本人の意思が確認できない場合、誰がどのように治療方針を決定するのが良いのでしょうか。
前出の調査では、意思決定できなくなったときに方針を決めてほしい・決めることができると思う人として「家族」を挙げる割合が9割以上と最多でした。
自分の意思決定ができなくなったときに医療・ケアの方針を決めてほしい人
家族等による代理意思決定に対する期待の高さがうかがえます。
ただし、代理意思決定を行う際のポイントは「本人の推定意思の尊重」だと言われています。家族の考えを押し付けるのではなく、あくまで患者の人生観・価値観に基づき、「本人ならどうしてほしいと望むか」を慎重に判断することが重要です。
そのためにはアドバンス・ケア・プランニングのプロセスの中で、延命治療に対する本人の考えを丁寧に引き出し、家族とも共有しておく必要があります。
何より日頃から本人の思いに寄り添い、望む生き方・逝き方について率直に語り合える関係性を築いておくことが、本人の意思を反映した適切な代理意思決定の助けになるはずです。
近年、特別養護老人ホームなどの高齢者施設でも、入所者の状態悪化時に延命治療をどうするかが問題となっています。従来、介護施設は「看取りの場」との位置づけが強かったのですが、実際には入所者の状態や家族の意向によっては、積極的治療を望むケースも少なくないのが実情のようです。
各施設では入所者の意向を踏まえつつ、施設の方針や医療・看護体制なども考慮しながら、個別に対応を検討しているのが現状だと言えそうです。看取りを基本方針としつつ、状況に応じて他機関への搬送や医療機関への移送など、柔軟な選択肢を用意しておくことが求められます。
介護施設のスタッフにとって、入所者本人の意思決定支援の難しさは大きな課題となっています。
アルツハイマー型認知症などで本人の意思確認が難しいケースも少なくないため、どこまで本人の真意を汲み取れているのか、日々悩みながら対応しているのが実情です。
家族の意向との折り合いをつけるのも容易ではありません。前出の意識調査でも、介護支援専門員の72.4%が「人生の最終段階にあるという状況を、患者・利用者本人や家族が受け入れられない」点を、本人との話し合いの難しさとして挙げていました。
延命治療をめぐる意思決定プロセスでは、本人・家族それぞれの心情にも配慮しつつ、チームで連携して支援していく必要があります。
医療従事者による助言を得ながら、多職種でアドバンス・ケア・プランニングを推進し、継続的に対話を重ねていくことが重要だと考えられます。
今後、介護施設が延命治療への対応を検討する上では、まず施設としての基本方針を明確にしておくことが欠かせません。入所者や家族に施設の考え方をきちんと説明した上で、個別の意向に沿ったケアを模索していく必要があります。
そのためにも、延命治療に関する指針やマニュアルを整備し、職員全体で共有を図ることが重要です。ただし、画一的・硬直的な運用は避けるべきでしょう。あくまで入所者一人ひとりの個別性を尊重し、本人・家族の意向を十分に踏まえることを大前提とすべきです。
加えて、職員に対する教育・研修の充実も欠かせません。意思決定支援のスキルを高め、倫理的な判断力を養っていくことが求められます。単に知識の習得だけでなく、事例検討などを通じて現場で生じる困難にチームで取り組む姿勢を育んでいくことも大切だと言えるでしょう。
前出の意識調査では、人生の最終段階における医療・ケアの充実のために「医療・介護従事者への教育研修」の必要性を感じると回答した介護支援専門員は54.6%に上っています。現場の切実な要望と受け止め、行政や関係団体などが施設での教育体制の強化を後押ししていくことが望まれます。
また、施設内に「倫理委員会」のような検討の場を設けている例も見られるようになりました。主治医を含む多職種が参加し、ケースごとに倫理的観点から治療方針を話し合う取り組みです。
医療・ケアの方針をめぐって関係者間の意見の相違を感じる経験のある介護支援専門員が3割以上に及ぶ一方、施設内に倫理委員会など相談する体制がない割合が8割近くに上っており、検討の場づくりが進んでいない様子がうかがえます。
倫理的ジレンマを抱え込まず、関係者間で率直に議論できる環境を整えることは、本人の尊厳を守り、チームとしての適切な意思決定を支える上で有効だと考えられます。
以上、延命治療の基本的な考え方と、それをめぐる意思決定支援のあり方、介護施設での対応の現状と課題などについて概観してきました。
人生の最終段階における医療・ケアのあり方が改めて問い直される中、延命治療の是非をめぐる議論は避けて通れない重要テーマの一つです。治療による効果と負担のバランスを見極め、本人の尊厳や価値観を何より大切にする視点を社会全体で共有していくことが求められています。
医療・ケア従事者はもちろん、私たち一人ひとりが人生の最終段階の過ごし方について考え、周囲の人たちと率直に語り合っていく。そうした地道な営みの積み重ねが、本人の意思を尊重した望ましい延命治療の選択につながっていくのだと思います。

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