所得税と住民税を合わせて年間1人当たり4万円を減税する「定額減税」が1日、始まった。
岸田文雄首相肝いりの政策で、過去の税収増を国民に還元し、物価高騰に苦しむ家計を支援する。
消費が低迷する中、経済活性化も狙う。鈴木俊一財務相は会見で「長年染みついたデフレマインドを払拭(ふっしょく)するきっかけをつくる」と述べた。
だが、年間4万円がどれだけの効果を生むだろうか。
2020年度にコロナ対策で実施された1人当たり10万円の特別定額給付金も、多くが消費より貯蓄に回った。
定額減税の対象者は約9500万人で、減税規模は約3兆3千億円に上る。
国債や借入金、政府短期証券を合計した国の借金はことし3月時点で1297兆円を超え、過去最大を更新した。日本は世界有数の「借金大国」である。
こうした財政状況の中で減税に踏み込むべきだったのか。次の世代にツケを回すことにならないか。疑問が残る。
政府は、企業に給与明細への所得税減税額の記載を義務付けた。手取り増を可視化して消費に振り向けてもらい、経済の好循環につなげる措置だという。
派閥パーティー裏金事件で批判を浴びる中、減税を政権浮揚のきっかけにしたいとの政治的思惑が透けて見える。
減税が実際に暮らしや経済を良くしたのか、しっかりと検証する必要がある。
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定額減税は、自治体や企業の事務の煩雑さも批判の的になっている。
納税者がサラリーマンの場合、6月1日以降に支給される給与やボーナスから源泉徴収する所得税を減税額の分だけ差し引く。
住民税は6月分を一律で0円として、自治体が7月から来年5月までの11カ月間で、本来の年間納税額から1人当たり1万円を差し引いた金額を11等分して徴収する。
所得税と住民税の納税額が少なく、世帯全員分の減税額を差し引けない場合は、減税しきれない分を1万円刻みで現金給付する。非課税の低所得世帯には現金給付で対応している。
世帯主の収入によって減税、減税と給付、給付の3通りある。実務を担う自治体の職員からは「事務作業が大変」という悲鳴と共に、手間がかからない給付に一本化した方が良かったという声も上がる。
一時的な減税のために自治体や企業に重い負担を強いている。
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電気料金を抑える国や県の補助金が6月使用分からなくなる。全国大手10社のうち沖縄の上げ幅は616円で前月比で最も大きく、一般的な家庭で月1万円近くになる見込みだ。
定額減税がこうした値上げ分に充てられれば消費喚起の効果は限定的になるだろう。
県民所得が低い沖縄では物価高の影響は甚大だ。エアコンなど電気使用が増える夏場の家計を直撃する。
定額減税は1年限りだ。国や県による何らかの物価高対策が必要である。