昨年8月1日付で教育功労により高齢者叙勲「瑞宝双光章」の授与が発表された元公立小中学校長の男性(当時88)=山武市、今年3月死去=への「勲章」と証書である「勲記」について、千葉県から引き受け男性方に渡すはずの同市が紛失していたことが、千葉日報社の取材で分かった。再発行された勲章は28日、内田淳一教育長から遺族に届けられたが、勲記は再発行できない「国璽(こくじ)」が使われているため、4月に松下浩明市長らが代わりとして「有勲証明書」を渡し遺族に謝罪していた。
山武市などによると、男性は同市内の小中学校の校長などを務め、88歳で高齢者叙勲「瑞宝双光章」の授与が昨年8月1日付で発表された。
勲記と勲章は、県から市に渡り、男性に届けられるはずだったが、体調を崩して今年3月に死去。生前に贈られることはなかった。
亡くなった直後に遺族がせめて葬儀で勲記と勲章を飾りたいと考え、市に問い合わせたところ、市教委職員から「ご家族の方が取りに来られ、お渡し済みです」と説明された。
受け取っていなかったため、再度確認を求めると、その職員は別の案件と勘違いしていたという。男性方には勲記、勲章とも届けられていないと判明した。
市教委によると、勲記と勲章は、職員が昨年9月に県から受け取り金庫に保管。その後、別の職員が市内の男性宅へ複数回行って渡そうとしたが、家族に会えず渡せなかったという。
およそ半年後に遺族からの問い合わせを受け、勲記と勲章を渡すため、市教委が市教委庁舎や市役所本庁舎を探したが見つからず。保管していた金庫が荒らされた形跡はなく、市は山武署に相談した上で盗難ではないと判断。同署へ3月中旬に遺失届を出した。紛失した場所や時期ははっきりしていないという。
国によると、勲章は紛失しても自費で調製が可能だが、勲記は国家の表象としての印章「国璽(こくじ)」が押されていることもあり再発行できず「特例もない」という。市は4月に勲記の代わりとして「有勲証明書」を松下市長ら市幹部らが家族に渡して謝罪。勲章は市が再調製費を出して再発行し、遅れて今月28日に内田教育長らから届けられた。
紛失が判明したのは遺族の問い合わせ後で、昨年夏の授与発表から半年以上が経過。再調製した勲章が届いたのは授与日から約10カ月後だった。生前の直接授与も、葬儀での披露もかなわず。遺族は「(勲記が)出てくるとは思っていない。怒りより、あきれている」と述べ、長年教育界に貢献した功績を認められた父への勲記を受け取れなかったことを悔しがった。
男性の知人の元教育関係者からは憤る声も上がっており、市教委の担当者は「(紛失は)市教委として重く受け止めている。家族の方にはおわび申し上げる」と謝罪した。