2024年4月にデンマークからF-16を購入して超音速戦闘機ゼロの状態は解消されたアルゼンチン。しかし空軍よりも、海軍の方が前々からかなり深刻です。
アルゼンチンは2024年4月にデンマークから中古の戦闘機F-16を購入し、空軍の「超音速戦闘機ゼロ」状態を改善しました。これによって財政難に喘ぐアルゼンチン軍の編成が整ったかというと、そうでもありません、実は空軍以上に状態が悪いかもしれないのが海軍なのです。
空軍にF-16購入も、海軍はマジでヤバイ…? 「金欠の大国」…の画像はこちら >>アルミランテ・ブラウン級駆逐艦(画像:アルゼンチン国防省)。
1982年にイギリスとの間にフォークランド紛争(アルゼンチンではマルビナス戦争)が起きた当時、アルゼンチン海軍は空母「ベインティシンコ・デ・マヨ」とシュペルエタンダールを中心とした空母艦載機を操縦する海軍航空隊、さらに旗艦である軽巡洋艦「ヘネラル・ベルグラノ」以下の駆逐艦や潜水艦、揚陸艦など、多数の艦艇からなる南米有数の海軍を保有していました。
しかし同紛争で「ヘネラル・ベルグラノ」をイギリスの潜水艦に沈められ、紛争後には、経済政策の失敗などが続出し、経済的困窮から国防費も大幅削減されます。そのあおりを受けた海軍は空母「ベインティシンコ・デ・マヨ」を退役させた後、他の空母を保有することができなくなり、他の水上艦艇に関しても資金難で維持できず退役が相次ぐなど、保有艦艇が激減することになります。
最も深刻なのが、潜水艦です。サンタクルス級「サンフアン」が2017年に事故で沈没して以降、稼働中の潜水艦がゼロになっています。同型艦「サンタクルス」は艦籍としては退役になっていませんが、修理途中で保管されている状態で、海軍の潜水艦部隊はペルー海軍に艦を借りて訓練を行う有様です。
アルゼンチン海軍の潜水艦部隊司令部は、新造艦といかないまでも、退役した中古の潜水艦を導入する必要性について訴えています。しかし水上艦の方も深刻になっているので、今度どうなるかは分からない状態です。
水上艦で主力たるドイツ製のMEKO360型フリゲート(アルゼンチンではアルミランテ・ブラウン級駆逐艦という扱い)4隻は、1980年代前半に引き渡されたもので、既に現役で運用される艦艇の艦暦としてはかなり高齢。本来、運用し続けるならば近代改修が必要不可欠な艦です。老朽化は進行で、既に3番艦の「エロイナ」は故障して2012年以降動かない状態となっています。
同艦以外にもアルゼンチンはドイツからMEKO140型コルベットを1980年代後半から2000年代前半にかけて6隻購入していますが、こちらも老朽化している艦が多く、いつ「エロイナ」のように故障したあと動かなくなるかわからない状態です。しかも哨戒任務などにも使用しているヘリコプターも小型・中型ヘリコプターも不足しており、領海内の監視に支障が出ています。
アルゼンチン国内の報道によると、アルミランテ・ブラウン級駆逐艦に関してはトルコ企業から近代化改修の提案が出ているものの、予算が不足しています。アルゼンチンのGDPに占める軍事費の割合は2021年の段階で0.63%となっており、少なくともこの数値が1%を超え、1.4%から1.5%程度になるように増額する必要性があるようです。
ほぼ大西洋側に集中している海岸線は、広大な国土の割には狭いものの、それでも約5000kmあります。広い海をカバーするには海軍の維持は不可欠です。
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アルゼンチン海軍がかつて保有した空母「ベインティシンコ・デ・マヨ」(画像:アルゼンチン国防省)。
ちなみに、アルゼンチンは2024年4月の消費者物価指数が前年同月比で289.4%という強烈なインフレ状態になっています。ハビエル・ミレイ大統領が就任した2023年12月以降は段々と落ち着いているものの、しばらくは経済面のたてなおしで海軍の改革にまでは手が回らなさそうです。このままでは、海軍というより沿岸警備隊の規模になってしまうという指摘もアルゼンチン国内ではあります。