研修中の新人スタッフが運営する店。離職防止に効果あり?

新年度が始まって2か月近く経ちましたが、春から入社した新入社員はいま、研修まっさかり。色々覚えることも多いと思います。
そうした中、あえて新人だけを集めた飲食店があるということで、取材しました。
まずは、「焼肉トラジ」の蒲原 直哉さんのお話。
「焼肉トラジ・トレーニングセンター店」店長 蒲原 直哉さん
「焼肉トラジ・トレーニングセンター店」という店名で、新入社員・新人スタッフが運営している店舗です。この春から入社した新入社員が、8名、在籍しています。
調理と、接客。お客様に料理を提供したりってところ、全てやっていただいて、初々しい感じですね。
やっぱり全く何も知らない方が一斉に「よーいスタート」で始まるので、4、5、6月っていう時期が責任者としては一番、神経をとがらせる時期にはなってきます。
でも新人が集合して研修を受けるっていうところで、お互いが助け合いながら、競争もしながら、加速度的に色んな教育が進んでいくかなっていうところは、非常にメリットを感じているところです。
「焼肉トラジ・トレーニングセンター店」は、有楽町にあるお店。
焼肉トラジは、全国およそ60店舗展開している高級路線の焼き肉チェーンですが、3年ほど前に「トレーニングセンター店」をオープン。その年の新入社員を一カ所の店舗に集めて、接客しながら研修する場を設けました。
もちろん、先輩社員も数名いるのですが、半分以上が、社会人経験ゼロ。中には高卒採用の10代の方もいて、こちらの店舗で3ヶ月~1年ぐらい研修したあと、全国の店舗に配属先が決まっていくそうです。
例えば、ラジオ番組でいうと、入りたての新人だけで番組を作るということ。色々ハプニングも多そうですが、お客さんの側にもメリットがあるようです。
「焼肉トラジ・トレーニングセンター店」店長 蒲原 直哉さん
ご迷惑をおかけする代わりではないんですが、「ドリンクと、お食事すべて、20%オフ」になっております、全品です。
最初の最初はそういったハプニングでお客様にお詫びをするっていうのは非常に多いんですが、例えば「カットレモンお客様欲しい」って言って、「レモン1個もらえますか?」って厨房に言ったら、直接指でつまんで「レモンですか?」みたいな。「受け取るかい!」みたいな。
あとは、お客様がご注文してない料理を持って行った際に、「これ何?食べていいの?」って言われて、「大丈夫です」って答えちゃうとか。(大丈夫なんですか?)大丈夫じゃないですね。そのままプレゼントしてうっていうことはありましたけど。
「ドリンク出すときはこうした方がいいよ」とか、お客様の方から色んなことを教えてくださるので、非常に甘えさせていただいてます。
初心者なので仕方ありませんが、焼き肉店は覚えることがたくさん。タレか塩か?サラダのサイズは?飲み物の種類は?確かに説明がたどたどしい部分もありましたが、皆さんやる気に満ちていて、元気に働いていました。
ただ、不慣れな分、価格も抑えています。例えば6000円のスタンダードコースは、20%オフの4800円。お客さんの側も、「安くなるなら、多少は大目に見よう」と寛容で、週末は予約が2週間先まで埋まっている人気店になっています。
一方で、お店側としても、新人を一同に集めることで、教育のムラがなくなります。この店舗を作ってから、新入社員の定着率が上がったという話もありました。
さらに、こうした店舗は、チェーン店だけでなく、職人の世界にも広がってきているようです。高級寿司店を展開する「銀座おのでら」の統括総料理長の、坂上 暁史さんのお話。
「銀座おのでら」統括総料理長 坂上 暁史さん
「登龍門」という、簡単に言えば立ち食い寿司なんですけれども、若手が握る場を作りました。
やはりお客様の胸をお借りして、っていう場ですから、そこは本店のネタの、モノによっては3分の1~5分の1のものもありますし。それぐらいの差をつけないとお客様も納得しないでしょ。
我々の時っていうのはもう拘束時間が長いですから、一日15~16時間労働っていうのを毎日やるわけじゃないですか。その中で自己研鑽できるんですよ。営業の中でいろんな事できるんですけれども、どうしてもいま労働時間「8時間」っていう中で、そういうことやるのは不可能。
なので登龍門というものを作って、先に握りというものを経験させてあげつつ、自分で這い上がっていく。
それまでの芽生えるまでが大変ですけど。米研ぎながら寝てたりとか。8時間労働ですよ?「ふざけんな馬鹿野郎!こんな短けぇのに!」って言ったって、かわいそうじゃない。
いかに経営側に立つ人間が、マインドをこれから変えていかないと、若い子は育たないですよね。
もとは高級店。本店で食べれば1万5千円位する10貫セットが、「鮨 銀座おのでら 登龍門」では5000円弱で提供されています。
これまでは、10年修行して初めて寿司を握れると言われている寿司業界で、こちらでは入社後「3年目」の社員が、カウンターに立っています。
もちろん、安くする分、利益を削ってることになりますが、修行期間が長いと、先が見えず辞めてしまう人もいる中で、職人の世界でも育成の仕方が見直されていました。
シビアな環境にいきなり放り込むのではなく、育成専用の場で、まずは慣れてもらうという作戦。人手不足の中で、企業側も、働き手を引き留める工夫が必要なようです。

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