死亡事故件数は建設業の約2倍、園芸高校の1年生が農作業中の事故をVRで疑似体験

JA共済連は6月17日、東京都世田谷区の都立園芸高校の生徒たちを対象にした農作業安全授業を実施した。本授業に参加したのは同校園芸科1年の約70名。生徒たちは農作業事故を防ぐために開発された「農作業事故体験VR」の疑似体験を通し、農作業事故の危険性などを学んだ。

○■年間約7万件が発生する農作業事故

農業を学ぶ高校生たちに農作業事故について適切な知識を学んでもらい、対策を身に着けてもらおうことを目的に実施された今回の農作業安全授業。

授業は2コマにわたって実施され、生徒たちは農研機構とJA共済連の担当者から農作業事故の現状などの講義を受けた後、両者が共同開発した「農作業事故体験VR」を用いて、農作業中に発生しやすい事故を疑似体験した。

農作業安全研究に取り組む農研機構の担当者は、就業者10万人あたりの死亡事故者数が建設業など他産業で減少傾向にあるのに対し、農業従事者ベースでは上昇傾向にある実態を紹介。

より安全な農作業のため、農作業安全研修の指導者の育成や研修資材の開発といった施策を進めることが急務となっており、その研修ツールのひとつとして「農作業事故体験VR」をJA共済連と共同開発したという。

JA組合員向けに共済事業などを展開するJA共済連は、農研機構の知見を活用してVRコンテンツを開発。地域貢献活動の一環として農作業事故防止のための啓発活動などに注力しており、農作業中の危険をVR体験できる研修会を各地で開催している。

講義パートでは、農林水産省省が毎年公表する就業者10万人あたりの死亡事故発生件数のデータから、農業における死亡事故件数は年間11.1件発生していると説明。近年、安全対策が進む建設業の約2倍、全産業平均の約9倍という数字になっている現状を解説した。

さらに、農作業事故の全体像を明らかにするため、JA共済連では共済金請求時の事故状況データを分析。その結果、後遺障害事故は死亡事故の約2倍、入院や通院が必要な傷害事故は死亡事故の266倍発生しており、農作業事故全体では年間約6万5000件の事故が発生しているとの推計を示した。

また、こうした事故は場所や天候などの「環境」、農機具などの「物」といった要因が重なることで引き起こされ、農業機械などが関係する事故は件数的にも多く、重大事故につながりやすいことも明らかになったという。
VRで危険を予見する力が身につく
発生頻度が高く、大きな事故になりやすいケースに対処するため、農研機構とJA共済連が共同開発した「農作業事故体験VR」では、優先度の高い全8種類のケースがVRコンテンツ化されている。

今回の授業では、「乗用型トラクターの転倒事故」「コンバインの巻き込まれ事故」「耕うん機の後進作業事故」「刈払機の鳩の接触事故」「脚立からの転倒事故」の5種類のVR体験が用意された。

生徒たちは5つのグループに分かれ、担当者のもと交代でゴーグルを装着。常用型トラクターの転倒事故や耕うん機の後進時の挟まれ事故、脚立からの転落・踏み外し事故など、生徒はそれぞれ1種類のVRコンテンツを体験した。

続いて、各グループで感じたことや安全対策などについて共有するグループワークの時間も設けられ、授業の最後には生徒から「どの世代の事故率が高いですか」の質問も。

JA共済連の担当者は「農家従事者の方は高齢の方が多いので、農作業事故や事故で亡くなる方も高齢の方のほうが多くなります。ただ、分析を進めてみると意外と若い方の事故も多いです。作業の習熟度が低かったり、体力があるからこそ無理してしまったり、いろいろな理由が考えられます」と、回答していた。

同校の一ノ瀬淳校長は授業後の囲み取材で、「VRを使ってリアルな体験をすることで、安全や事故の予防に対する意識は大きく変わってくる。将来的に農作業事故の件数を減らしていくことにつながると思います」とコメント。

これから実習などのカリキュラムが本格的に始まっていく、入学間もない段階の1年生の生徒たちを対象に、こうした授業を実施する意義を語った。

「今日の授業で擬似的に体験した内容は、どれも農作業の中ではあるあるで、昔から機械講習などでも必ず言われる内容。大きな事故にならなくても、ヒヤリとするような経験を大なり小なり多くの方がしている。早い段階でこうした体験の機会を持つことは、作業中の事故を予見する力を身につけ、安全への意識を高める上で非常に大切なことだと思います」

実際に同校で行われる実習で大きな農業機械に扱うことはそれほどないそうだが、危険を予見する力を身につけることは、さまざまな道具の扱い方を覚えていく上で教育的な効果が大きいという。

「刈払機のような機械でも、鎌のような道具でも、事故を予見する能力は常について回るもの。必ずしも大きな機械でなければ安全だというわけではなく、基本的には鎌のような道具を使うときでも、小さな事故を予見する力は必要だし、そうした力がなければ大きな機械も安全に扱えない。本校には農業に興味・関心のある生徒も多いとはいえ、体験が不足している部分もあると思いますので、今回のような授業で危険を予知する能力は大きく高まるのかなと感じています」

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする