ユマニチュードが認知症ケアを変える!介護現場での3つの実践方法と効果

ユマニチュードとは、フランスの老年学者イブ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏が開発した認知症ケアの技法です。1979年に誕生したこの手法は、認知症の人の尊厳を守り、その人らしさを大切にしながら、前向きな関わりを続けていくことを目指しています。
ユマニチュードの基本理念は、「見る・話す・触れる・立つ」という4つの柱で成り立っています。具体的には、優しく見つめることで相手の存在を認め、語りかけることで心の通った関係を築き、さりげなく触れることで安心感を与え、そして立つことを促すことで自立を支えていきます。
介護の現場では、時間に追われるあまり、つい介護する側の都合を優先してしまいがちです。しかし、ユマニチュードは、認知症の人の残された能力を最大限に引き出し、その人らしい生活を送ることを後押しする介護の在り方を教えてくれます。
認知症ケアにおいて、その人の尊厳を守ることの重要性を再認識させてくれるのがユマニチュードの大きな意義だと言えるでしょう。
近年、日本の高齢化は著しく進行し、それに伴って認知症の人の数も増加の一途をたどっており、2025年には全国の65歳以上高齢者の20%が認知症を患っていると推定されています。
このことからも、ユマニチュードの重要性は今後さらに増していくことが考えられるでしょう。
ユマニチュードが開発された当時、認知症ケアといえば、抑制や投薬によって問題行動を抑え込むことが主流でした。しかし、ジネスト氏らは、認知症の人をひとりの人間として尊重し、その人らしさを大切にしながら寄り添うケアの在り方を模索しました。
ユマニチュードは、認知症の人の尊厳を守り、可能性を引き出すケアの在り方を示してくれます。介護する側の都合ではなく、認知症の人の視点に立って寄り添うことの大切さを教えてくれるのです。
ユマニチュードの特徴は、その独自の認知症観と人間観にあります。
従来の認知症ケアでは、認知機能の低下に伴う問題行動ばかりが注目され、その人の持つ力や可能性は見過ごされがちでした。
しかし、ユマニチュードは、認知症の人をひとりの尊厳ある存在として捉えます。たとえ認知機能が低下しても、その人らしさや感情、そして生きる力は失われないと考えるのです。介護者には、認知症の人の残された能力を最大限に引き出し、その人らしい生活を支えることが求められます。

ユマニチュードはその人らしい生活を支えることが求められる
ユマニチュードが大切にしているのは、認知症の人とのつながりです。認知機能の低下により、言葉によるコミュニケーションが困難になっても、優しい眼差しや語りかけ、さりげない触れ合いを通じて、心の通った関係を築くことができると考えます。
こうしたユマニチュード独自の認知症観と人間観は、認知症ケアの在り方に新たな視点をもたらしてくれます。認知症の人の尊厳を守り、その人らしさを大切にするケアの実践は、介護の質を大きく向上させる可能性を秘めているのです。
ユマニチュードの基本理念は、「見る・話す・触れる・立つ」という4つの柱で表現されています。それぞれの柱には、認知症の人の尊厳を守り、その人らしさを大切にするための重要な意味が込められています。
「見る」は、認知症の人の視線を優しく受け止め、その存在を認めることを意味します。認知症の人は、周囲から自分の存在を認めてもらえないと不安になります。介護者が優しい眼差しを向けることで、安心感を与えることができるのです。
「話す」は、認知症の人に語りかけ、心の通った関係を築くことを表しています。たとえ言葉が通じなくても、優しい口調で語りかけることで、認知症の人は自分が大切にされていると感じられます。
「触れる」は、さりげない身体接触を通じて、認知症の人に安心感を与えることを意味しています。手を握ったり、肩をさすったりすることで、認知症の人は自分が守られていると感じられるのです。
「立つ」は、認知症の人の自立を支えることを表しています。立つことを促し、歩行を助けることで、認知症の人は自分の力を取り戻していくことができます。
これら4つの柱は、認知症の人の尊厳を守り、その人らしさを大切にするためのユマニチュードの基本姿勢を表しています。介護の現場で、この4つの柱を意識しながら実践することが、よりよい認知症ケアにつながっていくのです。
認知症ケアの手法には、ユマニチュード以外にも、バリデーションやパーソン・センタード・ケアなどがあります。それぞれの手法には独自の特徴がありますが、認知症の人の尊厳を大切にし、その人らしさを尊重するという点では共通しています。
バリデーションは、認知症の人の感情を受け止め、共感することを重視する手法です。認知症の人の言動には、その人なりの意味があると考え、否定せずに寄り添うことを大切にします。一方、ユマニチュードは、言葉だけでなく、眼差しや身体接触を通じたコミュニケーションを重視する点が特徴的です。

眼差しや身体接触を通じたコミュニケーションを重視
パーソン・センタード・ケアは、認知症の人をひとりの人格として尊重し、その人らしい生活を支えることを目指す手法です。認知症の人の個性や価値観を大切にし、その人にとって意味のある活動を通じて、生活の質の向上を図ります。
ユマニチュードも、認知症の人の尊厳を守ることを重視する点では共通していますが、4つの柱に基づく具体的なケア技術を持っている点が特徴と言えるでしょう。
それぞれの手法には、認知症ケアの質を高めるためのヒントが詰まっています。介護の現場では、これらの手法の特徴を理解しつつ、それぞれの良さを取り入れながら、よりよい認知症ケアを実践していくことが求められています。
ユマニチュードは、認知症ケアに新たな視点をもたらし、介護の質の向上に貢献する可能性を秘めた手法と言えるでしょう。介護に携わる一人ひとりが、ユマニチュードの理念を理解し、実践に活かしていくことが期待されています。
日本においては、認知症の割合が急速に増加しており、有効な対応策が求められています。厚生労働省の調査によると、2025年には認知症の人の数が約700万人に達すると推計されています。
また、認知症の原因疾患としては、アルツハイマー型認知症が最も多く、全体の67.6%を占めています。次いで、血管性認知症が19.5%、レビー小体型認知症とパーキンソン病が4.3%となっており、この3つの疾患で認知症全体の約9割を占めています。
こうした状況の中で、ユマニチュードに代表される新しい認知症ケアの手法への期待は大きく、その実践と効果の検証が進められています。
ユマニチュードを介護・看護の現場で実践する際には、その4つの柱である「見る」「話す」「触れる」「立つ」を意識することが大切です。ここでは、それぞれの柱について、具体的な実践方法と注意点を解説します。
ユマニチュードでは、認知症の人と目を合わせ、優しい眼差しを向けることを重視します。具体的には、以下のようなポイントを意識しましょう。
認知症の人は、不安や恐れを感じやすい状態にあります。優しい眼差しを向けることで、安心感を与え、信頼関係を築くことができるのです。ただし、相手の反応を見ながら、無理のない範囲で行うことが大切です。
認知症の人とコミュニケーションを取る際は、言葉だけでなく声のトーンにも気をつけましょう。具体的には、以下のようなポイントを意識します。
認知症の人は、言葉の理解力が低下している場合があります。ゆっくりと分かりやすく話すことで、メッセージが伝わりやすくなります。また、穏やかな口調で話すことで、安心感を与えることができるでしょう。
ユマニチュードでは、さりげない身体接触を通じて、認知症の人とのコミュニケーションを図ります。具体的には、以下のようなポイントを意識しましょう。
認知症の人は、身体接触によって安心感を得ることができます。ただし、相手の反応を見ながら、無理のない範囲で行うことが大切です。また、不快感を与えないよう、優しく触れることを心がけましょう。
ユマニチュードでは、認知症の人の自立を促し、残存機能を最大限に活かすことを重視します。具体的には、以下のようなポイントを意識しましょう。
認知症の人の中には、身体機能の低下により、自立した生活が難しくなっている人もいます。しかし、できることは自分でしてもらうことで、自信や意欲を引き出すことができるのです。
ただし、安全面に配慮しながら、本人のペースを尊重することが大切です。ユマニチュードの4つの柱を実践する際には、認知症の人の尊厳を守ることを第一に考えることが重要です。画一的な方法ではなく、その人に合ったケアを模索していくことが求められるのです。
また、ケアスタッフ同士が連携し、チームとして取り組むことも欠かせません。
ユマニチュードの実践は、決して簡単ではありません。しかし、認知症の人の尊厳を守り、その人らしさを引き出すケアを目指す過程で、介護・看護の質は確実に高まっていくはずです。
一人ひとりが、ユマニチュードの理念を胸に、日々の実践を積み重ねていくことが大切なのです。
ここまで、ユマニチュードの理念と効果について見てきましたが、それでは実際の介護・看護の現場で、ユマニチュードをどのように活用していけばよいのでしょうか。ここでは、ユマニチュードを導入し、実践していくための5つのステップを紹介します。
ユマニチュードの実践には、スタッフの意識改革と技術習得が不可欠です。そのためには、計画的かつ継続的な取り組みが求められます。5つのステップを踏まえながら、ユマニチュードの理念に基づく質の高いケアを目指していきましょう。

介護現場における導入ステップ
ユマニチュードを導入する際には、まず組織としての準備が必要です。トップのリーダーシップのもと、ユマニチュードの理念を浸透させ、実践に向けた体制を整えていきます。 具体的には、以下のような取り組みが求められます。
また、ユマニチュードの実践には、環境整備も欠かせません。認知症の人が安心して過ごせる空間づくりに取り組みます。具体的には、以下のような点に配慮します。
こうした環境整備は、認知症の人の安心感を高め、ユマニチュードの実践をサポートします。
ユマニチュードを実践するには、ケアスタッフ一人ひとりの意識改革と技術習得が何より重要です。自分自身の価値観や認知症観を見つめ直し、ユマニチュードの理念を自分のものにしていくプロセスが求められます。
具体的には、以下のようなステップを踏んでいきます。
こうしたプロセスを経ることで、ケアスタッフはユマニチュードの実践者として成長していきます。
重要なのは、一過性の研修で終わらせないことです。継続的な学びとケアの振り返りを通じて、ユマニチュードの理念を体現していくことが求められます。
また、ケアスタッフには、自己研鑽の姿勢も欠かせません。日々の実践の中で生じる疑問や課題を、自ら調べ、考え、解決していく姿勢が重要です。仲間とともに学び合い、高め合う組織風土があれば、ユマニチュードの実践力は着実に高まっていくはずです。
意識改革と技術習得のプロセスは、一朝一夕には達成できません。しかし、一歩一歩着実に積み重ねていくことで、ケアスタッフはユマニチュードの真の実践者へと成長していけるのです。
認知症ケアにおいては、多職種連携が欠かせません。特に、ユマニチュードのような専門的なケア技法を活用していく上では、多職種の協力が重要になります。
看護師は、医療的な側面からユマニチュードを活用します。バイタルサインや症状の変化に気づき、適切なケアにつなげていきます。特に、食事や排泄、入浴など、日常生活に密着したケアの場面では、ユマニチュードの視点が欠かせません。
リハビリスタッフは、認知症の人の残存機能を引き出すためにユマニチュードを活用します。「立つ」ことを重視するユマニチュードの理念は、リハビリの目標とも合致します。理学療法士や作業療法士は、認知症の人の生活機能を高めるために、ユマニチュードの技法を積極的に取り入れていきます。
管理栄養士は、認知症の人の食事に関してユマニチュードの視点を活用します。美味しく、楽しく、安全に食事ができるよう、食事の提供方法や環境づくりを工夫します。
ソーシャルワーカーは、認知症の人と家族の生活を支えるためにユマニチュードを活用します。認知症の人の尊厳を守り、その人らしい生活を送れるよう、さまざまな社会資源の調整を行います。
医師は、総合的な視点からユマニチュードを活用します。認知症の人の心身の状態を適切に評価し、必要な医療を提供します。同時に、ケアの方針決定においては、ユマニチュードの理念を踏まえ、本人の意思を尊重していきます。
このように、多職種がそれぞれの専門性を活かしながら、ユマニチュードを活用していくことが求められます。多職種カンファレンスを定期的に開催し、情報共有と連携を図ることが重要です。
お互いの視点を理解し合いながら、認知症の人に最適なケアを探っていく。そこにこそ、多職種連携の意義があると言えるでしょう。
ユマニチュードを導入し、実践していく中で、ケアの質を評価し、改善していくことが重要です。評価には、さまざまな指標を用いることができます。
例えば、認知症の人の行動・心理症状(BPSD)の変化を評価することができます。ユマニチュードを実践することで、BPSDが軽減されたかどうかを確認するのです。同時に、認知症の人の表情や言動の変化にも着目します。笑顔が増えた、言葉が増えたなど、ポジティブな変化を捉えることが重要です。
また、ケアスタッフの意識や行動の変化も、重要な評価指標になります。ユマニチュードの理念が浸透し、実践されているかどうかを確認します。スタッフの言葉遣いや態度に変化が見られるか、認知症の人と良好な関係性が築けているかなど、多角的な視点から評価していきます。
さらに、家族の満足度も重要な指標です。家族アンケートを実施するなどして、ケアの質に対する評価を把握することが求められます。
評価の結果は、カンファレンス等で共有し、改善につなげていきます。評価を通じて明らかになった課題を踏まえ、具体的な改善策を検討するのです。
ケアの質の評価と改善は、ユマニチュードの実践には欠かせないプロセスです。さまざまな指標を用いながら、継続的に評価と改善を重ねることが重要です。認知症の人の尊厳を守り、その人らしい生活を支えるケアの実現に向けて、たゆまぬ努力が求められています。
研修と学びを継続し、実践の中で活かしていくことが必要
ユマニチュードの実践力を高め、継続的に発展させていくためには、研修と学びの継続が欠かせません。
ユマニチュードの研修は、基礎研修から始まり、上級研修、ファシリテーター養成研修へと段階的に進んでいきます。それぞれのステップで学んだ内容を、実践の中で活かし、定着させていくことが重要です。
また、研修で学んだことを職場内で共有し、実践につなげていくことも大切です。研修に参加したスタッフが、研修内容を伝達するための勉強会を開催するなどの工夫が求められます。
さらに、他施設との交流や情報共有も、学びを深める上で有効です。ユマニチュードに積極的に取り組んでいる施設を訪問し、実践事例を学ぶことができます。また、学会や研究会に参加することで、最新の知見を得ることもできるでしょう。
ユマニチュードの学びは、決して一人で完結するものではありません。仲間とともに学び、実践し、振り返ることで、ケアの質は着実に高まっていきます。学び続ける姿勢こそが、ユマニチュードの実践者に求められる最も重要な資質と言えるのではないでしょうか。
ユマニチュードは、認知症ケアに新しい光を当てた画期的な方法です。しかし、それを実践していくためには、確固たる理念と高い技術、そして何より、認知症の人の尊厳を守りぬこうとする強い意志が必要とされます。
本稿で紹介した5つのステップは、ユマニチュードの実践への道しるべとなるはずです。介護・看護に携わる全ての人が、このステップを一歩一歩着実に歩んでいただければと思います。
認知症の人の尊厳が守られ、その人らしい生活が送れる社会の実現。それこそが、ユマニチュードの目指す世界なのです。私たち一人ひとりが、ユマニチュードの理念を胸に、認知症ケアの未来を切り拓いていきましょう。

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