水原一平被告「ギャンブル依存症」回復に必要なこと「東京グレイス・ロード」の東京センター長が語る

ドジャース・大谷翔平投手の口座から不正送金したとして、銀行詐欺の疑いで訴追された元通訳の水原一平被告の罪状認否が行われ、6月4日に次回審理が行われる。今回の事件で注目されたのが、水原被告のギャンブル依存症。そもそも、この病気はどういうものなのか。ギャンブル依存症回復施設「東京グレイス・ロード」の東京センター長で、自らも依存症患者だった平沼哲さんに話を聞いた。(樋口智城)
「本当に怖い病気ですよ」。平沼さんはそう言って、ギャンブル依存症について語り始めた。自身も、かつては30年以上にわたって依存症だった。「私の経験をもとにして感じたことなのですが、患者にはいくつかの特徴があります」と話す。
1つめに挙げたのは「負けると取り返そうと際限なく賭け事を繰り返してしまう」。患者は借金がなくなったら人生をやり直せると信じているので、途中でやめることができない。次に「ギャンブルを誰かに隠し、そのためにウソをつく」。優先順位がギャンブル1番、日常2番となるので、どうしても生活上の矛盾が出てくるのだという。
そして3つめは「『底つき』にならないと治せない」。底つきとは、自分が心の底からもうダメだと思い、身動きが取れないほど追い込まれる経験のことだ。「逆に言えば、患者を底つきに持って行くことが必要なんです」。
平沼さんは、10年ほど前に1600万円の借金があって自己破産。その翌日にはヤミ金でお金を借りてギャンブルを始めてしまった。当時は依存症を治すべく治療施設でプログラムも受けていたのに、克服できなかった。「まだ底つきではなかったんですよね。『まだ借りられる』と心の隅で思ってしまっていた」。
ギャンブル依存症に金額は関係ない。「水原さんが大谷さんの口座を動かせる立場にあったとしたのなら『底つき』にはならない。莫大な金額にまでエスカレートさせていく要因になったと思います」。つまり、いつでも補填できるという精神的な余裕が、依存症の闇を深くした…ということだ。
平沼さんは自己破産後にFXも始め、さらに900万円の借金を作った。ヤミ金による取り立てが頻発し、疲れ果てて「底つき」に。妻と離婚して2019年から東京グレイス・ロードに入所。2年間のリハビリ生活の末、ようやく脱却することができた。
依存症の更正には、何が必要なのだろうか。「自分はもちろん、周囲の人にも、依存症への理解と共感が必要だと思います」と平沼さん。つまり、自分と周囲の協力があって初めて、依存症は克服できる。「依存症は病気だと知ってもらえるだけでも、僕らにとってはありがたいものなんです」と話していた。

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