待望! F-16戦闘機を手にした「金欠大国」再びイギリスを攻めるか? 過去も未来もカネ次第と言える理由

アルゼンチンが待望のF-16戦闘機をついに手に入れたようです。デンマークとのあいだで売買契約の締結にまでこぎつけましたが、実は購入した後の方が、アルゼンチンにとっては難関と言えそうです。
アルゼンチンは2024年4月、デンマークから中古の戦闘機F-16AM「ファイティング・ファルコン」を購入したと発表しました。この取引は、同国にとって待望の超音速戦闘機の導入ですが、その背後には多くの思惑や政治的駆け引きが存在するものでした。
かつてアルゼンチン空軍は、フランス製のダッソー「ミラージュIII」、その派生型「ミラージュ5」、そして同機の事実上のコピー機であるイスラエル製「ダガー」といった超音速飛行が可能な戦闘機を多数保有していました。
待望! F-16戦闘機を手にした「金欠大国」再びイギリスを攻…の画像はこちら >>デンマークのスクライドストラップ空港で、アルゼンチンとデンマーク、両国の国防大臣が参列して行われた売買契約の署名式典(画像:アルゼンチン国防省)。
これらは、1982年にイギリスとのあいだで起きたフォークランド戦争(アルゼンチン側呼称:マルビナス戦争)でも頼りになる戦力として重用され、戦争のあいだはイギリス軍をけん制する役割を果たしています。
しかし、軍事政権から民政への移行、そして経済的困窮などから、アルゼンチンは軍縮の必要性に迫られた結果、国防予算は大幅に削減されることになりました。その結果、空軍の戦闘機はメンテナンス部品すら不足するようになり、そのあげく稼働率は大幅に低下。最終的に活動がほぼ不可能な状態にまで陥ったのです。
2000年代に入ると、さすがに老朽化した戦闘機の更新を試みますが、財政的な問題を解決できなかったため、2015年には「ミラージュ」シリーズが全て退役してしまいます。さらに、亜音速のジェット攻撃機A-4「スカイホーク」も実質的に運用不能となった結果、アルゼンチンは人口4500万人を擁する南米の地域大国であるにも関わらず、戦闘機と呼べる機種を持たない国となってしまいました。
さすがに、これではマズいと悟ったのか、2023年にF-16の導入が決定。単座型のF-16AM 18機、練習機を兼務する複座型のF-16BM 6機、合計24機を約3億2000万ドル(約460億円)で購入する契約が2024年4月16日に締結され、アルゼンチン空軍は再び超音速ジェット戦闘機を保有することになったのです。 このパッケージには機体のほか、シミュレーターや兵装などの付帯装備も含まれています。機体価格が全体の約半分を占めると仮定すると、単純計算で1機あたりの価格は約10億円となることから、この種の戦闘機としては非常にリーズナブルな価格で取得できたと言えるでしょう。
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売買契約の署名式典で、互いの国のサッカー代表ユニフォームを交換するアルゼンチンとデンマークの国防大臣(画像:デンマーク国防省)。
2024年現在、フォークランド諸島にはイギリス空軍の分遣飛行隊が、領空防衛のために英本土から派遣・駐留しています。この分遣隊にはユーロファイター「タイフーン」戦闘機が配備されていますが、アルゼンチン空軍がF-16を導入することにより、航空戦力が拮抗する可能性があります。
イギリスは、戦闘機用の射出座席や電子機器、いわゆるアビオニクスの分野で大きな市場シェアを持っているため、アルゼンチンに対して引き渡し禁止にするなどの手段で、アルゼンチンが新たに戦闘機を導入できないよう、その計画を阻止してきました。
そのためイギリスにとってはあまり好ましくない決定であると推測されますが、筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)はアルゼンチンがF-16を導入したからといって、それが直接的に戦争の再発へとつながる可能性は低いと考えます。
アルゼンチン国防省は、F-16の購入が自国民の誇りを取り戻すものとなると強調し、これを歓迎しています。しかし、F-16購入のための資金調達はアメリカや民間銀行からの融資に依存しており、しかも導入後もF-16がいつでも使えるよう維持し続けるためには、決して安価であるとは言えないF-16の運用コストをなんとかして捻出していかなければなりません。
アルゼンチン空軍が超音速ジェット戦闘機を失った主要な理由である経済問題は、依然として解決されておらず、そう考えると同国にとってはF-16を導入できたからと言って、その前途は必ずしも明るいものではないのです。
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中古のF-16に関する売買契約の署名式典の様子(画像:アルゼンチン国防省)。
アルゼンチンは2024年3月のインフレ率が前年同月比287.9%となったと発表しており、それを鑑みると深刻な経済危機に陥っているといえるでしょう。このままでは借金までして手に入れたF-16が、A-4やミラージュシリーズのように地上に留め置かれ続けるということも十分に考えられます。
このような経済的な困窮に起因する諸問題が解決できない限り、イギリスに戦いを挑んでもアルゼンチンにしてみたら何のメリットもないのは明白です。
ゆえに、アルゼンチン空軍が本当に超音速ジェット戦闘機を取り戻せるのかどうかは、すべて経済問題を解決できるか、その一点にかかっているといえるでしょう。

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