バイクは今、400ccが熱い? 続々登場の新モデルについて考える

二輪車の免許制度で普通二輪と大型二輪の境目になっている400cc。一時は「中途半端」との声も聞かれたが、最近になって海外勢がこのクラスに新型車を次々に送り込み、国内ブランドも対抗馬を投入するなど再注目のカテゴリーになっている。その理由と魅力を考えてみよう。

ヤマハSR400が販売終了! ところが…

日本のライダーの多くは、400ccという排気量が大きな境目であることを知っているだろう。排気量が大きいほうから大型二輪、普通二輪、普通二輪小型限定、原付(原動機付自転車)の4種類ある運転免許の境目が400cc、125cc、50ccだからだ。

400ccという区分が生まれたのは1970年代。「ナナハン」と呼ばれた750ccの車種が国内メーカーから次々に登場したが、一部のライダーの暴走運転で事故が急増した。これを受けて、それまで区分がなかった126cc以上のうち、400ccまでは自動二輪中型限定という制度になったのだ。

当初は、こちらも事故防止という観点から、400ccを超える自動二輪免許は、教習所では取得できない仕組みになっていた。運転免許試験場で技能試験にパスするしかなく、中型限定のライダーが試験場で一発試験に挑む行為を「限定解除」と呼ぶようになった。

その後は区分が大型二輪と普通二輪に変わるとともに、大型は教習所で取得できるようになり、それまでより楽に401cc以上に乗れるようになった。よって400ccの車種はしだいに減少。2021年には根強い支持を受けていたヤマハ発動機「SR400」も販売終了となった。

ところが、それと入れ替わるように、同じ空冷単気筒エンジンを積むホンダの「GB350/GB350S」が登場。2021年のデビュー以来、251~400ccのベストセラーであり続けている。
カギはインドの二輪マーケット

ホンダはSRの販売終了に合わせてGBを開発したのだろうか。そうではない。もともとはインド市場攻略のために新設計した車種だったGBを、車格が日本にも合っているという理由から輸入販売することにしたのだ。このあたりの経緯は、同じホンダのSUV「WR-V」に似ている。

より具体的にいえば、GB登場のきっかけになったのは、現存する最古のモーターサイクルブランドで最近は日本でも人気のロイヤルエンフィールドの存在だった。

イギリス発祥で現在はインドで生産を行う同社は、欧州でのレースの区分であり、インドのマーケットにも適した350ccや500ccの空冷単気筒の車種を生産し、売り上げを伸ばしていた。これがライバルの目に留まり、ホンダがGBを送り出すことになったのだ。

そのGBに兄弟が増えそうだ。2024年3月の「東京モーターサイクルショー」で「GB350C」が市販予定車としてお披露目されたからである。スタンダードなGB350、スポーティーなGB350Sに対して、「C」はクラシックの意味だという。

驚くのは既存の2車種との差別化で、エンジンやフレームは共通だが、燃料タンク、シート、マフラー、フェンダーなど、それ以外は多くの部分が専用デザインだった。ロイヤルエンフィールドの定番車種「クラシック350」のライバルとなるのは確実だろう。

ロイヤルエンフィールド以外の海外ブランドでは、オーストリアのKTMとドイツのBMWが以前から同クラスにインド生産の車種を用意している。

KTMの「390デューク」は125ccと同等の車格に水冷単気筒を搭載することで、パンチのある加速とシャープなハンドリングを実現。2024年モデルで第3世代にモデルチェンジしているが、オレンジのコーポレートカラーが映えるエッジの効いたデザインは健在だ。

さらに、現在はKTMグループに属しているスウェーデンのハスクバーナも、基本的に同じエンジンを積んだ「ヴィットピレン401/スヴァルトピレン401」を用意。どちらも今年に入って2代目に進化しており、さらに洗練されたスカンジナビアンデザインをまとっている。

BMWはアドベンチャーツアラーの代表格GSモデルの末弟として「G310GS」をラインアップ。現行型は2代目だ。大柄な車体はGSそのもののデザインのおかげもあって格下感なし。それでいて兄貴分より軽量なので、多少のオフロードでも不安なく入り込める。

ハーレー「X350」とトライアンフ「400」に試乗!

このマーケットに昨年、ハーレーダビッドソンが新規参入を果たしたことは大きなニュースになった。大排気量のV型2気筒エンジンでおなじみのハーレーが日本に投入したのが「X350」だ。排気量が大きめの「X500」もあって、エンジンはどちらも水冷並列2気筒となる。

中国のQJモーターサイクルとハーレーの提携により生まれたX350は、果たしてハーレーらしいバイクなのか。日本自動車輸入組合(JAIA)主催の二輪車試乗会で乗ることができた。

まず、デザインはハーレーそのもの。かつてダートトラックレースで活躍した名車「XR750」をモチーフとしていて、スリムな燃料タンクや独特なスタイルのシートカウルなど、ツボを抑えているなと感心した。

ポジションは広めのハンドル、軽い前傾、バックステップというストリートファイター風。エンジンの回り方や音は1,000ccクラスの3気筒や4気筒を思わせる感触で、これまでのハーレーとはまるで違うけれど、ミドルクラスのストリートファイターと思えば納得できる。

英国のトライアンフも今年、「スピード400」「スクランブラー400X」を発売した。インドのバジャージとの提携で生まれた車種で、このブランドとしては久々の単気筒エンジンを積む。JAIA試乗会ではロードスポーツのスピード400に乗ることができた。

まず感じたのはクオリティの高さ。上級のトライアンフに匹敵するレベルで、外国車を手に入れたという満足感に浸れるだろう。シルバーのライトホルダーやステップまわりのプレートなどのディテールが効いている。ライディングポジションはオーソドックスで、低めのシートも相まって多くの人に親しみやすい姿勢だ。

水冷エンジンの音は歯切れがいい。低回転から扱いやすく、回しても振動は抑えられていた。ハンドリングは軽量をいかしてクイック。でも、トライアンフらしい素直さも感じる。穏やかな乗り味が好みならスクランブラー400Xがいいだろう。

全体を通していえるのは、400ccのバイクはボディサイズもエンジンのパワーも公道で乗るのにちょうどいいということ。ビギナーだけでなく、筆者のようなベテランでも満足できるはずだ。

しかも、デザインは各ブランドの個性がしっかり出ていて、選ぶ楽しさはちゃんとある。それでいて価格は、GB350は50万円台、試乗したX350やスピード400でも60万円台と手が届きやすい。しかも普通二輪免許でOK。注目度の高さに納得である。

森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら

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