独居高齢者とは、65歳以上の一人暮らしの高齢者を指します。現在、日本では高齢化が急速に進んでおり、単身高齢者世帯の数も年々増加傾向にあります。
総務省の統計によると、2020年の65歳以上の単身世帯数は681万世帯で、全世帯の14.6%を占めています。この割合は今後さらに上昇し、2040年には896万人に達すると予測されています。
都道府県別の単身高齢者割合を見ると、東京都が最も高く、次いで大阪府、神奈川県が上位に入っています。大都市圏では、子供世帯と同居しない高齢者が多いことが背景にあると考えられます。
一人暮らしの高齢者は、家族と同居している高齢者に比べて、さまざまな困難や不安を抱えやすいのが現状です。健康面での不安、経済的な不安、社会的孤立など、単身高齢者特有の課題が存在します。
これらの問題に対して、社会全体でどのように支援していくかが重要な課題となっています。
高齢者が一人暮らしを始める理由はさまざまですが、配偶者との死別や離婚、子供の独立などが主なきっかけとなっています。また、子供世帯と同居していても、介護を担う子供の負担が大きくなり、別居を選択するケースもあります。
一方で、一人暮らしを望んで選択する高齢者もいます。プライバシーを重視したい、自由な生活を送りたいという想いから、自発的に一人暮らしを始める人も少なくありません。
ただし、そうした高齢者であっても、加齢に伴う身体機能の低下や認知症の発症などにより、徐々に生活に支障をきたすようになることがあります。
また、子供や親族とのつながりが希薄で、頼れる人がいない状況に置かれている人もいます。特に、男性の独居高齢者は、家事スキルが乏しかったり、社会とのつながりが少なかったりする傾向があり、支援の必要性が高いと言えます。
行政や地域社会による見守りや生活支援は、独居高齢者の安全・安心な暮らしを支えるために欠かせません。しかし、支援が必要な高齢者に適切なサービスが行き届いていない現状もあります。
潜在的なニーズを掘り起こし、きめ細やかな支援を提供していくことが求められています。
高齢者が一人暮らしを選択する理由はさまざまですが、自由な生活を送りたい、子どもに迷惑をかけたくないといった回答が多く見られます。
実際、独居高齢者の幸福度や健康状態は、同居している高齢者と大きな差がないという調査結果もあります。
内閣府の調査では、60歳以上の高齢者の約7割が「できるだけ自立した生活を送りたい」と回答しています。自分のペースで生活できる、好きなことに時間を使えるといった自由さが、一人暮らしの大きなメリットと言えます。
また、子供世帯と同居する高齢者の中には、家事や育児の手伝いを求められ、息抜きができない人もいます。子供や孫に負担をかけたくないという想いから、一人暮らしを選ぶ高齢者もいるのです。
ただし、一人暮らしには、孤立のリスクがつきまといます。特に、地域とのつながりが少ない高齢者は、閉じこもりがちになり、心身の健康を損ねる危険性があります。家族や親族、近所の人たちとの交流を保ちながら、適度な社会参加を続けることが大切です。
一方で、独居高齢者は社会的孤立に陥りやすく、孤独死のリスクが高いことが課題として挙げられます。東京都監察医務院の調査では、2019年に都内で発生した孤独死事例の約7割が65歳以上の高齢者でした。
一人暮らしであるがゆえに、緊急時の対応が遅れたり、日常的な見守りが行き届かなかったりする可能性があります。
また、加齢に伴う身体機能の低下や認知症の進行により、一人で生活することが困難になるケースも少なくありません。買い物や掃除、食事の準備など、日常的な家事が負担になる高齢者もいます。こうした状況に対して、適切な支援やサービスを提供していくことが求められています。
独居高齢者の安全・安心な暮らしを支えるためには、見守りや生活支援のサービスを拡充していく必要があります。同時に、高齢者自身が、日頃から体調管理や生活習慣に気を付け、自立した生活を続けられるよう心がけることも大切です。
地域社会との接点を持ち、積極的に外出する習慣を身につけることで、閉じこもりを防ぐことができます。趣味の活動やボランティアに参加するなど、人とのつながりを保つ機会を持つことも有効でしょう。
行政や地域社会、そして高齢者自身が協力し合いながら、一人暮らしに適した環境づくりを進めていくことが求められています。独居高齢者が安心して暮らせる社会の実現に向けて、私たち一人ひとりができることを考え、行動に移していくことが大切です。
内閣府の調査によると、独居高齢者の日常生活における不安として、健康や病気のこと(58.9%)とする人が最も多く、次いで、寝たきりや身体が不自由になり介護が必要となる状態になること(42.6%)、自然災害(29.1%)、生活のための収入のこと(18.2%)、頼れる人がいなくなること(13.6%)となっており、「介護」、「社会的孤立」、「貧困」に関連した不安が挙げられています。
実際、独居高齢者の社会参加の状況を見ると、地域活動やボランティア活動に参加している割合は低く、人とのつながりが希薄になりがちです。内閣府の調査では、独居高齢者の約4割が「社会的孤立」を感じていると回答しています。
また、高齢期の社会的孤立は、心身の健康に悪影響を及ぼすことが知られています。認知機能の低下や、うつ病のリスクが高くなる傾向があるだけでなく、体調の変化に気づいてもらえず、病気の発見が遅れるケースもあります。
経済面でも、単身高齢者の貧困率は25.7%と、全高齢者の貧困率(19.6%)よりも高い水準にあります。
年金だけでは生活が成り立たず、働かざるを得ない高齢者も少なくありません。特に、女性の単身高齢者は、就労期間が短いことによる年金額の少なさや、非正規雇用での就労経験が貧困につながっているケースがあります。
さらに、一人暮らしでは、病気やけがをした際に発見が遅れるケースがあります。特に認知症の高齢者の場合、症状が進行しても周囲が気づかないことがあり、重症化するリスクがあります。こうした問題は、本人の生活の質を低下させるだけでなく、医療費の増大など社会的な影響も大きいと言えます。
独居高齢者の急病や事故、孤独死などは、本人だけでなく、地域社会にも大きな衝撃を与えます。
孤独死が発生した場合、遺体の発見が遅れることで、住居の損傷やご近所への影響など、さまざまな問題が生じます。また、孤独死は地域社会に大きな衝撃を与え、住民の不安感を高める要因にもなっています。
独居高齢者の問題は、個人の問題にとどまらず、社会全体で取り組むべき課題だと言えるでしょう。
独居高齢者の抱える問題は、単に個人の生活の質の問題にとどまりません。
社会的孤立や経済的困窮は、地域社会の活力を損ない、社会保障費の増大にもつながります。高齢者の尊厳ある暮らしを支えることは、持続可能な社会の実現に欠かせない視点です。
行政や地域社会、福祉関係者など、さまざまな主体が連携し、独居高齢者の抱える問題に総合的に取り組んでいく必要があります。見守り体制の強化、生活支援サービスの拡充、社会参加の機会の提供など、多様な施策を組み合わせていくことが求められます。
同時に、独居高齢者自身も、自らの健康管理や生活設計に自覚を持つことが大切です。日頃から、バランスの取れた食事や適度な運動を心がけ、健康寿命を延ばす努力が必要でしょう。また、老後の生活資金について、早めに準備を始めることも重要です。
独居高齢者の問題は、私たち一人ひとりにも関わる課題です。地域の中で、高齢者を見守り、支え合う意識を持つことが何より大切だと言えます。困っている高齢者がいたら、ちょっとした声かけや手助けをする。そうした一人ひとりの行動が、独居高齢者の暮らしを支える力になるはずです。
独居高齢者を支援するために、行政や地域社会ではさまざまな取り組みが行われています。例えば、東京都では、地域包括支援センターを中心とした「見守りネットワーク事業」を展開し、民生委員や町内会、ボランティアなど、地域のさまざまな主体が連携して、独居高齢者の安否確認や生活支援を行っています。
大田区では、IoTを活用した新たな見守り支援ネットワークモデルを構築しています。高齢者宅にセンサーを設置し、日常生活の異変をいち早く察知する仕組みです。
このほか、緊急通報システムの設置や配食サービス、ごみ出し支援など、各自治体で独自の支援策が講じられています。
行政サービスだけでなく、地域住民による支え合いも重要です。地域のサロン活動や趣味のサークルなど、高齢者が気軽に参加できる場を作ることで、社会とのつながりを維持することができます。
民生委員や福祉協力員といった地域の担い手が、独居高齢者の見守りや相談に乗ることも大切な支援となります。
社会福祉協議会や老人クラブ、NPOなどの地域団体も、独居高齢者支援に大きな役割を果たしています。
配食サービスや買い物支援、話し相手のボランティアなど、日常生活のさまざまな場面で高齢者をサポートしています。行政と地域団体が協力し合いながら、きめ細やかな支援体制を整備していくことが求められます。
また、介護保険サービスの活用も欠かせません。一人暮らしの高齢者が、必要な介護サービスを受けられるよう、ケアマネージャーによるサポートが重要です。デイサービスやショートステイ、訪問介護など、高齢者の状況に合ったサービスを組み合わせることで、在宅生活を支えることができます。
近年では、民間企業による独居高齢者向けのサービスも増えています。見守り付きの賃貸住宅や、食事宅配サービス、IOT機器を活用した見守りサービスなどです。行政や地域団体だけでなく、民間企業の力も借りながら、多様な支援メニューを用意していくことが大切です。
また、支援体制の整備だけでなく、独居高齢者自身が支援につながりやすい環境を作ることも大切です。行政や地域の相談窓口の周知を図り、気軽に相談できる体制を整えることが必要でしょう。
独居高齢者の支援は、単に高齢者の生活を守るだけではありません。高齢者が住み慣れた地域で、生きがいを持って暮らし続けられるよう、包括的な支援を提供することが求められています。
そのためには、医療、介護、福祉、住まいなどの分野が連携し、切れ目のないサポート体制を構築していくことが不可欠です。
地域包括ケアシステムの理念を実現するためにも、独居高齢者支援を地域全体で取り組む課題として位置づけ、多様な主体が協力し合う体制づくりを進めていくことが重要だと言えます。
独居高齢者が安心して暮らし続けるために、以下のような対策が求められています。
高齢者の約6割が「できれば子どもと同居・近居したい」と考えています。
そのため、家族のサポートを得やすい環境を整えることが重要です。子供世帯との同居や、近くに住むことで、日常的な見守りや支援を受けられます。同居が難しい場合でも、定期的な訪問や連絡を通じて、家族とのつながりを維持することが大切です。
判断能力が低下した高齢者の権利を守る制度です。2020年の利用者数は22万人を超え、独居高齢者の財産管理や契約などに役立てられています。
成年後見人が高齢者の生活を見守り、必要な手続きを代行することで、トラブルを防ぐことができます。早めに制度の利用を検討し、安心して暮らせる環境を整えましょう。
訪問介護やデイサービスなど、独居高齢者に適した介護サービスを上手に活用することで、安心して暮らせる環境を整えられます。
ホームヘルパーによる家事援助や身体介護、デイサービスでの入浴や食事、レクリエーションなど、高齢者の状況に合わせたサービスを組み合わせることが大切です。介護保険制度を活用し、必要なサービスを受けられるよう、ケアマネージャーに相談しましょう。
ICTを活用した見守りシステムや、地域の支援ネットワークを通じて、独居高齢者の異変に速やかに気づける体制を構築します。
センサーやカメラを使った見守り機器、定期的な訪問や電話による安否確認など、さまざまな方法を組み合わせることで、高齢者の安全を確保することができます。
地域の民生委員や福祉協力員、ボランティアなどと連携し、きめ細やかな見守り体制を整えることが重要です。
老人クラブや地域のサロン活動など、高齢者が社会とつながる機会を積極的に提供することで、孤立を防ぎ、生きがいを持って暮らせるようサポートします。趣味の活動や生涯学習、ボランティアなど、高齢者が楽しみながら参加できる場を用意することが大切です。仲間との交流を通じて、心身の健康を保ち、充実した毎日を送れるよう支援しましょう。
一人ひとりの状況に合わせて、必要な対策を組み合わせていくことが大切です。行政や地域団体、医療・介護の専門職など、さまざまな立場の人が連携し、高齢者を支える体制を整えていくことが求められています。
また、高齢者自身も、自らの老後を考え、必要な備えをしておくことが重要です。日頃から健康管理に気を付け、社会とのつながりを保つよう心がけましょう。一人ひとりができることから始め、支え合いの輪を広げていくことが、誰もが安心して暮らせる地域づくりにつながるはずです。
高齢化の進展に伴い、独居高齢者の増加は今後も続くと予想されます。一人暮らしの高齢者が、住み慣れた地域で安心して暮らし続けるためには、行政や地域住民、関係機関が連携し、きめ細やかな支援を提供していくことが不可欠です。
地域包括ケアシステムの理念を実現するためにも、独居高齢者の問題を社会全体で受け止め、支え合いの体制を構築していく必要があります。行政による公的サービスの拡充、地域の支え合いネットワークの強化、高齢者の社会参加の促進など、多様な取り組みを進めることが求められます。
同時に、一人ひとりが高齢者の孤立問題を他人事ではなく、自分事として捉えることも大切です。近所に一人暮らしの高齢者がいれば、ちょっとした声かけや見守りを心がけるなど、できることから始めてみましょう。支え合いの輪を広げることで、誰もが安心して暮らせる地域社会に近づくはずです。
独居高齢者の抱える課題は決して簡単には解決できません。しかし、社会が一丸となって取り組むことで、一人ひとりが尊厳を持って暮らせる社会の実現につながるはずです。高齢者の孤立問題を自分事として捉え、できることから行動を起こしていきましょう。