東海道五十三次の県内にある地点ごとに注目のスポットなどを取り上げる企画の今回は、県内6番目の「由比宿」。東海道五十三次と言えば、歌川広重(1858年没、享年62)が描いた浮世絵シリーズ。その浮世絵師の名を冠した日本で最初の美術館「静岡市東海道広重美術館」で、この企画の原点に触れた。
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■「由比宿」本陣跡地
「東海道広重美術館」は歌川広重の作品を中心に約1400点を所蔵している。宿場町「由比宿」の本陣跡地である由比本陣公園内にあるだけに、歴史を感じさせる門をくぐって訪れた。
同館に勤めて10年目になる山口拓海さん(38)に話を伺った。広重が描いた東海道五十三次の作品は1シリーズだけだと思っていたが実は違う。生涯にわたり、約20種以上の東海道五十三次を制作。有名なのは江戸時代後期の1833年から34年に保永堂から出版されたもので出世作となった。「浮世絵は大衆印刷。人気があるものを出せるかが重要になってくる。今では出版社的な役割を果たしていた版元ごとに広重に作品を頼んでいた」。構図を縦横変え、同じ宿場でも描く景色を変えるなどして様々な名所紹介をしていた。
同館では色版画摺(す)り体験ができる(330円、1セット用紙2枚)。実際に訪れたこともあり、由比宿が描かれた「由井」の作品で挑戦した。なぜ宿場町と漢字が違うのかというと、江戸時代当時の「由比宿」は色々な当て字が使われており、そこで最もポピュラーだった「由井」を作品名にしたという。版画にローラーでインクをつけた後、上に置いた紙をバレンで押しつけ転写する。5色(黒、黄、水、藍、朱)の色ごとに工程を繰り返した完成形が写真の通り。左が記者で、右が見本。不器用なだけか、ゴム製で表面が滑りやすいだけか…。答えは現地で確認していただけると。
■心に寄り添う作品
フランスの画家で印象派のクロード・モネにも影響を与えた浮世絵師の魅力について、山口さんは「歌川広重は、(富嶽三十六景で有名な)葛飾北斎の浮世絵と比較されることが多い。北斎はデザイン性や、ダイナミックさが評価されている一方で、広重は心に寄りそう作品が多い」と説明した。
「他にも『由井』の作品からわかると思いますが」と、記者が先ほど形にした作品に視線を向けた。「左上に2人の旅人と地元で働いている農家の方がいるのですが、旅人は富士山を楽しむ一方、農家の人は慣れ親しんでいるからこそ、目もくれずにいる。ストーリーを考えさせてくれるのも魅力の一つなのかもしれませんね」とほほえんだ。
同館では企画に合わせて作品展示を1か月ごとに入れ替えており、何度来ても楽しめる。一度訪れただけで知識量が圧倒的に増えただけに、近いうちにまた訪れたいと思えた。
(伊藤 明日香)
◆由比宿 東海道16番目の宿場。東海道五十三次の浮世絵でも取り上げられているように富士山の眺望ポイントとして人気の「薩(さった)峠」がある。また、今では有名な桜えび漁が始まった場所。1894年(明治27年)、漁師が浮き樽(たる)を積み忘れたことで網が水深の深いところで引かれ、桜えびが多く獲れたことがきっかけとされる。それ以前は、さざえのつぼ焼きが名物だった。
◆静岡市東海道広重美術館 営業時間は午前9時から午後5時で定休日は月曜。入館料は一般520円、大学・高校生310円、中学・小学生は130円。住所は静岡市清水区由比297―1。JR東海道本線由比駅から徒歩約25分。