バルミューダを「デザインとテクノロジーの会社」と語るのは社長の寺尾玄氏。1つの製品が誕生するまでにデザインをのべ2,000~3,000通りも検討しているそうで、そこから最後の1つに絞り込んで世に送り出しています。
2024年3月に発売したオールシーズンファン(扇風機)の「GreenFan Studio(グリーンファン スタジオ)」も、そんなプロダクトの1つ。そこに込められているバミューダらしいデザインの考えと、扇風機の新しい提案について、寺尾社長とプロダクトデザイナーの原田さんが語りました。
○グリーンファンスタジオは、1年中使える扇風機
グリーンファンは、バルミューダが家電メーカーとして躍進するきっかけとなった製品です。独自の二重構造を持った羽根とDCブラシレスモーターを組み合わせたこの扇風機は、風が心地よいと多くのユーザーから支持され、現在もロングヒットを続けています。
新製品のグリーンファンスタジオは、一般的な扇風機と比べて約4倍に広がるという大きな風が特徴。自然界の風の快適性と、約23メートル先まで届くパワフルさを備えています。
しかも最大の風量にしても意外と静か。風に当たって涼むほかにも、冷暖房使用時の空気のかくはん(サーキュレーター的な使い方)、室内干しの洗濯物に風を当てて乾かす、換気をするときに部屋の空気を外に追い出す――といった用途にも使えます。公式オンラインストアの価格は42,900円。電気代の目安は、風量1で1日8時間、30日使用した場合で約11円(1kWhあたり31円で計算)。本体サイズは幅598×奥行き520×高さ900mm、重さは約3.6kg、電源コードは約3mです。
風量調節は5段階。切タイマーは1・2・3・4時間。自動首振りは左右それぞれ最大75度です。高さは変えられません。ここ注意です。
手動の角度調節は、左右それぞれ75度、上向きに24度、下向きに11度。最大で約23m先の空気を動かせるため、部屋で使うほかにも、廊下の端から使ったり、階段下から上階に向かって風を送ったり、クローゼット類の空気を動かしたりしたいときにも活躍するでしょう。
なお真上は向かないので、部屋干し洗濯物の乾燥に使うとき真下から風を当てるというよりは、少し離れたところから広く風を当てて乾かすイメージです。それでも自然乾燥と比べて約3分の1の時間で乾燥できるとしており、生乾きの臭いなどを防ぎます。
グリーンファンスタジオのオシャレなデザインはホコリがつくと台無しなので、こまめにお手入れしたくなりますが、ファンガードやガードホルダーなどのパーツは取り外して水洗い可能です。
実際にグリーンファンスタジオの風に吹かれてみましたが、優しく気持ちよいのは従来モデルと代わらず。暑い季節、仕事の思考やリラックスした気分をサポートしてくれそうです。三脚を思わせるデザインは、季節を問わず部屋に置きっぱなしでも違和感がありません(置き場所はまた別問題ですが……)。本体カラーはブラックとホワイトに加えて、オンライン限定でホワイト×ブラック(4月下旬発売)も用意します。
寺尾社長は、ここ最近「窓を開けないライフスタイル」が一般的になってきたと話します。「扇風機、サーキュレーター、換気扇、部屋干しの乾燥、これらを優れたデザインで1つにまとめたらすごく便利。バルミューダは次世代の扇風機を提案できるのではないか」(寺尾社長)と考え、グリーンファンスタジオを開発したとします。
バルミューダは、グリーンファンスタジオ「革新的で美しいオールシーズンファン」としています。季節を問わずに使うためには、デザインが重要でした。
ドイツの自動車メーカー、アウディのカーデザインで知られるプロダクトデザイナーの和田智さんは、従来の扇風機のシルエットには夏に置く雰囲気があるため、冬の部屋にはそぐわない感じがしますが、3つの脚で立つグリーンファンスタジオの姿は季節を感じさせず、「触った感触や雰囲気もよく、これなら1年を通して自分の事務所に置きたい」と印象を語りました。
「ケーブルマネジメントがポイントなんです。この径でケーブルを巻くことがデザイナーのこだわり。“よれ”たくなかったんです。同軸ケーブルにして張りを持たせて、巻いてもよれないケーブルを特注で作っています」(寺尾社長)
和田さんも「こういうケーブルだったら部屋に置いても納得できる」と笑顔。また、最近の家電はタッチ式の操作パネルで平らな部分を触ることが増えていますが、バルミューダの製品はボタンの手触りやケーブルの巻き方など立体的な感触にこだわりがあることに注目し、「新たな時代のファンクショナリズム(ムダを省き機能的で合理的なデザインを目指す考え)を形成している」(和田さん)としました。
これを受けて寺尾社長は、バルミューダがデザインを重要視している理由を改めて語り、それは離れたところから見ても製品の印象が決まるから。そんなデザインを決める上で寺尾社長が大切にしていることとして、「新しいものは次の日から古くなる。美しいものは100年たっても美しい。だから美しいものを作らないといけない」という和田さんの言葉を挙げました。
和田さんがデザインで大切にしている「クラシック」。その考えは共同作業を通じて寺尾社長やバルミューダのデザイナーにも浸透していきます。
「我々が考えるクラシックとは古くから残っているもの。なぜ残るのかというと、尊いから。人々がなんらかの尊さを感じたからきっと残っている」(寺尾社長)という解釈をした上で、バルミューダ製品のデザインを考えているとのこと。具体的には、「慎ましく美しくあること、健康的であることをどの製品にも織り込む」(寺尾社長)ことを意識してデザインしていると語りました。
筆者はクラシック音楽が好きですが、旋律や和音の中で作られる響き、当時の楽器とともに育ってきた音作り、さらにその音楽がどういう場所でどんな人が聞いて愛されてきたかという歴史も含めてとても好きです。それは、流行したのち時代遅れになってしまうものとは異なり、時代を超えて愛される存在。そう考えてみると、家具や車にはそういう一面がありますよね。
バルミューダの家電をなぜ部屋に置きたくなるのか――。今回のグリーンファンスタジオのように、新しい扇風機の使い方を提案し、時代を超えて愛されるデザインを備えた存在になりつつあるからかもしれません。
伊森ちづる 家電・家電量販店ライター。家電量販店の取材や家電メーカーの取材、家電製品のレビューを中心に活動。売り手、メーカー、ユーザーという3つの視点で家電を多角的に見るのが得意。雑誌、ニュースサイト、ラジオ、シンクタンク、自治体での情報提供など、多方面で活躍中。最近は、テクノロジー×ヘルスケア、テクノロジー×教育などにも関心あり。趣味は音楽鑑賞(クラシック)とピクニック。 この著者の記事一覧はこちら