まさに“吹き飛んだ”国内バス市場ようやく回復 足元では深刻な課題 三菱ふそう“異例の新規事業”とは?

コロナ禍で需要が壊滅的なまでに激減した国内のバス市場が、人流の活発化とともに復調してきています。しかし、バス業界を巡る状況は課題だらけ。メーカーである三菱ふそうも、これまでにない新規事業を検討しています。
「(バス工場の)生産ラインに多くのクルマが並ぶようになってきたのが、非常に嬉しい」
三菱ふそうトラック・バスの高羅克人バス事業本部長が、こう吐露しました。2024年4月15日、同社が開催したバス事業の動向について記者向けのラウンドテーブル(説明会)での一幕です。移動需要の回復によって、バスの販売市場もコロナ禍の苦境から抜け出しつつある状況を説明しました。
まさに“吹き飛んだ”国内バス市場ようやく回復 足元では深刻な…の画像はこちら >>三菱ふそうの大型観光バス。路線バスや小型バスよりもコロナ禍中の需要減が大きかった(画像:三菱ふそう)。
同社は日野・いすゞとともに国内3大バスメーカーであり、観光バス、路線バス、小型バスなどを製造しています。コロナによる新車需要の落ち込みはトラックよりも大きく、大型観光バスに至っては2019年と比べ需要比率が2021年に「12%」、2022年に「10%」まで落ち込みました。
車両製造を受託している三菱ふそうバス製造(富山市)の藤岡佳一郎社長は、「これほどまでの需要の落ち込みは経験したことがありませんでした。人流がバス事業にとって大事なものであるかを知りました」と振り返ります。
それが2023以降、インバウンドや旅行者の増加だけでなく、飲食店やスポーツジムなどの送迎需要も回復し、生産台数は2024年末でコロナ前の3割減ほどまで回復する見通しとのこと。高羅さんによると、コロナ禍中に滞っていた車両の代替え需要も期待され、「短期的にはコロナ禍前以上の需要も期待できるのでは」と話します。
三菱ふそうバス製造はコロナ禍中、工場を一時的に閉め、工員を他の業界へ出向させるなどして雇用を維持してきたといいます。同時に、新規事業などの展開とともに、生産工程の見直しを図り、工程を4分の1くらいまで減らして、納期で待たせない改善をしてきたそう。
一方で、バス事業者もコロナで苦境に陥るなか、前々から言われてきたドライバー不足については、思うように対策できないなかで深刻化してきたといいます。そこで、三菱ふそうバス製造が新規事業として検討しているというのが、「ドライバーの派遣支援」だそうです。
三菱ふそうバス製造では、大型免許を持っている社員が多いことを活かし、製造部門の社員を基本に、バス事業者へドライバーとして派遣することを考えているのだそう。「日本の交通網を支える大きな役割を、ハードだけでなく人の面でも支えられないかと考えている」と藤岡社長は話します。
この人材派遣事業が、「(業績回復の)劇的な起爆剤になるとは思っていない」としつつも、ドライバー不足の課題は「バス事業全体として考えていく」ことだと藤岡社長は強調しました。
ちなみに、バスのタイプ別でいうと、路線バスと小型バスは需要がより回復している一方で、最も落ち込みが激しく、回復も鈍いのが、貸切バスや高速バスで使われる大型観光バスです。路線バス事業者が、社会的な使命である路線バスの維持で手一杯となり、収益性の高い貸切バスなどの事業にドライバーを割くことが難しくなっていることも背景にあるようです。
そうしたなか、大型観光バスは「高級仕様」と「廉価仕様」に需要が二極化しているのだとか。
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三菱ふそうトラック・バスの高羅本部長(左)、三菱ふそうバス製造の藤岡社長(乗りものニュース編集部撮影)。
「少人数での豪華貸切バスのお話が多く出て生きています。コロナ前は富裕層中心ということでしたが、いまは日本人向けツアーでも増えています。コロナを経てソーシャルディスタンスが意識され、パーソナルスペースを拡げないとお客様から指示されなくなってきています」(高羅さん)
その一方、「廉価仕様」の代表として、従来よりも座席を1列増やした4列シートの「13列仕様車」のような着席を重視した詰め込み型のバスも、空港連絡バスなどを中心に需要があるそう。このニーズはコロナを経ても大きく変わってはいないそうです。

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