報復の連鎖に陥れば壊滅的な結果を招きかねない。当事国や関係国に対し「最大限の自制」を求める。
イランが13日から14日にかけ、イスラエルを弾道ミサイルや無人機で大規模に攻撃した。
イスラエルは200機以上の無人機と巡航ミサイルなど大部分を迎撃したものの、南部で軍基地に被害が出たほか少女1人が負傷したと発表した。
攻撃は1日に在シリアのイラン大使館が空爆を受けたことに対する報復だ。イラン革命防衛隊の司令官を含む隊関係者7人とシリア市民6人の計13人が死亡。翌2日にはイランの最高指導者ハメネイ師がイスラエルの犯罪だとして報復を宣言していた。
ウィーン条約で安全が保障されている在外公館への攻撃は許されることではない。
報復の実行を受け、イラン国連代表部はX(旧ツイッター)で「問題は終結したと見なすことができる」として、イスラエルにさらなる報復をしないようくぎを刺した。
だが、イスラエルの民放によると、同国の政府高官はイランへの再びの報復を表明している。
国と国がぶつかれば戦争に発展しかねず、これ以上の「エスカレーション」は何が何でも食い止めなければならない。
イスラエルを支援する米国はイランの攻撃を「最も強い言葉で非難する」との声明を発表した。
しかし、どちらかに加担すれば中東が火の海と化す。国際社会は一致して両国へ冷静な対応を呼び掛けるべきだ。
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1979年のイラン・イスラム革命以降、両国は敵対関係にある。イランは、イスラエルを攻撃する中東各地の親イラン武装勢力に資金、軍事両面で肩入れしてきた。
昨年10月からのパレスチナ自治区ガザでの戦闘以降、イスラエル軍とこうした武装勢力の衝突はシリアやヨルダンなどで拡大している。
ハメネイ師は大使館攻撃を「われわれの領土に対する攻撃」と受け止め、これまで見送ってきたイスラエルへの直接攻撃に踏み切った形だ。
一方、イスラエル側にとっては、イランを攻撃する口実ができたことになる。
「ハマスの殲滅(せんめつ)」を掲げるネタニヤフ政権は、国連安保理の停戦決議を拒否するなど攻撃の手を緩めようとしない。イスラエルの「自衛権」を重視する米国の外交は効果を生んでおらず、中東情勢は極めて深刻な局面に達している。
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戦闘が続くガザでは、人道危機が深刻化している。
米国際開発局(USAID)のパワー長官は、イスラエル軍の攻撃が続くガザ北部で、人々が飢餓に直面し始めているとした。米国の当局者がガザの飢餓を公言するのは初めてだ。
戦争に勝者はいない。先鋭化する対立にそれぞれの同盟国が加担すれば、こうした犠牲がさらに広がるだけである。今こそ、緊張の根源であるガザ戦闘の即時停戦の実現が求められる。