着工直前だった!?「第2パナマ運河」なぜ頓挫したのか 世界の物流救う驚愕スケール やっぱり裏に中国が

パナマ運河の「補完」「競合」にもなる「第2パナマ運河」の構想が、かつて実現に向けて動いていたことがありました。その壮大な規模と頓挫するまでの経緯とは――。
現在、スエズ、パナマの世界二大運河は、紛争と異常気象の悪影響で航行しにくくなっており、世界の物流が影響を受けています。このため、「バックアップの運河があれば」と誰もが考えるのですが、このバックアップ構想が、実は10年ほど前に完成に向かって動いていました。
着工直前だった!?「第2パナマ運河」なぜ頓挫したのか 世界の…の画像はこちら >>パナマ運河(画像:写真AC)。
俗に「第2パナマ運河」と呼ばれる「ニカラグア大運河総合開発プロジェクト」で、中米ニカラグアの南部を舞台に、カリブ海(大西洋)と太平洋とを結ぶものです。
“本家”のパナマ運河から500km弱北西の場所に造ることから、両者は「補完関係」とも「競合関係」ともいわれています。
全長は約259kmで、「パナマ」の約80km、「スエズ」の約195kmと比べても、かなりのスケールです。
他のスペックは、全幅230~520m、水深26.7~30m、航行可能な船舶の吃水は最大28m、閘門(こうもん)幅64m、閘室(ロック)長466mで、20フィート・コンテナ(TEU)2万5000個積載の超大型コンテナ船や、40万載貨重量トン(dwt)の超大型ばら積み貨物船・超大型タンカーが航行できます。
ちなみに数年前に拡張された「パナマ」が航行できる船舶サイズは13万dwt、閘門式でない「スエズ」は20万dwtです。
また現在、世界最大級のコンテナ船は2万4000TEUで、2023年からONE(オーシャンネットワークエクスプレス)が日本の造船所で竣工させた6隻の同型コンテナ船は全長約400m、全幅61.4mですが、これも楽に通過できそうです。
運河の想定ルートは、カリブ海側のプンダ・ゴルダ川河口付近から西に進み、標高200~300mの比較的なだらかで密林の丘陵地帯(チョンタレス山系)を横断。もちろん、できるだけ低地の谷間を選びながら、ニカラグア湖に連絡します。
同湖はまさに運河の“キモ”です。世界で10番目に大きい淡水湖で、面積は約8029平方キロメートルに達し、琵琶湖の10倍以上です。この湖を航路として活用し、105kmほど横切るお陰で、実際に運河として開削する長さは、155kmほどで済む計算です。
運河は同湖西岸からブリット川河口付近に向かい、ついに太平洋に達しますが、この間は20kmほどしかありません。
同運河にとって最大の難関は、高低差をどう克服するかです。
基本的にパナマ運河と同じ閘門方式を採用します。2つの水門で仕切られたプール状の閘室に船舶を入れ、水を出し入れして閘室内の水面を上下させ、水面の高さが異なる2つの水域をつなぎ、船舶を航行させる技術で、まさに「水の階段」です。
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パナマ運河の閘門(画像:写真AC)。
閘門施設は、カリブ海側のプンタ・ゴルダ河口のすぐ近くと、ニカラグア湖~太平洋の間に各1か所、計2か所構築します。
この結果、両閘門間の運河の水面は、ニカラグア湖の水面と同じ海抜32mに合わさなければならず、丘陵地帯での運河建設工事では、最大200m以上も山を開削する必要があるようです。
運河の航行はニカラグア湖部分を除き、基本的に片側通行で、船舶がすれ違うための退避スペースを何か所か設置する予定です。
閘門施設は1レーン「4水門・3閘室」の連続方式で、まるで3段の階段を上り下りするかのように、巨大船がここで上下します。
この閘門により閘室水面を海抜0~32mで上下させ、しかも水深は30mを保つのですから、門扉の高さは40~50m必要でしょう。
閘門式の先輩「パナマ」では、構造上、閘室で満たした水の大半を、そのまま“下段”に排出しています。このため、昨今の雨不足では、閘室の水資源確保の役割も果たす“上段”の人工湖・ガトゥン湖の水位が大幅に下がってしまい、水深が浅くなった結果、この湖の航行に支障が出ています。
これに対処するため、新運河の各閘門施設には、閘室の水を再利用するための節水槽を3か所準備し、水資源の節約にも力を入れる方針です。
また、さらなる水資源確保のため、カリブ海側のプンタ・ゴルダ河口に近い場所に、比較的大きな人造湖を造成し、水面の海抜はニカラグア湖と同じ32mに合わせるようです。
中米での運河構想は16世紀からあるようですが、本格化したのは19世紀後半からで、中南米で影響力を強めていたアメリアは、ニカラグアとパナマの両国を、運河建設の有力候補に掲げます。
最終的には1914年にパナマ運河を完成させますが、この間にもアメリカはニカラグアに軍事干渉を続けます。
実際同国で反米政権が誕生すると、アメリカは1910年代初めに軍隊を派遣し、1930年代前半まで占領しています。もちろん、世界戦略上極めて重要な、運河建設権などの確保が主な狙いです。
2000年代半ば、反米・親中路線を掲げるニカラグアのオルテガ大統領は、中国が勧める一大運河計画に飛びつきました。総工費は400億ドル、当時の円換算で4兆円以上に上る莫大な資金は、ニカラグアのGDPのざっと4年分(2014年時点)に相当します。オルテガ氏にとっては非常に魅力的だったに違いありません。
プロジェクトは運河建設を中心に、港湾整備や空港建設、周辺地域のインフラ整備や観光資源開発など多岐にわたり、数十万人の新規雇用も誕生するというものでした。
ただし、やはり、おいしい話には裏があるようで、中国側は見返りに運河の管理権の50年間租借(さらに50年間の租借延長の権利も含む)を要求したようです。
まさに「債務のワナ」の典型ですが、実際に資金調達で動いたのは「香港ニカラグア運河開発投資有限公司」(HKNDグループ)という企業でした。中国本土で通信系企業グループの事実上子会社です。
ただ、2014年には同計画が本決まりとなり、いよいよ工事が本格スタートするかと見られていた矢先、中国内外の投資家から多額の資金を集めていたHKNDグループは、突然資金繰りが悪化し、2018年に同社は事実上破綻しました。これにより運河計画は完全に頓挫してしまったのです。
一説には、「アメリカの裏庭で中国主導による運河建設など絶対に許さない」とホワイトハウスが潰しにかかったのでは、と囁かれていますが、現在のところ運河計画が復活したという話は聞かれません。

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