この4月から生活環境が変わり、クルマを運転する頻度が増えるという人も多いのではないでしょうか? クルマの運転で法律を守るのはいわずもがなの話ですが、実際に街に出てみると、暗黙のルールのようなものがけっこうたくさんあることに気づかされます。どんな「クルマのマナー」に気を付けるべきなのか、モータージャーナリストの内田俊一さんに聞きました。
社会人デビューでクルマデビューという方へ
4月は新しく社会に羽ばたいたり、あるいは仕事の環境が変わったりする時期である。場合によっては、社用車での移動が増えるかもしれない。そこで今回は、普段はクルマに乗らない、あるいは免許を取ったばかりであまりクルマに乗ったことはないけれど、仕事で乗らなくてはならないという方々を思い浮かべながら、「クルマのマナー」についてのお話をしよう。ただし、これは一般原則であり、会社によって違うこともあるだろうし、状況あるいはお住まいの地域によっても異なるかもしれないので、そのあたりはご容赦いただきたい。
サンキューハザード、やっぱり出すべき?
まずは交通マナーについていくつか取り上げてみたい。
最初は、いわゆる「サンキューハザード」と呼ばれるもの。高速道路での合流や車線変更のとき、路地から本道に入るときなどに、譲ってくれた人にお礼代わりにハザードを点灯して挨拶する例のあれだ。もともとは大型トラックのドライバーたちの間で広まったもので、いつしか一般ドライバー間でも使われるようになった。
これは厳密にいうと、むやみにハザードランプを点灯させてはいけないことになっている。「ハザード」という言葉の意味を考えればわかるように、これは緊急時に点滅させるものだ。従って、高速道路などの渋滞最後尾などではぜひ使用したい。後続車が確実に渋滞を認識したと思われるまでは点滅させたままにしておこう。
しかし、ギスギスした世の中、譲ったのにハザードを使わなかったといってトラブルが起きるかもしれないので、危険のない範囲で使ってもいいと思っている。ただし、むやみに使うのではなく、アイコンタクトや手を上げるなどの手段でお礼ができない場合に限った方がいいだろう。
やってもいいの? パッシング
また、クルマにはパッシング機能がある。これは、ステアリングコラム(ハンドルとクルマをつなぐ柱の部分)から生えているどちらかのレバーを手前に引けば、その間だけハイビームが点灯するというものだ。
例えば、前方の交差点に右折したくて待っているクルマがいて、こちらが直進で交差点に進入していくというケースでは、タイミングにより譲っても(待っているクルマを先に右折させてあげても)いいことがある。そんなとき、1~2度パッシングすれば「どうぞ」という意思表示になる。
対向車からそういう合図を受けた時は、受けた側も一瞬だけ点灯させて、相手に「譲ってくれてありがとう」という意思表示をすればいい。そして、相手が減速していることと、すり抜けなどの自転車やオートバイがいないことを確認しながら曲がるようにすれば、とてもスムーズに交通の流れを作ることができるだろう。
このパッシング、以前は高速などで追い越しをしたい場合によく使われていたが、最近はこれによるトラブルなども起きているので、積極的な使用は控えた方がいいだろう。
高速の追い越し車線を走り続けるのはNG?
その高速道路で最も注意したいのは追い越し車線の走行だ。
その名の通り、高速道路の「追い越し車線」は追い越しのためのもの。従って、追い越しが終わったら速やかに走行車線に戻らなければならない。よく、追い越し車線に制限速度だからとそのまま居座るクルマを見かけるが、これは通行区分違反という道路交通法に違反した行為であり、これがもとで交通トラブルに発展することもある。追い越しが終わったら、すぐに走行車線に戻るようにしなければならない。
ウインカーを出すタイミングは?
次は街中において注意すべき点を考えてみよう。
まず、右左折時や車線変更時には目視を徹底しよう。意外とクルマには死角が存在しているので、歩行者やクルマがいないかどうかを、ミラーなどに頼ることなく、頭や体を動かして確認するようにしたい。大型トラックのドライバーには、指先確認をするくらいに注意をしている人もいる。
右左折時や車線変更時は早めのウインカー点滅を心がけたい。最近、ぎりぎりでウインカーをつけるドライバーをよく見かけるが、これも違反だ。教習所では3秒、30m手前で合図すると教わったはず。これは理にかなったことで、周囲のドライバーに自分がどう動きたいかを知らしめるとともに、相手にも心構えをする時間を与えることができるのだ。
特に大型トラックなどは、重量もあるので、直前にいきなり割り込まれたらすぐには止まれず、事故を誘発しかねない。荷崩れを起こしてしまうことも考えられるので、十分な注意が必要だ。荷崩れを起こした場合には、損害賠償請求を起こされる可能性も否定できないからだ。
「次の人」に不快感を与えないように
社用車を使うなら、押さえておきたいマナーがある。
社用車は一人一人の社員に1台ずつ貸与されるのではなく、1台を何人かで使いまわすパターンが多いはず。そこで注意したいのは、クルマの中での飲食だ。
仕事の進捗状況によっては車内でお弁当を食べることもあるだろうし、飲み物を飲むこともあるだろう。そういった時はぜひ、食べこぼしや飲みこぼしがないようにしたい。カバンには手ぬぐいを入れておくことをオススメする。
クルマの中であれば、膝に手ぬぐいやハンカチをかけておけば、パンくずなどがこぼれてもそのまま片付けることができる。ちなみに、お店での食事の際も、膝にかけておけばスーツなどへの食べこぼしを防ぐことができるのでけっこう便利だ。そうそう、車内に臭いの残るような食べ物も避けた方がいいだろう。
また、クルマを返却する際は、シート位置を一番後ろまでスライドさせておくといいだろう。世の中にはさまざまな体格の人がいる。シートを下げておいてあげれば、次に乗る人が大柄でも乗りやすいはずだ。
車内はできるだけ清潔に保つようにして、ゴミは必ず持って帰るようにしたい。次の人が不快に思わないように、自分がされたらいやだなと思うようなことはしないことを心がけよう。
ざっと注意点を書き記してきたが、よく考えれば一般常識的なことばかりだ。次に使う人のことを考えたり、周りのことを考えたりすれば、ごく自然にできることばかりとも言える。ぜひ、初心に戻って丁寧な運転や心配りを忘れないでほしい。そうすれば、あなたも周りも気持ちよく過ごせるだろうから。
内田俊一 うちだしゅんいち 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験をいかしてデザイン、マーケティングなどの視点を含めた新車記事を執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員。 この著者の記事一覧はこちら