世界酒蔵ランキング2年連続1位 究極の食中酒が目標 宮城・新澤醸造店…みちのく地酒巡り

豊かな大地で育まれたお米と、厳選された名水を使用して造られる日本酒。東北6県では数多くの有名銘柄を生み出し、全国の酒好きをうならせている。とうほく報知では「みちのく地酒巡り」と題して、各地の酒蔵を随時紹介していく。第1回は究極の食中酒をコンセプトに世界酒蔵ランキングで2年連続1位に輝いている宮城・新澤醸造店。入社3年目から杜氏を任される渡部七海さん(28)に話を聞いた。
(取材・構成=山崎 賢人)
渡部さんは科学や食品系に興味を持って、東農大短大部の醸造学科に進学した。清酒学が一番面白く、醸造に興味を持った。2年時に東京で行われた試飲会のアルバイトで新澤醸造店の名前を知り「商品」としての酒を初めて意識。「造ることだけに興味があって銘柄に興味はなかったですけど、それぞれの蔵やお酒にコンセプトがあるのを知った」。二枚看板の「伯楽星」「あたごのまつ」という究極の食中酒を目標とすることに面白さを感じ、入社を決めた。
新澤醸造店は大崎市三本木で約140年間酒を醸し続けてきた。だが2011年の東日本大震災で壊滅的な打撃を受け、約80キロ離れた柴田郡川崎町に川崎蔵を新設。スタッフも一新されたため醸造学の知識は16年4月に入社した渡部さんの方が理解していた。2年目には自らの意見を言えるようになっていた。
川崎蔵では入社1年目からタンク1本を任されて洗米から瓶詰めまで行っている。18年に酒造した「あたごのまつ 鮮烈辛口」が「ベルギー・ブリュッセル国際コンクール日本酒・本醸造部門」で最高賞を受賞。実力が認められ、入社3年目には杜氏に任命された。「最初は『え~』と思いました。私たちが造ったお酒を、お取引先さんがどれだけ一生懸命売ってくれているかも知っている。トップになっておいしくなくなったらどうしようとビビっていた」。現場の人たちから後押しを受けて覚悟を決め、22歳の全国最年少女性杜氏が誕生した。
20年には世界中で新型コロナウイルスがまん延し、飲食店への出荷がほとんど止まった。社員のモチベーションも落ちていったが、新澤巖夫代表が「コロナが明けたらよりよい品質で皆さんにお返しできるように、とにかく品質に特化する。いろんなコンクールに出してみよう」と提案。世界中のコンクールに参加し、地域ごとで評価される味の違いも分かるようになった。「全部の国で良い賞を取るためにどうしたらいいかと考えるのが頑張る源にもなった」。22~23年の世界酒蔵ランキングでは2年連続の1位に輝いた。
若き杜氏が薦める銘柄は2つ。1つ目は最高賞を受賞した「あたごのまつ 鮮烈辛口」だ。「本醸造でアル添酒(アルコール添加の日本酒)って少し悪いイメージがあるかもしれないですけど、技術次第でおいしくなる。一升瓶で約2000円とコスパもいいです」
2つ目は「伯楽星 特別純米」。「基本的に冷酒がお勧めですけど、このお酒だけは燗(かん)をつけてもらってもおいしい。ぬる燗ではなく50~55度くらいに温めて飲むのもお勧めです」
これからの目標は、自身がいなくてもおいしい酒が造れる環境になることだ。「入社8年目で杜氏もたかだか6年目ですけど、醸造をやればやるほど、醸造だけじゃ分からないこともたくさん出てくる。市販店さんや飲食店さんと会話して分かることがたくさんあって、そういうのを酒造りに還元できるように会社としてやってかなければいけない」。社員全員で経験を積んで強いチームをつくり、安定したうまい日本酒を世界に届け続ける。
◆新澤醸造店 1873年に宮城県大崎市三本木で新沢商店として創業。1895年に新澤酒造店に変更。2011年に東日本大震災で蔵3棟、自宅すべてが全壊判定になり、川崎町に酒蔵を移転。本社は宮城県大崎市三本木北町63。11年から日本航空ファーストクラスに「伯楽星 純米大吟醸 桜」が搭載。18年には世界初の最高精米歩合0%表記の「零響―Absolute 0―」を発売。

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