ヘアアイロンのやけど、上級生の厳しい叱咤…和解も埋まらなかった認識の溝 宝塚歌劇団宙組娘役転落死問題

宝塚歌劇団(兵庫・宝塚市)の宙組娘役・Aさん(享年25)が昨年9月に転落死した問題で、親会社の阪急阪神ホールディングス(HD)は28日、Aさんへの14項目のパワーハラスメントを認め、慰謝料などを補償する内容で遺族側と合意書を締結したと発表した。この日午前、角和夫HD会長(74)らが遺族に直接謝罪。パワハラ行為をした上級生からの謝罪の手紙を遺族側に手渡した。
大阪府内で会見したHDの嶋田泰夫社長(59)は「ご遺族の心情を思うと、取り返しのつかないことをして申し開きできない。経営陣の怠慢」と謝罪した。一方で、Aさんの死とパワハラの因果関係は「特定は難しい」と厳しい表情も見せた。
事件発生から半年、年度内ギリギリというタイミングでの“決着”。大塚順一HD執行役員(66)は、21年にAさんが上級生からヘアアイロンを額に当てられ、やけどした問題で遺族から「故意では」と指摘を受けたことについて、「認識の一致には至らなかった」とし、上級生の厳しい叱咤(しった)も「悪意があったとまでは言えない」と一部で認識の違いが残ったことを明かした。
歌劇団の会見は「いじめ・パワハラは認められない」と外部調査チームの報告を説明した昨年11月以来2度目。当時は専務だった村上浩爾理事長(56)も出席した。前回は遺族側に対して「証拠があったら見せてほしい」と語り、ネット上で大炎上したが「お恥ずかしい。遺族には大変失礼なことをした」と頭を下げた。
宙組は5組で唯一、活動を休止している。当該上級生の処分は「劇団がしっかりと教育しなかったことが最大の原因。一人一人に責任を負わすのはあまりにも重い」と村上理事長。現在、宙組生は自主稽古に励んでおり、合意による活動再開には「まだ心身に負担のあるメンバーもいるかも」と気遣いながら「年内にも、現段階では同じ体制で」と前向きに話した。また、Aさんの妹で、歌劇団を批判する文書を公表した現役生徒の今後の処遇は「本日、私からご報告することはありません」とした。
◆遺族(母)談話要旨 「あの日から季節は幾度か変わりましたが、私たちの時間は止まったままです。今更ながら、2年半前にヘアアイロンによる火傷(やけど)があった時に泣き寝入りせず、声を上げれば良かったと、後悔してもしきれません。娘は決して弱かったわけではありません。過酷な労働環境と酷いパワハラの中でも、全力で笑顔で舞台に立っていました。そんな娘を誇りに思っています。一切パワハラは無かったと主張された劇団が、多くのパワハラを認め、本日ようやく調印となりました。言葉では言い表せないたくさんの複雑な想(おも)いがあります。娘に会いたい、生きていてほしかったです」

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする