南海トラフ沿いに「ひび割れ」 海底地すべりの痕? 到達が早く 発生場所が予測できていない津波

地震の際、予測できない場所で突然起きる「津波」。海底での地すべりが原因の津波は、過去にも起きています。能登半島地震で発生した「津波」。震源に近い珠洲市では最大4.3メートル、能登町では最大4.7メートルの津波が押し寄せ、大きな被害を及ぼしました。
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中央大学理工学部の有川太郎教授。地震の6日後には珠洲市や能登町に入り、津波の到達時間や避難状況を調査しました。(中央大学・有川教授)「4メートルくらいまで津波の高さが来ている。すごく高い」
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別の日、有川教授が調査を行っていたのは、震源から約70キロ離れた、富山県黒部市。ここを訪れたのには訳があります。(中央大学・有川教授)「1メートルくらいの津波が5~10分で来たという映像もあったので、きちんと分析したい」
黒部河川事務所が撮影した映像には、地震発生の約8分後に、押し寄せる波が高くなりました。
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有川教授は、富山の沿岸部に設置された複数のカメラの映像を分析。風によって起きる「風波」の成分を取り除き、1m弱、潮位が上がっていたと突き止めました。有川教授は、これが「津波」だと指摘します。気象庁のまとめによりますと、津波の第一波の到達時間は、震源に近い石川県七尾港で午後4時37分でしたが、そこよりも遠い富山市は、午後4時13分。地震発生のわずか3分後だったのです。これについて気象庁は震源とは別に、近くに津波を起こした場所「波源」が存在する可能性を指摘。海上保安庁の調査で、富山市から4キロ沖合の富山湾の海底で長さ約500メートル、幅約50メートルにわたる地すべりの痕跡が見つかったのです。
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(中央大学・有川教授)「沖側(震源断層)から津波が来ると(ここまで)20分くらいかかるので“地すべりによる津波”だと説明がつく」海底地すべりによって、なぜ津波が起きるのか。有川教授の研究室で、実験を行いました。
巨大な水槽に傾斜約20度の砂地を作り、人工的に地すべりを起こします。
斜面の砂が滑り落ちると、水面に変化が。真横からのスロー映像では、砂の動きに引っ張られるように水面がいったん下がり、その後、水面が持ち上げられました。
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今度は傾斜約30度の地形を作り、仕切りを外して斜面を一気に崩す実験を行います。先ほどの実験よりも大きく水面が下がり、そのあと波が発生。崩れた際、陸地手前では引き波が起き、その後一気に津波が押し寄せました。
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これが海底地滑りによる津波のメカニズム。波はいったん引きますが、何度も押し寄せてきます。
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(中央大学・有川教授)「急な勾配で、大きな塊が動けば非常に大きな津波が起こる可能性があるということ」海底地すべりによる津波は、南海トラフ巨大地震でも発生するのか?JAMSTEC(ジャムステック)=海洋研究開発機構の今井健太郎さんは、1944年に南海トラフが動いた「東南海地震」での津波の高さを調べました。
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その結果、静岡から和歌山まで平均5メートル程度だったのが、三重県熊野市新鹿(あたしか)地区だけ、10メートルを超えていたことがわかったのです。
事実、新鹿地区には標高13.6メートルの地点に「ここまで津波が来た」という標識も残されています。
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なぜ、ここだけ津波が高くなっていたのか?(JAMSTEC 地震津波予測研究開発センター 今井健太郎さん)「要因の1つは『海底地すべり』と我々は考えています」
1944年に起きた東南海地震の震源の位置やマグニチュードなどから、津波をシミュレーションしてみると…(JAMSTEC 今井さん)「赤いところが津波の浸水域。最大遡上地点は断層運動(による津波)だけでは再現できないことが分かっています」
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では、熊野沖で海底地すべりが起きた想定でシミュレーションをすると…今度は新鹿地区に到達した津波が、実際の浸水域とほぼ同じになったのです。海上保安庁が調べた南海トラフの海底地形では、トラフ沿いにひび割れのように見える部分が。これは“海底地すべりや崩落の痕”だと言います。
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実際、JAMSTECが渥美半島沖や駿河湾沖の海底を目視で調査した結果、海底地すべりの痕跡が見つかりました。
(JAMSTEC 今井さん)「南海トラフ地震はプレート境界で発生するが、海底地すべりは大陸棚の斜面上でも起こるので、すぐに津波が到達してしまう」
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政府の中央防災会議がまとめた被害想定では、南海トラフ巨大地震が起きると、1メートルの津波の到達時間は三重県南部で最短4分後、愛知県豊橋市に12分後となっています。
しかし、海底地すべりによる津波は到達がより早く、何よりどこで発生するかの予測が全くできていません。
最近でも海底地すべりが原因の巨大津波は発生。2018年9月にインドネシアのスラウェシ島で起きた地震では、最大遡上高が約10メートルに上る津波が確認されています。
広い範囲が震源域になっている南海トラフ巨大地震。海のどこで起きるか分からない海底地すべりによる津波にも、警戒する必要があるのです。
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