[社説]陸自ヘリ墜落調査 原因特定せず飛ぶのか

事故調査に限界があるとはいえ、原因が判然としないのでは効果的な再発防止策を取ることは難しい。飛行再開の前にまずは原因の特定に力を注ぐべきだ。
陸上自衛隊のUH60JAヘリコプターが昨年4月に宮古島沖で墜落した事故で、陸自の航空事故調査委員会が調査結果を公表した。
事故機は熊本県の高遊原分屯地に駐在する第8師団第8飛行隊のヘリ。航空自衛隊宮古島分屯基地を離陸してからわずか10分後に行方が分からなくなった。
搭乗員10人全員の死亡は陸自の航空機事故として過去最悪の事態で、原因究明が待たれていた。
しかし、事故から約11カ月後に公表された調査結果で陸自は原因を特定できなかったとしたのである。
フライトレコーダー(飛行記録装置)の解析などでは離陸から8分後、機体右側のエンジンで出力が徐々に低下したことが判明した。
同機は片方のエンジンだけでも飛行できる。だがその後、左側の出力も低下し始めたことで高度が急速に下がり、最初の異常から約90秒後に海に墜落したとみられている。
陸自は墜落した理由について、左右のエンジンが相次いで出力低下するという「これまでにない事象が生起した」ためと説明した。
二つのエンジンが同時に不具合を起こす可能性はほとんどないとされている。一体なぜ2基ともに出力が低下したのか。その究明こそが必要だ。
■ ■
右側の出力低下の要因については「ロールバック」が起きたと推定された。
エンジン制御装置へ空気を送り込む管に詰まりや漏れなどの異常があった場合に起きる「まれな現象」という。
とはいえ、調査の段階で米国では事例があったことが判明した。
マニュアルにも記載されておらず、操縦士も知らなかったとすれば問題だ。
左側については(1)エンジン制御の不具合(2)出力の不具合(3)操縦ミス-の3点を調べたものの要因の特定には至らなかったとした。
ただ、それであれば特定に至らなかった根拠も明らかにすべきだろう。
同型機は全国7カ所に配備されており、陸自那覇駐屯地の機体は急患輸送の任務にも当たる。
整備回数を増やし、操縦士の訓練を徹底するなどの再発防止策を取った上で同型機の飛行を全面的に再開するというが、根本原因が不明のままでは搭乗員はもちろん、住民の不安も解消されない。
■ ■
陸自は昨日、墜落事故で運用をやめていた輸送機オスプレイの飛行も再開した。
米軍の運用再開を受けたものだが、そもそも米軍は事故原因となったとする部品の詳細を住民や地元に明らかにしていない。
そうした中で懸念されるのは米軍や自衛隊の航空機事故が頻発していることだ。
南西諸島の防衛強化による訓練の激化が要因となっていないか。事故の背景についても詳細な分析が求められる。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする