ウクライナ侵攻の序盤、T-72など、ロシア軍戦車の撃破画像がSNSで次々投稿され、これらの車両を「モンキーモデル」と呼ぶケースがありました。この言葉はどういった意味なのでしょうか。
2022年2月に始まったウクライナ侵攻の序盤、歩兵携行型の対戦車ミサイル「ジャベリン」や自爆ドローンなど撃破されたT-72やT-90など、ロシア軍戦車の画像が次々とSNSで投稿され、これら撃破された車両を「モンキーモデル」と呼ぶケースもSNSではみられました。この言葉はどのような車両を指すのでしょうか。
「あれ…この戦車ヘンじゃない?」かつてソ連が作っていた“弱体…の画像はこちら >>湾岸戦闘の73イースティングの戦いで撃破されたT-72(画像:アメリカ国防総省)。
「モンキーモデル」とは、もともとアメリカを中心としたいわゆる西側陣営の国々が1980年代初頭から、一部の輸出用ソ連兵器を指して呼んだ名称です。西側に亡命した情報将校がその存在を紹介したといわれています。
当時ソ連は、ワルシャワ条約機構に入っている同盟国の軍隊にはオリジナルモデルを、それ以外の国向けには、意図的にスペックダウンやデチューンを施した兵器であるモンキーモデルを供給していたと噂されています。
その品目は戦車や戦闘機、攻撃機など様々だったようですが、特に地上兵器に関してはモンキーモデルの存在がほぼ確定的になった事件がありました。1991年に勃発した湾岸戦争です。
同戦争でイラク軍はT-55、T-62、T-72などのソ連製戦車を投入していました。そのなかで最新だったT-72に関して、アメリカ軍が開戦に先駆け、エジプト軍の装備していた車両をテストしています。
その結果、主砲の有効射程がソ連のカタログスペックよりも短くなっていたそうです。さらに装甲についても、塔前面などに封入されていた複合装甲がなく、その部分は単なる鋼板だったということが明らかになりました。
ほかのT-55、T-62に関しても、それ以前の中東諸国とイスラエル軍の戦闘においてモンキーモデルの可能性が指摘されており、クウェートおよびイラクで行われた地上戦では、アメリカ軍のM1A1「エイブラムス」やイギリス軍の「チャレンジャー1」など、多国籍軍の主力戦車に対し、ほぼ一方的に撃破されることになりました。
なぜ、ソ連がモンキーモデルを供給していたかについては、ソ連時代に一切明言されることがなかったので定かではありませんが、戦闘による鹵獲のほか、輸出国や操縦者の離反などで、アメリカやイギリスといった西側諸国に自国の先端技術が流出するのを防ぎたい狙いがあったといわれています。
現在、ウクライナの戦場でロシア、ウクライナ両軍が使っているT-72は、もともと両国とも旧ソ連の構成国なのでモンキーモデルではありません。ただ、対戦車ミサイル「ジャベリン」や、車両上部を狙った自爆ドローンのトップアタックなど、開発当時にはなかった戦法で被害が続出したため、モンキーモデルと揶揄する意見が出ました。
また、ロシアはT-72の後継戦車となっているT-90に関しては、ソ連製の戦車が大きく信用を落としたことで「モンキーモデルは作らない」と明言しています。ただ、2004年からロシア軍で導入されているT-90Aの輸出版であるT-90Sは、T-90Aに搭載されている赤外線防護システム「Shtora-1」が未搭載で、モンキーモデルほどはひどくはありませんが、若干のデチューンを施したモデルとなっています。
Large 240314 mo 02
開戦序盤クウェートの空港で撃破されたT-72(画像:アメリカ陸軍)。
とはいえ、このデチューンはそれほど大きな問題はないようで、ロシア軍は、本来インドやベトナム向けに製造されたT-90Sをウクライナの戦場に投入しており、一部車両はウクライナ軍が鹵獲しています。