ボーイングとエアバスの旅客機が海外航空ショーで行う展示飛行は、どちらも空港で絶対に見せない“アクロバティック”な飛びっぷりです。ただ、2社の飛び方にはちょっとした差が。見栄えもけっこう異なります。
ボーイングとエアバスの旅客機が海外の航空ショーで見せる展示飛行は、普段、空港では見せない大胆かつアクロバティックで、機動性に富んだものです。機体が大きい分だけ、戦闘機より迫力があるかもしれません。ただ、2社の旅客機による展示飛行には、結構な違いがあります。
ボーイングvsエアバス「本気飛びの差」なぜ? 航空ショーでか…の画像はこちら >>上がエアバスA350-1000。下がボーイング777-9(画像:エアバス・ボーイング)。
そもそも、旅客機はいかに振動を抑えて乗客を快適に運ぶかが問われますが、急旋回や急上昇ができないわけではありません。かつて、ボーイング707の原型機367-80、通称「ダッシュ・エイティ」が、主翼をぐるりと一回転させる「バレル・ロール」と呼ばれる横転を行い、地上で見ている人のド肝を抜いたこともあります。
現代の航空ショーでここまですることはありませんが、戦闘機に劣らぬほど、観客の目の前で急上昇したり急旋回したり、車輪を下げてゆっくり飛んだかとおもえば急加速して会場を沸かせる――というのが一種のお約束になっています。
その旅客機の中で、大型機の代表であるボーイング777XとエアバスA350の展示飛行を何度か見ていると、同じ旋回角度や上昇具合でも、777Xの方がA350より、やや機敏に次の動きへ移るように見えます。
777Xの方が派手なのに対し、A350は幾分まったり感があり、真面目に課目をこなしている印象を受けます。
777X、A350とともに、操縦には電気信号で操縦用の翼面を動かす「フライ・バイ・ワイヤ」システムを使っています。
「フライ・バイ・ワイヤ」の操縦系統への全般的な実装はエアバスのほうが先です。このシステムは、システム自体の入力がパイロットの操縦桿による指示を上書きすることさえあります。かたやボーイングは、長年操縦士の操作が、コンピューターの入力より優先されるというコンセプトを長年持ち合わせていました。こういった設計思想の違いは展示飛行にも影響を与えているかもしれません。
もう一つ、可能性として考えられるのが“国民性”でしょう。
米国は航空機が身近にある国で、航空ショーでは小型プロペラ機のアクロバット飛行なども見ることができます。それらは先述の「ボーイングの空中横転事件」に系譜を感じるような「チャレンジ精神」に富んだ飛行ぶりです。こうした土壌が、派手めの飛行を許容しているとも思えます。
なお、エアバスはいまや「世界一売れている旅客機」であるA320の展示飛行時、操縦に失敗し墜落・大破したことがあります。この機は同社初の「フライ・バイ・ワイヤ」搭載機であったので、そういった歴史的経緯が展示飛行の飛び方に影響を与えている可能性も否定できないでしょう。
ちなみに海外の航空ショーで旅客機が“アクロバット飛行”するのは、軍のアクロバットチームに比べて短めで、大雑把に言って10分間未満です。今年2月のシンガポール航空ショーでのA350-1000はそれより短く、急旋回や急上昇した回数も少なかったです。
しかも今回、A350-1000は搭載した燃料のうち35%にSAF(持続可能な航空燃料)を用いました。二酸化炭素(CO2)の排出削減は世界の航空界でも重要なテーマなだけに、長く飛ぶことで、SAFも従来の燃料と飛びように違いはないことをアピールする機会であったにもかかわらずです。
これはひょっとして、ライバル777Xが今回、地上展示さえもなかったため、A350-1000が張りを無くしたか、短時間でも十分に見せたと思ったゆえかもしれません。