「艦隊」という言葉を聞いてどのようなイメージを持つでしょうか。戦艦や空母を中心に周囲を護衛駆逐艦が取り囲む――しかし、アメリカ海軍で耳にする「第○艦隊」は、このイメージとは異なります。
2024年2月15日、神奈川県にあるアメリカ海軍横須賀基地において、アメリカ第7艦隊の司令官交代式が行われました。これまで2年半にわたり司令官を務めてきたカール・トーマス中将に代わり、新たにフレッド・ケイチャー中将が就任しました。 式典において、ケイチャー中将は「第7艦隊を率いることとなり、これほど身の引き締まる思いはありません」と述べたうえで、「世界で最も複雑な海域のひとつで、戦闘において信頼できる海軍戦力を運用するため、前方展開する部隊に再び参加できることを光栄に思うとともに、同盟国やパートナー国の海軍と共に、自由で開かれたインド太平洋という共通のコミットメントに従事することを楽しみにしています」と、司令官就任にあたっての意気込みを述べました。
「艦隊」=軍艦ゾロゾロじゃない! 第3艦隊が「今から第7艦隊…の画像はこちら >>2014年に実施された、環太平洋合同軍事演習(RIMPAC)における記念写真撮影の様子(画像:アメリカ国防総省)。
さて、新しい司令官を迎えたこの第7艦隊ですが、「艦隊」と聞くと皆さんはどのようなイメージを持たれるでしょうか。たとえば、空母や戦艦といった大型の艦艇を中心に、その周辺を巡洋艦や駆逐艦などが取り囲んで陣形を作っている様子を思い浮かべる方も少なくないはず。しかし、アメリカ海軍における「〇〇艦隊」というのは、それとはおもむきが少し異なります。
アメリカ海軍では、第7艦隊のような番号付きの艦隊(ナンバードフリート)を現在7個(第2、第3、第4、第5,第6、第7、第10艦隊:ただし第10艦隊はサイバー戦や通信、情報戦関連の部隊)運用しています。それぞれの艦隊には担当エリアが設定されていて、たとえば第7艦隊は、太平洋の真ん中に設定されている国際日付変更線の西側から、中東を除くインド洋までの広い海域が担当区域です。
各艦隊には、任務別に編成される「任務部隊(タスクフォース)」が指揮下に置かれており、ここに水上艦艇や特殊部隊などがそれぞれ配置されています。そして、艦隊はこうした部隊の訓練や管理を行い、有事の際には上位の統合軍司令官(第7艦隊であればインド太平洋軍司令官)に部隊を差し出す「フォースプロバイター」としての役割を担っているのです。
つまり、アメリカ海軍における「〇〇艦隊」というのは、担当区域別に指揮下の部隊を管理する組織ということになります。一般に想像される艦隊という意味では、むしろその指揮下にある任務部隊の方が近いといえます。たとえば、第7艦隊の中に置かれている第70任務部隊は、原子力空母「ロナルド・レーガン」を中心とする強力な水上部隊です。
ちなみに、ある艦隊の艦艇が別の艦隊の担当区域に入ると、その間はその区域を担当している艦隊の指揮下に入ることになります。たとえば、アメリカ本土を出港した艦艇であれば、当初は第3艦隊(国際日付変更線より東側の太平洋を担当)所属ながら、国際日付変更線をまたいだ瞬間に第7艦隊の指揮下に入るという具合です。
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アメリカ海軍における艦隊の担当区域図(画像:パブリックドメイン,via Wikimedia Commons)。
ところで、冒頭で紹介した第7艦隊の司令官交代は横須賀基地で行われましたが、それでは第7艦隊の司令部は横須賀基地に置かれているのでしょうか。厳密にいうと実は違います。というのも、第7艦隊の司令部は“移動式”であるためです。
第7艦隊司令部は、横須賀基地を母港とするアメリカ海軍の揚陸指揮艦「ブルーリッジ」の艦内に置かれています。「ブルーリッジ」は1970(昭和45)年に就役した艦艇で、軍の指揮を執るための洋上基地として機能するべく、通信システムを満載した特殊な軍艦です。横須賀基地に配備されたのは1979(昭和54)年のことで、横須賀基地を母港とする軍艦の中では現在、最古参の艦艇です。
中国や北朝鮮への対応を見据えると、今後も第7艦隊には最新鋭の艦艇が多く配備されることになるでしょう。それらの活動を支える「ブルーリッジ」を含め、将来にわたり日本ではさまざまな軍艦を目にする機会に恵まれることになりそうです。