世界的建築家の「カジノありきの万博」「あり得ない」の批判に、維新・大阪市長が「万博とカジノ関連ない」と失笑の大ウソ反論

開幕まであと約400日に迫った大阪・関西万博。2億円のデザイナーズトイレや「世界最大級の無駄」とも呼ばれている大屋根リングなど問題が山積しているが、そんななか、日本を代表する建築家が「カジノありきの万博」を批判し、話題を集めている。
その建築家は、先日、「建築界のノーベル賞」と言われるプリツカー賞を受賞したばかりの山本理顕氏。世界的に優れた建築家に贈られる同賞を日本人が受賞するのは5年ぶりの快挙だ。
そして、今回の受賞を受けて山本氏はTBSの取材に応じたのだが、そのインタビューのなかで“専門家であるはずの建築家が社会の中で信頼を失っているのではないか”という課題を感じているとし、その例として大阪万博を挙げ、こう批判したのだ。
「あれほどひどい計画は、建築家から見たらあり得ないと思う。日常生活を阻害するような施設がカジノ。社会貢献(課題解決)をすることを前提にしている博覧会に対して、明らかにカジノのための万博になっていると思います。そこに対して建築家集団は何も言わない」
「カジノは日常生活を阻害する施設」「大阪万博はカジノのための万博」──。世界的な建築家による直球の大阪万博批判だが、ネット上でも「その通り」「超正論」などと賛同する意見が溢れた。
だが、山本氏の「カジノのための万博」発言に、横山英幸・大阪市長が噛みつき、SNSでこう反論したのだ。
〈当たり前ですが「万博」と「IR(統合型リゾート)」は完全に別事業であり相互に関連はありません。そもそも万博開催は2025年4~10月「IR」は2030年開業予定時間軸も相当に離れてます。〉
大阪万博とカジノは相互に関連がない……? まったくバカも休み休みに言え、という話だ。
まず、横山市長は「万博とカジノには関連がない」とする論拠として、万博の開催時期とカジノ開業の時期が「相当に離れている」ことを挙げたが、これ自体がとんだ歴史修正だ。というのも、当初、吉村洋文・大阪府知事と松井一郎・前大阪市長は「相乗効果を狙って万博前にカジノを同時にオープン」することを明言していたからだ。
実際、IRの誘致候補地となっていた夢洲を万博会場候補地に決定した2016年9月、当時大阪市長だった吉村氏は「万博とIRで相乗効果が出せるような仕組みにしていきたい」と発言。相乗効果を狙うために万博開幕の前年である2024年にIR開業を目指し、2019年3月に大阪維新の会が公表したマニフェストでも「2024年には夢洲にIRの開業を実現」と記していた。ところが、工期や国のIR整備計画申請受付の延期などもありIR開業予定時期はどんどん後ろ倒しされ、現在の2030年開業予定となったのだ。
ようするに、万博の開催時期とカジノ開業の時期が「相当に離れ」たのは、結果論でしかないのである。だいたい、万博経費が上振れするなか、維新の馬場伸幸代表は昨年9月、「税金の無駄遣いとは言えない。万博からIRというレールが敷かれていて、うまくいけば大阪・関西経済に大きなインパクトがある。そこには惜しみなくお金を出していく」と発言したのを横山市長は忘れたのか。
横山市長のみならず、吉村知事や松井前市長なども、いまでは「万博とカジノはセットではない」といったポーズをとっているが、「大阪万博はカジノのありきの万博」であることは揺らがない事実だ。
そのことを明らかにするためにも、カジノと万博誘致の経緯を振り返ろう。
そもそも、大阪へのカジノ誘致計画は橋下徹・府知事時代からはじまっている。たとえば、橋下府知事は2009年、「こんな猥雑な街、いやらしい街はない。ここにカジノを持って来て、どんどんバクチ打ちを集めたらいい。風俗街やホテル街、全部引き受ける」と発言。この発言は当然ながら批判を浴びたが、橋下氏のカジノ誘致への姿勢は変わらず、2013年12月に大阪府・市は「IR立地準備会議」を設置。2014年4月に松井知事はIR予定候補地を夢洲とする意向を表明し、その4カ月後である2014年8月には万博の誘致を表明した。
一方、万博予定地を決めるために2014年には立地調査がおこなわれたが、候補地としてあがっていたのは花博記念公園鶴見緑地や万博記念公園といった万博跡地、関西国際空港に近いりんくう公園・りんくうタウンといった場所で、夢洲は交通アクセスの不備が指摘されていた。また、翌2015年7月には府や経済界などでつくる検討会が府内6カ所を候補地として選定したが、そこに夢洲は含まれていなかった。
ところが、2016年5月21日に松井知事が菅義偉官房長官と東京都内で会談し、その場で「会場候補地は夢洲を軸に検討する」と方針を伝達(朝日新聞2016年5月23日)。同年7月22日に開かれた「2025年万博基本構想検討会議 第1回整備等部会」の議事録によると、事務局の担当者が「夢洲は、要は知事の試案ということで、知事の思いということで、この場所で出来ないかということでお示しをした場所でございます」と発言している。
つまり、大阪万博を夢洲で開催するというのは事実上、松井氏によるトップダウンの決定だったわけだが、松井氏が夢洲にこだわった理由、そして菅官房長官にわざわざ報告をおこなったのは、夢洲がカジノ候補地だったからにほかならない。
夢洲はもともと廃棄物の最終処分場だったためインフラ整備に巨額の金がかかるが、カジノだけでは税金投入に反対意見が出る。しかし、万博という大義名分を使えば、夢洲のインフラ整備を図ることができる──だからこそ、松井氏は万博誘致を決めたとしか思えないのだ。
さらに、この「カジノありきの万博」案は、万博候補地を夢洲に据えた2016年5月の松井・菅会談以前から安倍政権と共有がなされていたはずだ。松井氏は著書『政治家の喧嘩力』(PHP研究所)のなかで、2015年の年末に安倍晋三首相と菅官房長官、吉村氏、橋下徹氏とおこなった忘年会において、〈総理にお酒を注ぎながら、一生懸命、持論を展開した〉と記述。「菅ちゃん、ちょっとまとめてよ」という安倍首相の一言で〈大阪万博が動き出した〉と振り返っている。当時、安倍首相が「カジノは成長戦略の目玉だ」としてカジノ合法化に向けて前のめりだったことを踏まえると、カジノありきで万博を推進していくことは暗黙の了解となっていたと考えるのが自然だろう。
そして、維新と安倍政権が一体となって「カジノありきの万博」が進められた結果こそが、現在の国民負担の増大だ。
いま、SNS上では、万博会場の下水処理能力が疑問視され、馬場代表が「汲み取りのトイレが衛生上問題だとは思わない」と言い出したり、吉村知事が「汲み取りはデマ。汲み取りではなく、全て水洗だ」などと火消しに走るなどの騒ぎとなっている。だが、そもそも汲み取り云々の話以前に、万博という期間限定イベントのために下水道をわざわざ整備しなければならないことが問題なのだ。実際、昨年3月8日の大阪市議会での説明によると、下水道整備にかかる総事業費は115億円にものぼるという。
無論、問題は下水道だけではない。地盤改良に盛り土作業、上水道、電気、道路の整備、地下鉄延伸……。当初、万博会場の候補地として挙がっていた前回の大阪万博跡地である万博記念公園や服部緑地、鶴見緑地などで実施すれば、こうしたインフラ整備にここまでの巨額を投じる必要はなかった。つまり、カジノ誘致ありきで万博会場を決めたばかりに無駄遣いがまかり通り、「トイレは汲み取りになるのか」などの疑念を膨らませることにつながっているのだ。
今回、「カジノは日常生活を阻害する施設」「大阪万博はカジノのための万博」と批判をおこなった建築家の山本理顕氏は以前、横浜市が誘致を進めていたカジノ計画に対しても「市民を置き去りにしている」「カジノで集客する考えは20世紀で破綻した」とし反対の立場を取り、横浜市が実施したコンセプト提案にもIR事業者に混ざって参加。カジノありきではない〈住む人の生活そのものが観光資源となる場所をイメージ〉した提案をおこなった(毎日新聞2020年10月29日付)。
一方、大阪カジノは、市民を置き去りにするばかりか、示された民意さえ蔑ろにした。2022年には大阪カジノ誘致の賛否を問う住民投票の実施を求める署名運動がおこなわれ、住民投票実施の条例案を吉村知事に直接請求するために必要な法定数を超えたというのに、維新独裁体制の大阪府議会はこれを否決。松井・吉村両氏は府民の民意を切り捨てた。
そればかりか、2016年に松井知事は「IR、カジノに税金は一切使いません」と明言していたにもかかわらず、カジノ用地の汚染土壌対策として788億円を上限に大阪市が負担することを決定。IR開業後に施設拡張がおこなわれる場合は追加で約257億円の公費負担が必要だと市が試算しているほか、万博跡地の一部を「国際観光拠点」とするべくIR予定地と同様の対策をした場合はさらに約766億円が必要だと見られている。つまり、夢洲の土壌対策には今後、合わせて1000億円が必要になる可能性があるのだ。
山本氏による「大阪万博はカジノのための万博」という批判は当然の意見であり、公然の事実だ。しかし、それさえも事実を捻じ曲げた反論にもなっていない反論で浅ましい態度をとる維新。このような連中に、いったい何を任せられるというのか。大阪万博とカジノは、中止一択しかないだろう。

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