「W214型」へと進化したメルセデス・ベンツ「Eクラス」の試乗会があると聞いたので、愛車の「W124型」に乗って出かけてきた。新旧Eクラスのサイズ比較、新型Eクラスのエンジンによる乗り味の違い、デジタル面での進化などをたっぷりお伝えしたい。
W124とW214が千葉のゴルフ場で対面した
W214型Eクラスは2024年1月の「東京オートサロン」で日本初披露となった。一方、筆者の愛車であるW124型Eクラスのデビューは1985年だ。所有しているのは1993年製の「280E」で、初期モデルは「ミディアムクラス」と呼ばれた。
124と214の間には39年という歳月が横たわっている。ただ、メルセデス・ベンツの中核セダンというEクラスの立ち位置は今でも変わっていない。累計販売台数は1,600万台以上に達しているそうだ。
今回は千葉県内の会員制ゴルフ場を起点としたW214の試乗会にW124で乗り付け、最新Eクラスの仕上がり具合を確かめてきた。
ボディの大型化は顕著、デザインの違いは?
W124のボディサイズは全長4,740mm、全幅1,740mm、全高1,410mmで現行の「Cクラス」よりも小さい。対する新型Eクラス(W214)は全長4,960mm、全幅1,880mm、全高1,470mm。6世代の進化を経て長さ220mm、幅140mm、高さ60mmの大幅なサイズアップを果たしている。
W124のデザインは、A、B、Cピラーの延長線が空中の一点に収束するバウハウス的で機能重視な仕上がり。一方のW214は、短いフロントオーバーハング、長いボンネット、滑らかなルーフライン、後退したグリーンハウスで構成された「キャブバックワード」のスタイルをとる。今時のメルセデスらしいデザインだ。スリーポインテッドスターを模したおむすび型のリアライトにはちょっと違和感を感じるけれど、今後はこれがメルセデスの標準になるのかもしれない。
同じセダンで3種のパワートレインを体感
パワートレインも新旧で比較してみよう。
W124は直列6気筒(2.6Lと3.0Lのシングルカム、2.8Lと3.2Lのツインカム)をメインとし、V型8気筒(4.2Lと5.0L)や直列4気筒(2.2Lと2.3L)など、さまざまなエンジンを搭載していた。
新型Eクラスの日本導入モデルは電動化した2.0L直4ターボエンジンを基本とする。ISG付きマイルドハイブリッド車(MHEV)はガソリン(1,997cc)の「E200」とディーゼル(1,992cc)の「E220d」の2種類。これに加えて2.0Lガソリンのプラグインハイブリッド車(PHEV)「E350e」が選べる。
最初に乗ったのは「E200アヴァンギャルド」。価格は894万円で、デジタルインテリアやAMGラインのオプション(計264.3万円)をプラスした試乗車の総額は1,191.3万円だった。
最高出力204PS(150kW)、最大トルク320Nmを発生する「M254」型2.0L直4ガソリンエンジンに23PS(17kW)/205Nmを発生する電気モーター(ISG)のブーストが加わり、軽快感たっぷりでよく走る。4気筒エンジンらしい音はするが、遠くの方から聞こえてくるような感覚だった。直噴のガラガラ音が少しだけ気になる。
次に乗ったのは「E220dアヴァンギャルド」。価格は924万円、デジタルインテリアやレザーエクスクルーシブパッケージなどのオプションが計280.4万円、総額が1,238.8万円だ。
197PS(145kW)/440Nmの「OM654M」型2.0LクリーンディーゼルエンジンにISGという組み合わせは、低速からアクセルを強く踏み込んだときに背中にガツンとくる強烈なトルク感が小気味よく、速度が上がるとよりスムーズになる。
2台とも、普通に走っている時には9Gトロニックが細かく変速し、なるべく低回転にしつつエンジンのおいしいところを使い続けるので、車内は静粛そのもの。変速時のショックはほとんど感知できないほどだ。Aピラーとドアミラーの形状や各部のシールを徹底したことで、車内に「ヒューッ」というウインドノイズがほとんど入ってこないことには驚いてしまった。
さらに静かなのが、プラグインハイブリッドの「E350eスポーツエディションスター」だ。価格は988万円、デジタルインテリアやアドバンスドパッケージなどのオプションは計234.3万円、試乗車の総額は1,255.3万円だった。
システム最高出力は312PSと強力だが、バッテリーを充電しておけば129PS(95kW)/440Nmの電気モーターだけで走行できる(最高速度は140km/h)。「Electric」モードを選択しておけば、基本的にエンジンは始動しない。電気だけで走れるEV走行距離は112km(WLTCモード)だ。
日常の通勤や近距離走行だけなら、自宅での充電を繰り返すことで、ほぼエンジンを動かすことなくまかなえるはず。300kgほど増えた車重やエアマチックサスペンションのおかげで、乗り心地はより滑らかで静かになった。まさにメルセデスライドそのものだ。
これだけの性能を持ちながら価格がE200/E220dとあまり変わらないのは、メルセデス・ベンツ日本による戦略的な価格設定の賜物(同社広報)であるとのこと。今回の「推しモデル」なのだそうだ。
デジタル面の進化に驚き!
拭き取り面積の広いシングルワイパーや降雪時でも視認性が保たれる段差付きのリアライト、左右の形状が異なるバックミラー、汚れがつきにくいサッコプレートなど、走りの機能をシンプルに突き詰めたW124に我々は憧れたものだ。
一方の新型W214は先の空力性能だけでなく、小回りが効く4WS(後輪も独立して曲がるシステム。最小回転半径は5m)や路面に絵を照射する100万画素のヘッドライトなどによって走行性能がアップしている。
特徴的なのはデジタル技術の進化だ。これにより、さまざまな室内アメニティが楽しめるようになった。
試乗車すべてがオプション装着していたダッシュボード全体に広がる「MBUX スーパースクリーン」(1枚ガラスのハイパースクリーンとは異なる2枚ガラス仕様)は、これだけでも他を圧倒する雰囲気を醸し出している。その画面を使ってドライバーのパーソナライゼーションを行えば、身長に応じてシート位置やミラーの角度を自動設定し、アンビエントライトやお気に入りのラジオ局を保存してくれる。
音声アシスタントは「ハイ、メルセデス」と話しかけなくても起動する。例えば「ちょっと暑いんだけど」とつぶやくと、「室内温度を20.5度に設定します」というふうにすぐに反応してくれる。さらに、音楽のストリーミング配信サービスを登録すれば好きなプレイリストにアクセスできるようになるし、助手席ではテレビを見ることまでできるので、ちょうど大谷選手が初HRを放った直後のニュースをクルマを停めて見ることができた。
ドライバーの左右それぞれの視線を追跡する内蔵カメラを採用した3D表示のコックピットディスプレイは新鮮だし、ダッシュボード上のセルフィー&ビデオカメラを使えば、ZoomやWebexなどサードパーティーのオンラインビデオ会議に参加できるビジネスエクスプレスに変身する。TikTokなどのSNSにも対応済みだ。
短い試乗時間で試せたのはこれぐらいだった。全部を把握して使いこなせるようになるには、もう所有するしかないのかもしれない。
試乗を終えて筆者が思い出したのは、最近のカフェでよく出てくる、浅煎りでちょっと酸っぱい薄味のスペシャリティコーヒーだ。上手な焙煎や淹れ方をしてくれているとフルーティーでおいしいのだが、毎日がこれだと、もう少し深炒りの苦い味が欲しくなるというあの感じ。“最善か無か”を標榜していた頃のW124にくらべると、W214からは何となくそんな感じが漂ってきた。SでもCでもAでもないという立ち位置はしっかりと確保されているし、いいクルマであるのは間違いないのだが……。
原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら