結局、知りたかった疑問は何一つ解明されなかった。
自民党派閥の裏金事件を巡り、岸田文雄首相が現職の総理として初めて衆院政治倫理審査会に出席した。テレビ放映を含む全面公開の中、首相は冒頭から「説明責任を果たす」「政治への信頼回復を目指す」と何度も口にした。
しかし、問題の根幹である政治資金パーティーの裏金づくりがいつ誰の指示で始まり、何に使われたのかなどについて、新たな事実や説明はなかった。答弁は、政治資金収支報告書に不記載のあった議員に対する聞き取り調査の域を出ず、報告書の内容をなぞっただけだった。
ならば何のために、わざわざ首相が出てきたのか。こんな説明で国民が納得できるはずはない。
そもそも、開催に向けた調整段階から、党内のまとまりのなさと首相のリーダーシップの欠如が見えた。
公開・非公開を巡り与野党で折り合わず、開催が1日延期された。安倍派幹部らが公開を渋ったことから、野党が求めていないにもかかわらず首相が自ら出席を表明。結果、予定されていた5人全員が出ることになった。
そこまでして臨むなら、党総裁として国民の疑問に答えるため、報告書の不備を補う調査を重ねるべきだった。安倍派の前身である森派会長だった森喜朗氏へのヒアリングを含めて聞き取り対象者を広げ、問題に真剣に向き合う必要があった。
浮き彫りとなったのは、党内で孤立を深める首相の姿であり、保身に走るだけで説明責任を果たさぬ議員の姿である。
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長年にわたり党内にはびこる悪しき慣習と、どう決別するか。首相は法令順守に向けた改革を進め、不記載のあった議員の説明状況を踏まえた上で「党の処分、政治責任を判断する」と述べた。
また、会計責任者だけでなく政治家本人の責任も問う「連座制」について言及。政治資金規正法の本国会での改正を目指すとした。
裏金づくりの温床である政治資金パーティーについても、首相在任中は自身のパーティーを開催しないとの意向を表明した。
しかし、問題を根本から解決するためには、裏金づくりの経緯をつまびらかにして、どこにどんな問題があるのかを突き止めることが不可欠である。
さもなければ、また新たな抜け道を探し出して同じことが繰り返される。
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政倫審には二階派の武田良太事務総長も出席した。ノルマ超過分の還流について「全く存じ上げなかった」との釈明に終始し、真相究明には程遠い内容だった。
きょうは安倍派幹部の4人が出席する。一度は廃止が検討された資金還流がなぜ復活したのか。「会計責任者が」「記憶にない」と繰り返すだけの、のらりくらりとした答弁で終われば、政治の信頼回復どころか、さらに不信感が募るだろう。
これ以上真相解明に背を向け続けるのなら、解散総選挙で信を問うべきだ。