JAL・ANAが現在のボーイング777-300ERの後継として採用した、将来の「国際線フラッグシップ」の選定は、対照的なものとなりました。このような「主力機違い」が起きたのは実は半世紀ぶりのことです。
日本を代表する航空会社の2社であるJAL(日本航空)とANA(全日空)。2社が現在のボーイング777-300ERの後継として採用した、将来の「国際線フラッグフラッグシップ」の選定は、対照的なものとなりました。
JAL対ANA「次世代国際線フラッグシップ」どうなる? 実は…の画像はこちら >>上がA350-1000。下が777-9(乗りものニュース編集部撮影/ボーイング)。
JALは2024年1月24日、東京~ニューヨーク線に新国際線フラッグシップ機としてエアバスA350-1000を就航させました。同社にとってこの機は、ボーイング777-300ERの導入以来、20年ぶりとなる新国際線主力機です。
一方、現在国際線の長距離基幹路線に、最新の客室仕様を搭載したボーイング777-300ERを用いるANAは、受領こそ2025年度にずれ込みはしたものの、ボーイング777Xシリーズのひとつである「777-9」を18機導入します。この機は約1万350kmの航続距離を持つもので、この機が777-300ERの後継機となることは間違いありません。
このように、JALとANAは、別々の新ワイドボディー機(複通路機)で競争を繰り広げることになりました。
ワイドボディー機同士でJALとANAが別々の機種を使うのは、JALが1976年にマクダネル・ダグラス(現ボーイング)DC-10を就航させ、ANAがそれに先立ち1974年にロッキードL-1011「トライスター」を飛ばし始めて以来になります。この2機はキャパシティも似ており、エンジンは3発構成。ルックスもよく似ています。
1970年代は大量輸送時代が訪れ空港の過密化も始まっていたため、ワイドボディー機の導入は必須でした。この時にJALは、DC-8の後継としてDC-10を選定。操縦技術を磨いた乗員が、さらに飛行中の「指揮者」としての技術も高めることを目的とする「機長養成機種」の役目も担えることも導入理由のひとつだったそうです。
また、この時代は、交通機関の排気ガスや、工場の廃液などが公害として脚光を浴び、旅客機の騒音もその1つとみなされていました。
このため、1972年7月にDC-10とL-1011が日本に飛来し、羽田空港と伊丹空港でデモ飛行を行い騒音の低さをアピールしています。両機にこの時に付けられたニックネームは「ウィスパー・ライナー(囁きのライナー)」(L-1011)と「グッド・ネイバー(良き隣人)」(DC-10)だったことも、騒音に航空会社やメーカー、社会が如何に敏感だったかが分かります。
DC-10とL-1011はその後、JALとANAの屋台骨を支え続けましたが、両機種の就航時の新聞広告を見ると、ここにも両社の“熱き戦い”を見ることが出来ます。ANAは「世界で最も静かなワイドボデー・ジェット」「自動着陸装置を装備」とアピール(文言は当時のまま)。刷新した客室乗務員の制服も「トライスタールック」と呼ぶほどでした。
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上がJALのダ下がANAのボーイング777-300ER(乗りものニュース編集部撮影)。
一方、DC-10就航数日前のJALの新聞広告は「ジャンボ(同社の当時の主力機。ボーイング747)の兄弟がやって来た」。ANAが747SRの導入を決めるのは翌1977年ですので、客席数はうちの方が余裕はあるとアピールし返したのかもしれません。
さて、現代に話を戻し、A350-1000と777-9はどんな戦いを展開するでしょうか。かつての異なる2機種の3発機を導入した両社の状況と少し現代は似ていますが、地球環境への危機感は昭和より強くなっています。1つは、二酸化炭素の排出削減はどちらが優れているか、SAF(持続可能な航空燃料)をどれほど活用できるかが関心を呼ぶでしょう。
2つ目は客室の装備です。今は就航直後のため、全面的に最新仕様の客室が導入されたA350-1000のものが注目を浴びています。しかしA350シリーズで新造エアバス機を初めて導入したJALに対し、ANAは777シリーズの開発で「ワーキング・トゥゲザー」に参加し、787では「ローンチカスタマー」となりました。これにより、自社が望む旅客機の実現へ、メーカーとの交渉力を蓄えたことは間違いありません。
ANAの777-9の客室がどんな姿になるのか。まだ「X(謎)」のままですが、それが明らかになる時と、2025年度以降の戦いは、航空ファンにとって必見モノとなるでしょう。