投資によって億単位の資産を築いた人のことを「億り人」と呼んだりしますが、どこか我々とは違う世界の住人のように感じていませんか? 普通の人だって「億り人」になれることがわかれば夢がありますね。そこで、特に高給取りでもない普通の会社員がデイトレなどではなく、”積立投資”で1億円の資産が築けるのか、さまざまなパターンを想定して検証してみたいと思います。
積立投資で1億円を作るには
積立投資で1億円の資産を作るためには、「いくら積み立てるか」「何年積み立てるか」「利回りはどのくらいか」を考える必要があります。そこで、この3つの要素をもとに試算して、より現実的な方法を探っていきます。
まずは、利回りについて考えます。試算するにあたって、現実的でない運用利回りでは意味がないので、金融庁「つみたてNISA早わかりガイドブック」から、資産、地域を分散して積立投資を行った場合の運用成果を参考にします。保有期間20年の運用成果で出現頻度が最も高い年率が4%~6%であることから、5%で試算してみたいと思います(参考: 金融庁「つみたてNISA早わかりガイドブック」)。
次に積立期間です。60歳まで積み立てると考えると、30歳から積み立てれば30年間、40歳から積み立てれば20年間です。ここでは積立開始が25歳、30歳、35歳、40歳の4パターンを設定して、最終的に1億円にするには、積立額をいくらにすればいいのか試算してみます。
25歳から積立を開始すれば、月9万円の積立で60歳になったときに1億円に達します。30歳からは月12万円、35歳からは月17万円、40歳からは月25万円の積立で、目標の1億円になります。
月9万円の積立は可能な気もしますが、月25万円となると、給料が相当高くないと生活ができません。平均的な給料をもらっている会社員は月いくらまでなら積立が可能なのでしょうか。次項で検証してみたいと思います。
普通の会社員は月いくらまで積立が可能か
まずは、普通の会社員を定義してみましょう。普通の会社員とは、平均的な給料をもらっている会社員(正社員)とします。国税庁の「令和4年分 民間給与実態統計調査」によると、1年を通じて勤務した給与所得者のうち、正社員の平均給与は523万円となっています。ここでいう平均給与はいわゆる年収のことなので、年収500万円の会社員を普通の会社員と定義して、以降の試算を行いたいと思います。
*年収500万円の単身者の積立可能額
年収500万円の単身者が投資にいくらお金をまわせるのかを知るためには、単身者の生活費を出す必要があります。
年収500万円の単身者の場合、手取り額は約390万円になります。月額にすると32万5,000円です。ここから生活費を引きます。生活費は総務省の「家計調査・家計収支編」を参考にします。勤労者世帯の単身者の1ヵ月の消費支出は18万2,114円となっています。月の手取りから消費支出を差し引くと14万2,886円が残ります。給料から生活費を引いて残った全額を投資にまわすのは無謀ですが、あくまでも計算上可能な金額として出すなら14万円となります。
以上のことから、前出のシミュレーションの30年間の積立で必要な積立額12万円までは可能といえるでしょう。
*年収500万円の共働き夫婦の積立可能額
夫婦世帯についてもみていきましょう。平均的な給与の会社員二人が結婚して、以後共働きを続ければ、世帯年収は1,000万円になります。出産や子育てによって仕事をセーブすることも考えられますが、1億円を目指すことを目標に掲げていることから、収入を減らさずに世帯年収1,000万円をキープする共働き夫婦で試算してみたいと思います。
年収500万円の手取りは約390万円なので、2人合わせると780万円になります。月額にすると65万円です。同じように、総務省の「家計調査・家計収支編」から、二人以上の世帯の夫婦共働き世帯(妻の勤め先収入が8万円以上)の消費支出をみてみると35万7,959円となっています。月の手取りから消費支出を差し引くと29万2,041円が残ります。こちらも計算上可能な金額として考えるなら、20年間の積立で必要な積立額25万円を積み立てることは可能といえるでしょう。
まとめると、年収500万円の普通の会社員でも、単身者であれば月12万円、夫婦共働きで世帯年収1,000万円であれば、月25万円を積み立てることは可能であることがわかりました。ただし、あくまでも計算上のことであって、実際はイレギュラーな出費に備えて、預貯金や定期預金などの無リスク資産も併せて持っている必要があります。無リスク資産があれば、多少のリスクは許容できるので、次項で紹介する方法も試すことができます。
「億り人」になるにはリスクを覚悟する
積立額が多ければ、積立投資でも1億円を達成することができることは、前出のシミュレーションで示したとおりです。しかし、普通の会社員が生活費以外のほとんどを積立投資に投入するのは現実的とはいえません。普段の生活に支障がでる可能性が高いからです。そこで、いつでも引き出せて、元本が減ることがない預貯金や定期預金での資産形成も同時に行っていれば、投資ではある程度のリスクを取ることができます。
前述した年収500万円の単身者のケースを例にとると、手取りから生活費を引くと14万円が残りましたが、このうちの半分の7万円を投資に充てます。残りの7万円は普通預金や定期預金にします。こうすれば、投資ではある程度リスクを取れるので、積極的にリターンを狙うことができます。積立投資でも、リターン7~10%程度が期待できるファンドを選べば、元手が多くなくても1億円を達成できる可能性があります。
ただ、投資信託はそもそもリスクを抑えて分散投資を行う仕組みであるため、個別株投資などと比べて高リターンは望みにくい商品です。また、利回りは過去の実績であり、将来の利回りを示すものではないため、長期にわたって高い利回りが続くものを見分けるのは投資上級者でも難しいことです。そのため、リスクを取った積極投資は個別株投資で行い、積立投資は全世界株式などでリスクを抑えた運用をするという組み合わせで資産形成をしていくのも一つの方法です。こうした手法のことをコア・サテライト戦略といいます。投資はどこかでリスクを取らないと高いリターンは望めません。
「億り人」になった人のインタビューなどを読むと、必ずどこかで大きな賭け(リスクを取る)をしています。また賭けに負けて、大きく資産を減らす経験をしている人もいます。共通しているのは、どんなことがあっても投資をし続けたことです。これには強い意志が必要です。
普通の人が「億り人」になるためには
リスクを覚悟しないと「億り人」になれないわけではありません。リスクを抑えて「億り人」になるためには、早くから積立を始めることが肝心です。積立期間が35年あれば、リスクを抑えながら無理のない積立額で1億円を達成できます。期間が短くなればなるほどリスクを取る必要が出てくるので、今が一番若いと思ってすぐに始めるといいでしょう。ここでは目標高く1億円でしたが、目標は5,000万円でも、3,000万円でも1,000万円でもいいでしょう。なるべく早く始めて長く続けることが大切です。
石倉博子 いしくらひろこ ファイナンシャルプランナー(1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP認定者)。“お金について無知であることはリスクとなる”という私自身の経験と信念から、子育て期間中にFP資格を取得。実生活における“お金の教養”の重要性を感じ、生活者目線で、分かりやすく伝えることを目的として記事を執筆中。ブログ「ファイナンシャルプランナーみかりこのお金の勉強をするブログ」も運営中! この著者の記事一覧はこちら