まだまだ「車のお手本」か? VWゴルフ50年目の改良新型 苦境を打破する初モノづくし!

生誕50周年を迎えるフォルクスワーゲン「ゴルフ」の改良新型が発表。電動化が進むなかでもガソリンからPHEVまで幅広く展開する「世界標準車」は、SUVに押されて苦戦するなか、数々の新機軸で輝きを取り戻せるでしょうか。
今年2024年、永く世界のコンパクトカーのベンチマークとして君臨したフォルクスワーゲン(VW)「ゴルフ」が、生誕50周年を迎えました。1月24日には、現行の8代目ゴルフのフェイスリフト(マイナーチェンジ)・バージョンが、オンラインでワールドプレミア。27日にはオーストリアのツェル・アム・ゼーという街で開催されたアイスレース「FATアイスレース」にVWが参加し、50周年を祝うとともに、新型「ゴルフ8.5」の実車(量産前試作車)をお披露目しました。
まだまだ「車のお手本」か? VWゴルフ50年目の改良新型 苦…の画像はこちら >>新型「ゴルフ8.5 GTI」左と1974年発売の初代ゴルフGTI(画像:フォルクスワーゲン)。
1974年の初代デビュー以来、世界で累計3700万台以上を販売したゴルフ。2019年秋に登場したゴルフ8は、先代と同様に、エンジン横置きモジュラープラットフォームであるMQBプラットフォームの改良版であるMQB evoをベースに、よりロー&ワイドなプロポーションを強調した、スポーティなルックスで注目を集めました。
しかし、2020年こそ世界で48万1000台、ドイツでも13万6324台と、それなりに売れましたが、その勢いは続かず、2022年には世界で29万7000台、ドイツでも8万4282台に減少。世界的なSUV人気の高まりにも押され、販売の中心はコンパクトSUVとなり、ゴルフはVW内でも「Tクロス」や「Tロック」などの後塵を排しました。
日本では2022年に9241台のゴルフ8が販売され、VWのモデルとしてはトップでしたが、ミニやメルセデス・ベンツCクラスには及ばず、かつてのような人気は見られなくなっています。
その背景には、前述の世界的なSUV人気の高まり以外にも、ゴルフというモデル自体の商品力低下は否めません。48Vマイルドハイブリッドシステムを採用するなど、電動化モデルを拡大するとともに、大幅なデジタル化を推し進めた結果、操作性の悪化とインフォテインメントシステムの不評を買ってしまったのです。
しかし、近年はバッテリーEVであるIDファミリーを前面に押し出しているVWとはいえ、ビジネスの中心は今もエンジン搭載モデルであることは変わりません。ゴルフはVWというメーカーを支える大きな柱のひとつなのです。
それだけに、今回のゴルフのフェイスリフトには、かなり力が入っています。新型は、LEDヘッドライトやLEDリアコンビランプ、フロントバンパーなどのデザインが変更され、ひと目見ただけで精悍さが増した印象です。さらにフロントのVWエンブレムが、夜間はV・Wの文字とその輪郭が光る、LEDによる自発光式となりました。このエンブレムは、ヨーロッパ市場向けのモデルでは初採用です。
インテリアは、第4世代モジュラー・インフォテインメント・システム「MIB4」をベースに開発された新インフォテインメントシステムを採用したことで、センターディスプレイ周りのデザインが新しくなりました。タッチディスプレイのサイズは、標準のReady 2 Discoverが10.4インチ、上級のDiscoverバージョン2では12.9インチと大きくなり、グラフィックスとメニュー構造を刷新することで、操作性が大幅に改善されています。
しかも、このインフォテインメントシステムには、AIベースのチャットボットであるChatGPTが統合されています。
今回は試作車両ということで、実際に試すことはできませんでしたが、抽象的な要望でも文脈から意図を推測するLLM(ラージ・ランゲージ・モデル)を備えたIDA(アイーダ)音声アシスタントによる会話形式のコミュニケーションにより、ナビやエアコン、電話といった各種設定以外にも、天気予報や一般知識にいたるまで、ドライバーの要望に幅広く応えることが可能です。これまでにもAIを用いた会話形式で操作できるインフォテインメントシステムはありますが、ゴルフ8.5は車内エンタテインメントの可能性が大きく広がることになりそうです。
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文字とその輪郭が光る新エンブレム(竹花寿実撮影)。
パワートレインは、48Vマイルドハイブリッド車が1.5L直4ターボに1本化され、1.0L直3ターボは廃止されました。燃費を考えれば3気筒エンジンの方が効率が良さそうですが、1.5L直4ターボに新たに気筒休止機構を採用することで、高効率化と生産コスト低減を図っています。
eハイブリッドとGTE(GTIの電動版)の2タイプが用意されるPHEVは、可変ジオメトリーターボ(VTG)を備えた1.5TSI evoを搭載するとともに、バッテリー容量を従来の10.6kWhから19.7kWhに拡大して、EV走行時の航続距離を約100kmに伸ばしています。また新たに50kWまで対応するDC急速充電器にも対応させて、使い勝手を向上させました。これまでPHEVは日本市場には導入されていませんでしたが、新型では日本上陸に期待したいところです。
ノンハイブリッドの1.5TSIは、115PSと150PSの2タイプが用意され、どちらも6速MTが組み合わされます。2025年には従来より最高出力が14PS向上して204PSとなった2.0TSIを搭載した4WDモデルも追加されます。
2.0TSIを積むGTIは、従来から20PSアップとなる最高出力265PSとなり、一層スポーティな走りを実現しています。また今回プロトタイプが公開された次期ゴルフRは、噂によれば限定モデルのゴルフR 20 Yearsに搭載された333PS仕様の2.0TSIが標準になると言われています。話を聞いた開発エンジニアも、「まだ詳しいことは言えないけど、確実に進化しているよ!」と自信に溢れた表情を見せていたので、大いに期待したいところです。
トーマス・シェーファーCEOも、新型ゴルフに自信を見せます。
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トーマス・シェーファーCEO(竹花寿実撮影)。
「新型ゴルフは素晴らしいクルマになりました。マイルドハイブリッド、PHEV、GTE、GTI、ディーゼルと、幅広くラインアップしています。現時点でゴルフは、我々にとって最も重要なモデルのひとつです。日本でも同様だと思います。次世代はフルエレクトリックになりますが、地域によって電動化の進捗に差があることは当然です。そのような状況の中で、50年の伝統を持つゴルフには、まだまだ多くのことを期待しています。特に100kmのEV航続距離を実現したPHEVは、バッテリーEVへの橋渡しとして、とても良いオファーになると考えています」
シェーファーCEOはまた、次のように続けました。
「コンパクトカーは今後も重要であり続けると考えています。日本市場でもTクロスが人気を博しているように、世界中でSUV人気が高まっていますが、ゴルフのようなハッチバックモデルは、特にヨーロッパ市場では欠かすことができません。GTIやRのようなパフォーマンスモデルも、エモーションの点でとても重要です」
現行ゴルフは、コロナ禍や電動化に向かう時代の変化、世界的なSUV人気の高まりなどもあって、歴代モデルの中ではやや苦戦しているのは否めません。しかし、クルマとしての出来栄えは、ライバルと比較しても遜色ないので、今回の改良を気に再び評価が高まる可能性は十分にあります。特に新しいインフォテインメントシステムの出来栄えは、その鍵となるでしょう。
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会場で披露された新型ゴルフRプロトタイプと筆者(画像:フォルクスワーゲン)。
シェーファーCEOは、最後にこう語りました。
「今後はコンパクトカー市場が小さくなるかもしれませんが、我々VWにとっては、より重要になると考えています。今後もゴルフは我々の主軸であり続けます。素晴らしい歴史があって、多くのファンもいる日本も、我々にとってとても重要な市場です。今後も日本のみなさんが求める商品を積極的に投入したいと考えています。新型ゴルフにも期待してください!」

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