新型「レッドサラマンダー」見てきた! まるで戦車な“全地形対応”レスキュー車 あえて性能ダウンで使い勝手◎!?

能登半島地震にも出動したレスキュー車両「レッドサラマンダー」の新型が、シンガポール航空ショー2024に展示されました。特徴は小型・軽量化とのことですが、それ以外にも使い勝手向上のための改良点を見つけました。
2024年2月20日よりシンガポールで開催されている「シンガポール航空ショー2024」に、同国の企業STエンジニアリングが全地形対応車「エクストリームV」の新型モデルを展示しました。
「エクストリームV」はクローラー(無限軌道)式の牽引車両で、災害時の救援活動で用いることを想定した救助車両です。日本では愛知県の岡崎市消防本部に「レッドサラマンダー」の名称で配備されており、その特徴的な名前と外見から数ある消防車両の中でも、屈指の知名度を誇っています。
悪路を走ることを考えて車体の足回りは戦車のような、いわゆるキャタピラ駆動で、陸上だけでなく水深1.2mの浅瀬でも走行が可能です。車両は前後のユニットをつなげた、連接式と呼ばれる構造で、前部ユニットには運転席とエンジンがあり、後部ユニットに乗員を乗せます。
じつは、この「エクストリームV」は、もともと軍用車両が原型です。シンガポールを代表する重工業企業STエンジニアリングが開発した「ブロンコATTC(全地形対応キャリアー)」をベースに民生仕様に改造したモデルです。
新型「レッドサラマンダー」見てきた! まるで戦車な“全地形対…の画像はこちら >>シンガポールエアショーに展示された「エクストリームV」のフロント部分。旧モデルと比べてデザインが変わり、フロントウィンドウも大きくなっている(布留川 司撮影)。
本家の「ブロンコATTC」はシンガポール陸軍に600両が配備され、それ以外にもタイ陸軍やイギリス陸軍などにも採用されています。一方、その民生用である「エクストリームV」も、世界中で用いられており、日本(レッドサラマンダー)だけでなくメキシコ、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、タイなどに輸出されています。
このように、すでに実績があることから、メーカーのSTエンジニアリングは、今後も需要が拡大していくと見越して、新モデルの開発を進めていた模様です。
展示された新型はボディデザインが一新されていました。しかし、会場にいたSTエンジニアリングのスタッフによると、その違いは外見だけに留まらないとのこと。中身も、民間での運用を考えて、大きく変化しているといいます。
「エクストリームV」の新型モデルの変更点は多岐にわたります。まず車体のデザイン変更によって運転席の窓がより大きくなり、それに伴い視界も広くなっていました。また、素材もアルミなどを多用することで、重量が前モデルより2t軽い6tへと軽量化されています。
車体サイズもコンパクト化が図られており、全長は7.6m(前モデルは約8.9m)、全高は2.4m(同2.7m)とそれぞれ小さくなっています(全幅は同じ)。それによって足回りの転輪も6個から5個に減っていました。
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岡崎市消防本部の大型水陸両用車「レッドサラマンダー」(画像:写真AC)
後部ユニットは人員輸送用のキャビンになっており、2つの座席と負傷者などを寝かせるベッド、そしてその横に看護する救命士用の座席も設置されていました。このベッドは取り外してストレッチャーにすることもできるほか、頭上には医療器具などを取り付けるアタッチメント用のフレームなども設置されていました。車内上側にはエアコンも用意されており、専用の器機をさらに持ち込めば救急車と同等の能力が発揮できるようです。
なお、ベッド部分を取り外して代わりに座席を増やすことも可能で、その場合は後部ユニットに最大6名の人員を収容することができます。
ほかにも、新型モデルのキャビン左側側面にはドアが追加されています。旧モデルはキャビン後部にしか乗降用のドアがなく、STエンジニアリングの社員によると車両の運行上で大きな制約となっていたそうです。
旧モデルで後部ドアを開閉する場合、運転席からそれを直接見ることができず、その開閉や人員を乗り降りさせるには、運転手がわざわざ下りて周辺を確認するか、別に専用の人員が必要でした。しかし、新モデルでは側面ドアを備えているため、運転席からサイドミラー越しに当該箇所を見ることが可能であることから、ドライバーは運転席ですべてを判断することができます。これは悪路や被災地などでは大きなメリットになるということでした。
新モデルの変更点は、新しい機能を追加しただけではありません。実は、性能の数値だけ見ると、前モデルよりもスペックダウンした部分もあります。
STエンジニアリングのスタッフは次のように説明してくれました。
「実は新型はエンジン出力も低くなっています。前モデルでは建築用重機に使われている大出力の工業用エンジンを搭載していましたが、新型は一般販売されている大型SUVの自動車用エンジンになっています。
純粋な馬力という点ではスペックダウンですが、車体の小型化や軽量化もあり、運用面では問題ありません。むしろ、導入から維持整備までのあらゆるコストが、これによって削減されます。この新型はエンジンに限らず、色々な部分で民生品を採用しています」
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後部車両の全景。左側面に乗降車用のドアが追加されている(布留川 司撮影)。
具体的な車体価格については明言を避けていましたが、車体価格や維持・管理コストも前モデルより低く抑えていると強調していました。
この「エクストリームV」の新型モデルは、すでに一部の国では運用されているそうです。後部ユニットはモジュール式になっており、展示車両のようなキャビンの他に、平床のコンテナや消火活動用の放水ポンプなどを架装することもできます。
前モデルが人員輸送に特化していたのに対して、新型では架装しだいでさまざまな用途に用いることができるため、今後さらに活躍の場が広がるかもしれないと、実車を見て感じました。

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