神奈川県相模原市のマンションで50代の夫婦が殺害された事件で、父親を殺害した容疑で逮捕された高校一年生の長男A(15)が、両親の遺体が見つかる一週間前に自宅近くのコンビニエンスストアで万引きをして捕まり、その際カッターナイフを所持していたことが関係者の話で分かった。父親が市児童相談所に非行への対応を相談し、家族3人で面談に行く約束をした翌日の出来事で、万引きの2日後に面談は予定通り行われたが、刃物を所持していた情報が伝わっておらず、児相は緊急性はないと判断し「緊急対応」への切り替えを見送っていた。
母親(50)は亡くなる前、Aの非行が父親(52)との関係悪化に伴い、ひどくなっていると関係者に漏らしており、事態が深刻になる兆候が表れていたのに悲劇を防げなかった様相が見えてきた。コンビニで騒ぎが起きたのは2月6日の早朝。「店員が『万引きです。警察に通報してください』と叫んでいました。少年は暴れはしませんでしたが『警察や親に連絡しないでください。お願いします。勘弁して』と訴えていました」とコンビニ関係者は話す。「店の事務所で防犯カメラを見ていた店員がAの行動に気づきました。Aを事務所に連れていって『バッグの荷物を全部出せ』というと素直に従い、盗んだおにぎりと大福、野菜ジュースの他に、カッターナイフとタバコが出てきました。盗んだ3点の金額は合わせて500円ほど。Aは店内のATMで現金を引き出していて財布には数千円が入っており、『なぜ金があるのに盗むんだ?』と疑問に思いました」(店の関係者)
逮捕されたA(同級生提供)
この日は平日だったが、Aは通っていた進学校の制服ではなく黒のジャンパー、ジーパン姿だった。「Aはバイトに行く途中に(コンビニに)寄ったと警察に話していたので、学校には行ってなかったみたいです」(同)通報で店に駆け付けた警察官らがAから事情を聴いている間に連絡を受けた母親(50)も店に到着したという。「お母さんは従業員に『すみませんでした』と謝りながら、『最近(息子の)トラブルや非行が多くて…』と話していたみたい。『ウチはお父さんが厳しい人で…』とも言っていて、息子の尻拭いに追われている感じで大変そうでした。息子は警察官に『万引きしたのは今回が初めてだ』と言っていたけど…」(同)
母親が「厳しい」と口にした父親はこの前日の5日に、児童相談所に「子どもが非行傾向で対応に困っている。相談したい」と助けを求めていた。「これまで日常的に(Aの生活が)うまくいっていなかった上に、中身は話せませんが、直近に突発的なことが起きた状況だったようです」と児相幹部は話す。
相模原市児童相談所(写真/集英社オンライン)
この電話で父親と児相は8日に面談をする約束を交わし、予定通りAは両親とともに児相を訪れている。「父親からの相談に基づく『育成相談』という手続きで、まず担当者が親子3人と面談しました。Aは望んで来たのではないという表情でしたが、両親が席を外した後、担当者と一対一になると率直に思いを話していました。『父に期待することはない』と言い、母親に対しては感謝を口にしていました」(児相幹部)だが、この面談の際、万引きや刃物所持の事実は警察から児相に伝えられていなかった。また、虐待やDVなど「危険なエピソード」が親子の双方から出なかったことを理由に、児相はAへの関与を「緊急対応」に切り替える判断を見送っている。児童福祉士などを加えた援助方針会議を15日に開き今後の方針を検討する、と告げると両親は受け入れたという。その2日後の10日午後、父とAが一緒に帰宅する姿が自宅近くの防犯カメラにとらえられ、13日夜になって殺害された両親が見つかっている。
児相幹部は「面談の段階では事件の兆候などうかがい知れることは何もなく、予想だにしなかった。(面談の後に)この家族に何があったのか…」と話す。実は、Aと父親の不安定な関係が問題になったのは今回が初めてではない。地元で「秀才」と評判が立つほど成績がよかったAが中学三年生だった2022年8月、父親は「素行不良なところがある」と警察の相談窓口にAを連れて行ったことがある。
一家が住んでいたマンション(撮影/集英社オンライン)
「ところがここでAが『4、5年前にお父さんにたたかれた』と言い始め、警察から書面でこの通告を受けた児相は身体的な虐待があった世帯と認知した」(児相関係者)Aの当時の証言が事実なら、小学校時代に体罰を受けた記憶から、父との葛藤を抱えてきたことがうかがえる。「ただ、Aは父親から継続的な虐待があったとは言わず、児相もAの体を調べて虐待による傷跡がないことも確認しました。その後、2023年3月に母親から『父親がAに謝罪して和解がなされ、父親とAが会話をしたり一緒に外食したりするなど状況は安定している』との報告を受け、中学校からも同様の確認をとったので対応は終了しています」(同関係者)それから1年足らず。家族は再び行政に助けを求めたが、具体的な支援が検討される前に事件は起きた。兆しはあったのになぜ防げなかったのか。
バトミントン部に所属していたA(同級生提供)
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班