立体的な刺しゅうの創作で国内外から注目を浴びる船橋市の北井小夜子さん(66)が市役所を訪れ、県内の卓越した技術者を表彰する「千葉県の名工」を受賞したと松戸徹市長に報告。表と裏の両面に立体刺しゅうを施す独自に考案した技法が高く評価された。本物さながらに羽根を開閉できる「蝶のブローチ」を持ち込んで作品を紹介し、市に寄贈した。
北井さんは独学で刺しゅうを学び、1990年に初出品した国内のコンクールで最優秀賞を受賞した。評価されたのは、通常の刺しゅうと異なり、表裏ともに美しく仕上げる立体的な技法。現在は市内に工房「立体刺繍(ししゅう)Sayoko」を構え、昆虫や動物、植物を忠実に再現した1点物を制作している。
創作の原点は息子2人のよだれかけ。キャラクターの柄を縫い付けて喜ばせようとしているうちに技術を身に付けたという。
チョウは特に思い入れが深いモチーフ。リウマチなどの病で体の痛みに苦しむなか、テレビで見たチョウの飛び方に魅了され、羽根1枚1枚の動きを想像しながら作品を制作した。2022年にはプラチナと金の糸で縫ったブローチが、イタリアで行われた世界最大級のデザインコンテストで受賞作品に選ばれた。
このほか、母から譲り受けた着物やコートを、着やすい形にリメークする試みも行っている。「介護される側の視点で作った。長く使い続けられて誰も持っていない物を残していきたい」と今後の創作活動に意欲を燃やす。
寄贈されたブローチを受け取った松戸市長は「自分で編み出していった技術ですごい。本物の標本のよう」とたたえた。