本社の方針転換により揺れるヤマト運輸の現場。前回(#6)はSD(セールスドライバー)の分業制により登場したCD(クールドライバー)の悲痛な声を届けた。しかし、SDにも大量の退職者が……。いったい何が起きているのか。
ヤマト運輸は、現場の業務効率化を図るために、昨年から都内の一部主管エリアで”分業制”をスタート。しかし、CD(クールドライバー)部門では配達エリアが広くなったことで配達遅延が相次ぎ、クール宅急便の配送物の品質低下を引き起こし、現場から批判殺到の事態となっている。一方で、副都心主管のセンター(営業所)に勤めるSD(セールスドライバー)の男性は、「自分たちのようなSDにも分業制のシワ寄せがきている」と肩を落とす。「同僚がCDに選出されたのですが、午前指定のクール(宅急便)が多い日など、週に何度かは私たちも手伝わないといけなくて……。分業制によってSDはドライ(通常の荷物)の集配だけになるはずだったのに、『分業制にした意味なくね?』というのが本心です」東東京主管のセンターに勤めるSDも「分業制になって仕事が増えた」と怒りをあらわにする。
エントランス外の駐車場に放置されたヤマト運輸の荷物(読者提供)
「私のセンターのCDも『これ無理だから頼みます』と何十個ものクールを持ち込んでくるんです。それなのに上層部からは『人員を削れ』とお達しがきたようで、これまで4人で配っていたエリアを3人でやることになり……。おまけに人手不足のセンターに駆り出されることも多くなりましたね」そして、ヤマト運輸が分業制とともに推し進めているのが、センターの”集約化”だ。この集約化によって大量の退職者が出ている現状を#4で報じた。そして、この男性が勤める東東京主管でも「ここ数年でセンターの集約化が進み、この1年間で30人ほどの正社員が自主退職する事態に発展しました」と話す。いったいなにが起きているのか。「もともと東東京主管が担当する千代田区は、トラックを使わずに台車だけで配達する『台車センター』が多く、これまで一度もトラックに乗ったことのないドライバーも少なくなかった。それが今回の集約化によって荷物の配達にはトラックが欠かせなくなり、現場からの反発が相次ぎました。それなのに、支店長が『車に乗れないなら辞めてもらってけっこう』と一蹴したそうで……。CDの問題も重なり、大量退職につながってしまいました」
前出の副都心主管のセンターに勤める男性も、「ベース店(大型店)への移転が決まったセンターのドライバーはどんどん辞めていった」と嘆く。「副都心主管はおもに新宿区を担当していますが、集約化で大井町のほうにあるベース店に吸収されることになり、通勤に1時間以上かかるようになりました。なんで新宿区を担当するのに湾岸エリアのベース店に集約するのか意味不明です」本社が推し進める「ドライバーの分業制」と「センターの集約化」は裏目に出ている感が否めないが、最大の問題は利益優先の効率化が引き起こした人員不足だ。前出の東東京主管に勤める男性は声を荒げる。
都内の営業所(撮影/集英社オンライン 本文の内容とは関係ありません)
「本社が人員削減に躍起になったため、人手不足で就業時間内に荷物を配達しきれてないのが現状。本来の規則では1時間は休憩を取らなければいけないのに、事務所やトラックの中でご飯だけ食べてすぐに働く人がほとんど。でも休憩をとっていないと上司から注意されるから、みんな仕方なく勤怠管理のタブレットに休憩をとったと虚偽報告してますよ。このことを上層部が知らないわけがないのに、何が2024年問題だよ!って感じです。先行きの見えない会社への不安から、『昔は宇宙戦艦ヤマトだったけど、今は泥船だよ』と皮肉を言うベテラン社員もいましたね」こうした現状についてヤマト本社に質問状を送ってみた。(質問概要は①~④の4点で〈 〉はヤマトの回答)
ヤマト運輸の本社が入っている西新橋1丁目ビル(撮影/集英社オンライン)
① CD(=クールドライバー)が発足してから間もない9月10月ごろは、時間指定順守率が10%ほどになっていたのは事実か?〈立ち上げた当初、一部エリアでお客さまとお約束したお届け時間を守れていないことがあったことを確認しております。お客さまにはご迷惑とご心配をおかけしましたことをあらためてお詫び申し上げます〉② クール便の配達において軒先に荷物を置くなど“配達トラブル”を本社は把握しているか? また、トラブルの原因としてエリア拡大やCDドライバー不足の声が現場からあがっている。配達時間を間に合ったことにするため現場の上司から端末機を操作する指示をだすエリアもある。本社は把握しているか?〈現時点で、本社ではご質問内容を把握しておらず、指示を行った事実がないことも確認しておりますが、今後、万が一、確認できた場合は、厳正かつ適切に対処いたします〉③ 品川区の低温配送センターで働く委託業者のなかには、自前の車でクール便を配達しているものもいる。これは本社からの指示か?〈東京都品川区にある「低温輸配送センター 東京南エリア」は、東京都港区など一部エリアで保冷配送を行っており、そのなかでクール宅急便の品質を担保する形で、一部の運用を外部パートナーに委託しております〉④ 配置転換により不馴れな社員がドライバーとなり退職者が相次いでいる、さらに忙しさから休業時間がとれないが、端末をいじり虚偽の休憩時間を申告している社員がいる。本社は把握しているか?〈当社は、SDの役割・責任を明確化し、適所適材の配置を行うことで、適正な労働時間の管理、より働きやすい労働環境の構築、働きがいの向上に取り組んでおりますが、社員に関するご質問については、従来から回答を差し控えさせていただいております〉大手宅配業者ではあるが、現場の声は残念ながら本社には届かないようだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班