【『不適切にもほどがある!』感想2話】柔らかいのに息苦しい、現代社会への処方箋

SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2024年1月スタートのテレビドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
幼児二人を育児中の知人が、「あのドラマを見ていたら、子供たちがチョメチョメとかニャンニャンとか覚えてしまって。意味も分からず面白がって連呼するの。あれはチビたちのいないところで見なきゃ」とため息をつくのであった。
「なるほどねえ」と頷きつつ、幼児の心を捉える昭和の流行語が持つ破壊力や生命力に感心する。そして、その生命力をあのドラマは鮮やかに映し出している。
言うまでもなく、あのドラマとは昭和と令和の世を描くタイムスリップコメディ『不適切にもほどがある!』(TBS系 金曜22時)である。
昭和61年を生きる中学校の体育教師・小川市郎(阿部サダヲ)。生徒からつけられたあだ名は『地獄のオガワ』。そのあだ名そのままにガサツで粗暴な男である。
性別・マイノリティへの配慮は皆無、だが男気と昔気質の優しさはある。妻と5年前に死別し、高校生の一人娘・純子(河合優実)を育てている。
そんな小川市郎が偶然現代にタイムスリップしてしまう。配慮のない小川の言動は現代で騒動を引き起こすが、時に膠着(こうちゃく)している現代の問題を解決する。
一方、小川とは逆に令和から昭和にタイムスリップしている親子がいた。
社会学者の向坂サカエ(吉田羊)とその息子のキヨシ(坂元愛登)である。
研究の一環でやってきたらしいサカエだが、親子が現代に帰る間際、純子に一目惚れしたキヨシが帰りたくないと熱望して残ることになってしまう。
それぞれの時代で違う価値観に困惑しつつ、小川と向坂親子は様々な人々に出会う。
今週のメインテーマは、働き方改革は本当に人々を幸福にしているのか、である。
令和で小川が出会ったのはシングルマザーの犬島渚(仲里依紗)。テレビのバラエティ番組のアシスタントプロデューサーで育休から復帰したばかりである。
育児は大変だが、仕事への意欲は高い。そんな彼女を働き方改革による上司・部下との断絶と、その分の仕事のしわ寄せが悩ませる。
配慮されているはずなのに、なぜか苦しさばかりが増える。
意欲を持って仕事をしたくても、意欲を受け止めてくれる相手がいない。
脚本家・宮藤官九郎の鋭い聴覚は、働き方改革の狭間に落ちた人たちの、言葉にならない深いため息を捉えたのだと思う。
象徴的なのが「独りで抱え込まないでね」「出来ることがあったらなんでも言ってね」といった、よくある親切かつ配慮に満ちた言葉である。
そう、親切だしありがたいが、現実にはあまり問題を解決しない不思議な言葉である。
その「役に立たない」言葉を、クドカンは小川の一つのセリフできちんと機能させる。
「あんたが今、してほしいことが俺に出来ることだよ!」
独りで抱え込む人は希望をうまく言葉に出来ないのだとしたら、それを言葉にさせる為にスイッチを切り替える。
そして他人に配慮のない、距離感の近すぎる昭和の男がそのスイッチになった。
最終的に「働き方なんて自分で決めさせろ」という結論、排すべきは同調圧力という展開は実に鮮やかで胸熱だった。
初回で驚かされたミュージカルの場面も、2話目になって、不思議と「きたきた!」という感じで楽しみになってきた。
今回は渚の元夫・谷口を演じた柿澤勇人がメインで朗々と歌い踊り、突然ミュージカルが始まる違和感も粉々に吹き飛ばす豪華さだった。
このミュージカルのシーンは、公式HPにまとめてアップしてあり、作り手の力の入れようが伝わってくる。
おそらくこの調子で、回を追うごとにミュージカルの場面は楽しみになっていくだろう。
もう一つ、2話目で興味深く思ったのが、令和から昭和にやってきた少年・キヨシが意外なほどに昭和を楽しんでいる描写である。
純子への想いを賭けてムッチ先輩(磯村勇斗)とタイマンを張り、ダチとして認められ、短ランを譲り受けてイケてるヤンキーにクラスチェンジ。
愉快なムッチ先輩を演じる磯村勇斗は、こんなにコメディにハマるのかと驚くほどの快演である。
それは、SNSなんかまだどこにもない、人の悪意も善意も単純で野蛮な昭和時代。
でもその単純で野蛮な時代が変わっていく必要があったから、今の社会があるはずである。
そして昭和よりずっと柔らかで優しいはずの令和でも、人々の多くは幸福に見えない。
宮藤官九郎の優しいけれども容赦ない目は、笑いと涙の物語の中でその一端を暴くだろう。
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[文・構成/grape編集部]
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