介護支援専門員(ケアマネージャー)の採用と退職に潜む課題 6割以上が異業種へ転職を選択!その背景とは?

高齢化に伴い介護ニーズが高まる日本において、ケアマネージャーの必要性はますます強まってきています。
そんな中、日本介護支援専門員協会の「居宅介護支援事業所に勤務する介護支援専門員の人材確保に関する実態調査」により、退職したケアマネージャーのうち、実に60%以上が異業種への転職を選択しているという衝撃的な事実が明らかになりました。
ケアマネージャーに関する「ニーズはあるのになり手がいない」というねじれの状況は、なぜ発生してしまうのでしょうか? そして、日本の介護業界が直面するこの深刻な人材不足問題にはどのような解決策があるのでしょうか。
そもそも、ケアマネージャーになるためには「介護支援専門員」という都道府県が管轄(かんかつ)する公的資格を取得する必要があります。
受験する前提条件として以下のいずれかの基礎資格が必要です。
そのうえ、介護や福祉の現場で一定期間(通常は5年以上)の実務経験を積んだり、ケアマネージャーとして必要な知識やスキルを身につけるための介護支援専門員初任者研修や、ケアプランの作成やサービス調整などの具体的な業務に焦点を当てた介護支援専門員実務者研修の受講も必須です。
ここまでしてようやく介護支援専門員の国家試験に申し込むことができ、合格するとようやく介護支援専門員(ケアマネージャー)としての資格が付与されるのです。
このようにケアマネージャーは資格取得が困難ですが、その一方で職業イメージはそれほどよくないというのが現状でしょう。
前提として、そもそもの介護業界全体の魅力の低さがあります。
「業界別イメージ調査 介護・福祉業界編」(株式会社インタツアー)によると、新卒介護業界に対するイメージとして「給与が安い」を67.7%、次いで「ワークライフバランスが取れない」を47.8%の学生が回答しています。介護・福祉業界への就職を検討する学生はわずか10.5%。また、就労環境や条件面に対してシビアに見ているケースが多いようです。
さらに、介護・福祉業界で思い浮かべる企業についても「わからない」が最も多く79.9%と、知名度の低さにも課題が見られます。
前述したように、ケアマネージャーは専門的な知識と技術を要する職業です。
その一方で、「その専門性が報酬に十分反映されていない」と感じる方は多いようです。
「令和6年度介護報酬改定に向けた介護支援専門員の給与調査結果(速報版)」によると、ケアマネージャー全体の年収は約377万円。介護業界平均の介護職員の平均年収約351.6万円よりは高いとはいえ、日本人全体の平均賃金が約458万円であることを鑑みると、決して高いとは言えない金額です。

ケアマネージャーの給与額
実際、日本介護支援専門員協会の実施した調査によると、全体の55.7%が「専門性や重要性に見合った賃金ではない」、21.3%が「やや見合っていない」と回答。実にケアマネ全体の77.0%が賃金への不満を抱えている状態なのです。

ケアマネージャーの賃金
また、頑張れば必ず出世できるというのであれば希望もありますが、そうではありません。
介護業界の特性として、小規模事業者が多く、それぞれの事業所で働く条件や昇進の基準が異なる点が挙げられます。
そのため、業界全体として統一されたキャリアパスが存在しづらい状況にあるのです。連続的な学習機会や資格取得支援など、プロフェッショナルとして成長するための体系的な支援が不足していることも、キャリアパスの不明瞭さに寄与しています。明確なキャリアパスがないと、自己の成長や将来の目標を見出しにくくなり、他業種への転職を考えるのもうなずけます。
そして、ケアマネージャーの職を辞する最も顕著な理由の一つが、業務の多様性と量に関連するストレスです。
ケアマネージャーは、高齢者の生活支援計画の作成、介護サービスの調整、関連する行政手続き、そして利用者およびその家族との密接なコミュニケーションなど、多岐にわたる業務を負担しています。これに加え、緊急時の対応や多職種との連携や調整も求められるため、精神的な疲労は相当なものでしょう。
業務の内容だけでなく、職場環境も退職の大きな要因となっています。
特に、人間関係のトラブルはストレスの主要な源となり得ます。介護現場は多様なバックグラウンドを持つ職員が集まる場所であるため、価値観の相違がしばしば摩擦を生じさせるのです。
それでは、ケアマネージャーの人材獲得のためにはどうすればよいのでしょうか。
採用促進に影響を与える要因には、業務負担の軽減、給与や報酬の適正化、そして職場環境の改善と福利厚生の充実が含まれます。これらの要因は、介護業界での人材確保において非常に重要な役割を果たしています。
業務負担の軽減は、介護支援専門員の採用促進において重要な要素です。
介護業界における人手不足の主要な要因の一つは、労働要件が他産業に比べて厳しいという問題です。また、離職率が高い理由として、人間関係や職場環境における問題が挙げられます。忙しいために同僚や先輩とじっくり話す時間が取れない、企業の理念や方針が合わないなどの問題があります。
さらに、介護業界では、業務量が多く、精神的、肉体的な負担が大きいという問題もあります。このため、業務負担の軽減は、採用促進だけでなく、既存職員の定着にも重要な役割を果たしています。業務負担の軽減には、業務プロセスの効率化、業務分担の見直し、技術の導入など、様々な方法が考えられます。
職場環境の改善と福利厚生の充実も、採用促進に影響を与える重要な要素です。厚生労働省は、介護分野での人材確保に向けて「参入促進」「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」を進めるための対策を総合的・計画的に取り組んでいます。これには、職場の安全性の向上、ワークライフバランスの促進、メンタルヘルス対策の強化などが含まれます。
福利厚生の充実には、保健、退職金制度、休暇制度の拡充などが考えられます。また、職員の健康を考慮した職場環境の整備や、職場内コミュニケーションの活性化も重要です。これにより、職員が安心して長期にわたり働ける環境を整えることができます。
ケアマネージャーの採用促進には、業務負担の軽減、給与や報酬の適正化、職場環境の改善と福利厚生の充実が重要な要因として挙げられます。これらの要因により、介護業界への魅力を高め、より多くの人材を確保することが可能となります。これにより、介護業界全体のサービスの質の向上にも寄与することが期待されます。
【参考】
[1]一般社団法人日本介護支援専門員協会調査研究(シンクタンク)部門「居宅介護支援事業所に勤務する介護支援専門員の人材確保に関する実態調査」.https://www.jcma.or.jp/wp-content/uploads/231219chosakekkasokuhochi.pdf. 2024/02/02
[2]日本経済新聞「介護職賃上げ月6000円、24年2月から 人材確保へ厚労省https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA072YD0X01C23A1000000/

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