2023年2月3日、空母「サンパウロ」が自沈処分されました。鳴り物入りで就役したはずの艦でしたが、不幸な終わり方になってしまったのはなぜでしょうか。
2023年2月3日、ブラジル沖を長期間漂流した、とある軍艦がついに自沈しました。艦種は航空母艦で名前は「サンパウロ」。ブラジル海軍唯一にして、南米でもただ1隻のジェット機が発着艦できる空母でした。そうした貴重な戦力がなぜ自沈することになったのでしょうか。
空母「サンパウロ」ブラジル軍の象徴がなぜ漂流船に? 南米唯一…の画像はこちら >>空母「サンパウロ(画像:ブラジル海軍)。
同艦は元々、フランスでクレマンソー級航空母艦「フォッシュ」として1963年7月に就役しました。1980年代のレバノンや1990年代のユーゴスラビア内戦などに派遣された後、2000年11月15日に退役となりました。
この頃ブラジル海軍は老朽化した空母「ミナス・ジェライス」の後継艦を探していました。そこで白羽の矢立ったのが「フォッシュ」で、1200万ドルという空母としては格安の値段で2000年11月にブラジル海軍が買い取り、「サンパウロ」として再就役することに。
しかし、引き渡した側のフランスでは既に艦暦が40年以上経過していたということで、当時から「今後、満足に動かすには、約8000万ドルの修理費が必要だ」という報道もあったそうで、ブラジルにやってくる以前にだいぶ老朽化していたことがうかがえます。そして、この指摘が事実だったこともすぐ判明することになります。
「サンパウロ」は最初の3年こそ様々な任務をこなしたものの、その後は問題が頻発します。まず2005年5月同艦で火災が発生しました。原因は蒸気パイプラインの破損で、修理により約4年間、艦隊を離れます。この後、同艦は事故の損傷修理と近代化改修のため、2010年まで断続的にオーバーホールを繰り返すこととなります。
その後もトラブルは収まらず、エンジン、推進シャフト、カタパルトなどで不具合が頻発します。古い艦のためパーツの確保も困難になっていたそうで、酷使しすぎたパーツが交換できず、その影響で別の場所でも故障が発生するといった状態だったようです。
そして2012年2月、「サンパウロ」は再び大規模な火災事故を起こします。この火災でまた、任務を行えなくなりますが、ブラジル海軍は4年間のアップグレードプログラムを行い、修理と並行して艦の寿命延長や近代化改修を行おうとします。
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アメリカの原子力空母「ロナルド・レーガン」(奥)と共同訓練を行う「サンパウロ」(画像:アメリカ海軍)。
当初の予定ではこのアップグレードにより、「サンパウロ」を2039年まで使う予定でしたが、修理や改修で莫大なコストがかかることが判明。2017年2月14日、海軍は近代化計画を打ち切り、運用終了を発表し、解体することとなりました。
しかし、同艦の受難は退役後も終わりません。
同艦は廃棄が決まり、2019年9月に解体業務を請け負うトルコの会社が買い取り、トルコのイズミルへ向かうことになりましたが、断熱材に健康被害をもたらすとされているアスベストが数トン使われていたため、同艦の曳航途中にトルコの野党や環境団体が、同艦の受け入れ拒否運動を展開。これを受け2022年8月、トルコ政府は、同艦が2回目の含有物検査を受けなかったことを理由に、「トルコ領海への進入は認められない」と受け入れを拒否する事態となってしまいます。
「サンパウロ」は仕方なくブラジルに引き返すも、ブラジル側も同艦の受け入れを拒否。2022年10月以来、同艦はペルナンブコ州の沖をさまよい、翌年の2023年2月3日に、浮力などが失われつつあるということを理由に、環境省や環境団体の反対を押し切り、海軍が水深5000mの海底に自沈処分しました。
しかし、同艦の艦載機であるAF-1「ファルカン」に関しては、1998年にようやく空軍との政治的闘争に打ち勝ち手に入れた固定翼機ということで、そう簡単には手放すわけにもいかず、将来の空母最導入に期待し、半ば意地ともいえる状態で運用されています。
同じく「サンパウロ」に艦載する予定で、ターボプロップエンジンの索敵機であるKC-2、も開発中でしたが、これは「サンパウロ」自沈から数日後に計画が破棄されました。
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サンパウロの艦載機だったAF-1「ファルカン」(画像:ブラジル海軍)。
なお、同艦の姉妹艦であった「クレマンソー」も、1997年10月に退役したにも関わらず、アスベストの問題でたらいまわしにされ、2009年にようやく解体されています。さらに「サンパウロ」の名前を冠した、先代艦である戦艦「サンパウロ」も解体に向かう際の曳航中に漂流し、消息を絶っており、2隻連続で不幸な境遇となってしまいました。