宮木あや子さんだから書ける「吾輩は乳酸菌である」、ボーイズラブ大河ロマン、新入社員奮闘記…「令和ブルガリアヨーグルト」

ヒット作「校閲ガール」で知られる宮木あや子さん(47)の小説「令和ブルガリアヨーグルト」(KADOKAWA刊、税込み1815円)は、ネット小説のBL(ボーイズラブ)作品がきっかけでブルガリア菌が推しとなった若手女性社員の物語だ。10日からテレビ東京でドラマ化もされている。誕生から50周年を迎えた「明治ブルガリアヨーグルト」をモデルに、ブルガリアヨーグルトを乳酸菌目線パート、新入社員奮闘パート、BL小説パートで書き切った異色のお仕事&推し事小説だ。(瀬戸 花音)
「吾輩(わがはい)は乳酸菌(通称)である。名前はブルガリア菌20388株」。冒頭でしゃべり出すのは、頑張る新卒社員でも、厳しい先輩社員でもなく、菌だ。「このセリフを菌に言わせたかったんです!」と宮木さんは笑う。
主人公は「株式会社 明和」に入社し、きらきらした部署「広報部」に配属となる女性社員・朋太子由寿(ほうだいし・ゆず)。地味な校閲部に配属された「校閲ガール」とは逆バージョンの奮闘記でもある本作。始発点は「乳酸菌がしゃべること」だった。「明治ブルガリアヨーグルト50周年が題材の小説で『校閲ガール』っぽい感じをイメージして書く予定だったんですが、ヨーグルトのことを全て知っている語り部が必要だったんです。最初は資料室の長老みたいなおじいちゃんを出そうと思っていたんですけど、ありふれ過ぎてて。だったらいっそ乳酸菌にしようって」
「吾輩」という耳なじみの良いおじさん口調から自然と乳酸菌に愛着を持つようになると、気づけばこの物語の“沼”にはまっている。昔から、ワンピースのチョッパーなど、「しゃべる人ならざるもの」が好きだったという宮木さん。「日本で人ならざるものがしゃべる時の一人称って吾輩じゃないですか。猫先輩…夏目漱石先輩がその礎を築いてくださったおかげで、多分日本人は人ならざるものがしゃべることに対しての受け入れ態勢ができているはずなんです」
菌がしゃべり出す技法はこの小説にとって序章にすぎない。菌目線のパート、由寿目線のパート、もう一つ、菌を擬人化したBL大河ロマン小説のパートがある。一般人が小説を投稿できるサイト「ピクシブ」は実存する同人サイト。主人公がそこに投稿されている小説を読んではまっていく設定だ。「ブルガリアの歴史を語るためにもうひとパート必要だったんです。それも乳酸菌に全部しゃべらせてしまうと、ただの説明文になってしまうので、だったら登場人物を変えて、歴史小説パートを書きたいなって。この歴史小説パートをどうやったら自然に出させるかというので、由寿ちゃんが読んでいる同人小説という形にしました」
この“BL大河ロマン小説”が宮木さんの真骨頂でもある。菌を擬人化したBL小説という設定に惑わされるが、中世から近代にかけてのバルカン半島が舞台の小説の中身は壮大で、シリアスだ。「私はデビュー作がどシリアスな吉原もので、その後もどシリアスな“百合(女性同士の恋愛)もの”とか書いてたんですけど、コミカルなOLもので校閲ガールが売れて、それからずっとそういうコミカルな感じの依頼が多くなった。だから、ちょっと重い感じの文章も書きたいなって思って」
子どもの頃、小説を書き続けたのは「お金がかからないから」だ。10代後半の頃、家が貧乏になり、お金がかかる習い事を全てやめた。残ったのは、60円のキャンパスノートとシャープペンシル1本で続けられる物語の創作だった。子供の頃から「ぐろ~いもの」を書いていたといい、シリアスな小説を自身の「A面」と捉えている。「今回はコミカルなタッチのB面の物語にA面を入れ込んだ形。多分私のコアな数少ない読者はA面の方を求めてる気がするんです。エンターテインメント色の強いB面は一見(いちげん)さんの読者がいるので、書いてて、不安ですよ。本当にこれは面白いだろうか、笑いが取れてるだろうかって(笑い)」
本人の不安と裏腹に「推しを召し上がれ~広報ガールのまろやかな日々~」として鞘師里保主演で連続ドラマ化もされ、本作は、多くの人に刺さっている。さらに宮木さんにとっても運命的な出来事をもたらした。「鞘師さんのお母さん役の中島ひろ子さんの主演映画を高校生の時、レンタルビデオをダビングして200回くらい見ていた。今回、どうしても会いたくて撮影現場に行かせてもらったら、今までどんな推しと会っても泣かなかったのに、中島さんのお顔を拝見した瞬間泣いてしまって。私の原始の推しは中島さんなんだと改めて思いました」
お仕事と推し事。コミカルとシリアス。宮木さんだから書ける、クセになるヨーグルト物語だ。
◆宮木 あや子(みやぎ・あやこ)1976年、神奈川県生まれ。47歳。2006年、「花宵道中」で第5回「女による女のためのR―18文学賞」大賞と読者賞をダブル受賞しデビュー。14年、同作が映画化され、安達祐実の「家なき子」以来20年ぶりの映画主演作に。16年、「校閲ガール」が石原さとみ主演でドラマ化されヒット。趣味はキャンプ。

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