三菱がどうしても「巨大ピックアップトラック」を日本投入したいワケ 価格も高めの「トライトン」

三菱自動車のピックアップトラック「トライトン」がまもなく日本で発売。トヨタ「ハイラックス」1強の国内市場に投入するものの、価格も高めです。そこまで多くの販売を見込めないなかで投入する狙いは、別のところにあるようです。
三菱自動車が12年振りに国内復活を決断した1トンピックアップトラック「トライトン」が、2024年2月15日より正式に発売されます。1980年代にはRVブームを受けて、トヨタや日産、三菱に加え、マツダといすゞも参入していたピックアップトラックですが、2000年代には全社が国内から撤退。それ以来、国産ピックアップトラック不在の時代が長らく続きました。
三菱がどうしても「巨大ピックアップトラック」を日本投入したい…の画像はこちら >>新型「トライトン」(画像:三菱自動車)。
しかし、2015年にトヨタ「ハイラックス」が、タイからの輸入という形で復活し、ピックアップトラックユーザーから大きな注目を集めました。現在はほかに、アメ車であるジープ「グラディエーター」が存在しますが、こちらはサイズが大きく、価格も高いことからユーザーは限定されます。このため、日本のピックアップトラック市場は、ハイラックスのほぼ独占状態にあります。
そこにトライントンが名乗りを上げたことで、トヨタvs三菱という新たな戦いに火ぶたが切られようとしています。
勝負を挑むトライトンの最大の強みは、全面刷新の新設計であること。悪路走破性や堅牢さ、乗り心地にも影響する基本構造のラダーフレームやサスペンション、力強い走りを支えるエンジンなども新しいものとなっています。そして、時代のニーズである先進の安全運転支援機能もしっかりと備えています。
●エンジンがイイ!
まずトライトンが優れている面を挙げると、一つ目はエンジン性能です。ハイラックスも同じ2.4L直列4気筒DOHCディーゼルターボエンジンですが、トライトンは、最高出力150kW(204ps)、最大トルク470Nm(47.9kgm)で、ハイラックスの最高出力110kW(150ps)、最大トルク400Nm(40.8kgm)を大きく上回っています。
●4WDシステムがハイテク
二つ目は悪路走破性を高める4WDシステムです。トライトンには、三菱を代表するSUV「パジェロ」で鍛えたスーパーセレクト4WD-IIを搭載。燃費に有利な2WDモードと幅広いシーンで使える4WDモードの切替に加え、走行状況に合わせてドライブモードを細かく変更もできるSUV用のハイテク4WDを備えています。
一方、ハイラックスは、悪路走破に便利なデフロックや姿勢制御機能などを備えるものの、基本的には、必要な時だけ4WDとするパートタイム4WDとなります。
●安全装備が最新!
そして、3つ目が先進安全運転支援機能です。最新車となるトライトンは、安全装備も最新世代となるため、その内容が「サポカーSワイド」に該当します。ハイラックスも多機能ではあるものの、ペダル踏み間違え急発進抑制機能などの該当機能が備わらず「サポカー」に留まっています。
もちろん、ハイラックスが優れている面もあります。そのひとつが後席のチップアップ機能です。後席の座面を跳ね上げることで、後席エリアをラゲッジスペースとして活用でき、高さのあるものやシートの上に置きにくいものなどを載せる際に便利です。また荷台の奥行も若干ですが、ハイラックスの方が長くなっています。
そしてハイラックス最大の強みは、価格でしょう。トライトンのエントリー価格が498万800円に対して、ハイラックスのエントリー価格は407万2000円となっており、約91万円もの価格差があります。性能と機能ではトライトンが優勢ですが、より低予算でピックアップトラックを手に入れたいユーザーには、ハイラックスのほうが魅力的に感じるのは間違いありません。このため、トライトンの価格設定を疑問視する声があるのも確かです。
打倒ハイラックスを掲げるには、せめてエントリーグレードは、同等の価格を目指すべきでしょう。しかし、その一見、強気と思える価格こそ、トライトンを日本に再投入する真の狙いが、柳の下の二匹目のドジョウを狙うことではない証明とも考えられるのです。
Large 240125 triton 02
トヨタも近く、ハイラックスの特別仕様車Z“Revo ROCCO Edition”を投入する(画像:トヨタ)。
現在の三菱自動車の主力は、「アウトランダーPHEV」や「デリカD:5」などの悪路走破性を意識したSUV系のモデルです。軽乗用車も、三菱らしさをデザインで表現した軽クロスオーバーワゴン「デリカミニ」が好評で、販売の牽引役となっています。
そうした今の三菱の魅力を育んできたモデルといえば、パリダカなどのモータースポーツシーンでも活躍し、SUVとしても高い人気を誇った「パジェロ」でした。しかし、SUV市場の活性化とは裏腹に、古さも目立ったことから販売は低迷し、日本向けパジェロは2019年8月末で生産を終了。その後、海外向けも生産を終え、長年パジェロの製造を担ってきた会社である「パジェロ製造」も、その歴史に幕を下ろしました。三菱自動車は、ブランドの象徴を失う事態となったわけです。
そこで新たなイメージリーダー役として、白羽の矢が立ったのが、新開発となるピックアップトラック「トライトン」だったのです。そのため三菱自動車もトライトンは「販売台数を追う車種としない」と明言しています。事実、先行受注を含めた2023年度内の販売目標台数は、1000台と控えめです。
さらに三菱は、ラリーで名を馳せたモータースポーツブランド「ラリーアート」を復活させ、その伝統を受け継ぐ、新たな三菱を育むブランドとしての育成が始まっています。アジアンクロスカントリーラリー2023に「チーム三菱ラリーアート」のラリー参戦車となった新型トライトンは、その戦略の中で、技術やイメージの象徴として、非常に重要な役割を果たしているわけです。
さらに、先代トライトンは、同じラダーフレームを持つSUV「パジェロスポーツ」のベースモデルでもあり、2023年3月発表の中期経営計画には、新型トライトンをベースとして、2025年頃にパジェロスポーツも新型となることが予告されています。
車種名までは、明記されていないため、ひょっとすると「パジェロ」として昇格し、復活を遂げるなんて夢も描いてしまいます。もちろん、トライトンの進化の背景には、新興国市場におけるピックアップトラックの立ち位置の変化があります。ただ、トライトンのSUV性能を読み解くと、そんな期待が膨らむのも正直な思いなのです。そういう意味でも、トライトンの人気と今後の展開から目が離せません。
さて、ハイラックスvs新トライトンの戦いの行方ですが、数で言えばハイラックスが優位となるでしょう。それは価格だけでなく、トヨタの販売店舗数の多さも理由です。もっとも、日本のピックアップトラック市場は、限られたものであり、大きな収益を生むものにはなりません。
Large 240125 triton 03
トライトンの荷台(乗りものニュース編集部撮影)。
日本においてピックアップトラックは“趣味のための市場”といっても過言ではありません。ユーザーも個人が中心になるため、話題となることが販売にも良い効果をもたらします。つまり、ライバルの登場は、復活7年目を迎えたハイラックスの注目度も高まることになり、互いに良い刺激といえます。
巨大企業トヨタと比べると、リスクが高そうにも思える三菱トライトンの再投入ですが、これもSUV中心のモデルラインに特化した、今の三菱自動車ならではの“攻めの戦略”といえるでしょう。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする