日産「キャラバン」が災害支援の司令本部に? 新型コンセプトカーを徹底取材

日産自動車は「キャラバン」をベースとするコンセプトカー「Disaster Support Mobile-Hub」を発表した。「災害支援の司令本部」のような機能を持たせた1台で、大きな災害が頻発する日本においては欠かせないクルマのひとつといえる。どんな特長があるのか担当者に話を聞いた。

災害時に役立つ8つの機能とは?

「Disaster Support Mobile-Hub」(災害支援キャラバン)は日産の商用ミニバン「キャラバン」がベース。担当者によると今回は「参考出品」とのことだが、いますぐにでも使えるくらい細かい部分まで作り込まれていた。

災害支援キャラバンは自治体や消防団などが所有し、災害など有事の際に避難所や防災対策の拠点(役所や防災センターなど)に派遣するような運用を想定している。災害支援キャラバンでは主にどんなことができるのか。それは車体上部の8つのアイコン(写真参照)でおおまかに示されている。

例えば、最大30台のスマートフォンを同時に急速充電できたり、Wi-Fiにつなげられたりといった機能で被災地の通信環境を確保できる。また、プライバシーへの配慮が必要な着替えやトイレ、授乳をサポートしたり、負傷者を救護したりといった防災では欠かせない支援を一手に担えるそうだ。さらに、ガスコンロやシンクを使って最大200人分の温かい食事や飲み物を提供することも可能だという。

大規模な災害が発生すると現地では情報へのアクセスが難しくなってしまいがちだが、このキャラバンは災害支援の司令本部として情報収集の機能も果たせるとのこと。担当者は次のように説明する。

「災害支援キャラバンには『Disaster Control Office』と呼ばれるスペースを設けています。このスペースでは衛星インターネットアクセスサービス『Starlink』を使って、行政機関から情報を入手します。避難所に身を寄せている被災者にいち早く情報を伝達できます」

もちろん、被災地からの情報発信も可能だ。要救助者が何人いるのか、物資は何が足りないのかといったきめ細かい情報を役所などに伝達することで、現地と支援する側を直接結ぶ拠点としても活用できる。

「リーフ」17台分のバッテリーを搭載

災害支援キャラバンはポータブルバッテリー17台を搭載。日産の電気自動車(EV)「リーフ」が使っていたものを再利用している。

一度はクルマで使っていたバッテリーの再利用で大丈夫なのか少し心配になったが、担当者いわく「リーフから取り出したバッテリーを再点検し、正常に使えるものだけを厳選して搭載しています。充電容量もほぼ新品と変わらないくらいに安定しているバッテリーなので、まったく問題ありません」とのことだった。

17台のバッテリーを満充電にしておけば、初動(発災時)から丸2日は全ての機能(電磁調理器や通信網の確保、スマホの充電など)が全く問題なく使える。2日目以降は屋根の太陽光ソーラーパネルで17台のバッテリーを順次充電していくため、そのときの天候にもよるが電力の確保は問題なく続けられるという。
2基のデジタルサイネージにこだわったワケ

開発担当者が災害支援キャラバンを制作する上でこだわったのは、デジタルサイネージを2つ搭載することだった。

「実際に被災した人から聞いた話では、子どもたちが避難生活に飽きてしまって、とても退屈そうにしていたそうです。デジタルサイネージを最低でも2つ用意しておけば、ひとつはニュースや気象情報に使って、もうひとつには子供向けの番組やアニメを流しておくといった運用ができます。子どもたちの気を紛らわすことができれば、親や保護者の負担を和らげることができるかもしれません」

こうした情報伝達装置は多いに越したことはない。コストが上がってでも優先して取り付けるべき装備のひとつだといえる。

また、災害支援キャラバンとして、採用する車体のサイズにもこだわっている。キャラバンには車幅が広いワイド幅、天井が高いハイルーフ仕様、ボディサイズの長いスーパーロングボディなどの設定があるが、災害支援キャラバンを製作するにあたってはあえて標準幅、標準ルーフを選択し、手ごろなグレードでコンパクトなキャラバンを作ることにしたそうだ。

ハイルーフでスーパーロングボディのキャラバンなら多くの装備を積み込める一方、その大きさゆえ役所などの駐車場に停めにくくなってしまう。この点について担当者は「役所の車庫は天井の高さが低めなことも多く、車高の高いハイルーフのキャラバンでは停められなくなってしまう可能性がありました。そのため標準幅、標準ルーフのキャラバンを開発のベースにすることにしたんです。また、こうした特装車は装備を増やしていくと価格が高くなっていくので、最も低いグレードのキャラバンを採用することでコスト削減も図りました」と話していた。

2024年は元旦から大きな災害に見舞われてしまった。この災害支援キャラバンの開発は2023年から行われていたそうだが、東京オートサロン2024では初日から多くの引き合いがあり、日産としては自治体や消防団などの組織や団体向けに販売・提供を考えているという。

搭載する装備は用途や予算に応じてカスタマイズするため、担当者は「救急車と同じように、自治体や地域によって装備を変更する特装車として取り扱う予定です。具体的な車両の販売価格は決まっておりません」と話す。

こうしたクルマは使わないに越したことはないが、いざというときにあるのとないのとでは状況が大きく変わってくる。災害の多い地域でこそ必要不可欠な1台となるのは確かだ。

室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら

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