第二次世界大戦末期、ドイツ軍のUボートに悩まされていたイギリスは、その基地を破壊する方法を模索していました。ある時ディズニー映画を見たイギリス海軍将校は、作中に登場する爆弾に着想を得、「ディズニーボム」開発へ乗り出します。
ウォルト・ディズニーといえば、ファンタジーあふれるコンテンツを数多く生み出してきたエンターテインメント企業ですが、かつてその名前を取った「ディズニーボム」という爆弾がありました。エンターテインメントに登場する架空の爆弾ではなく、第二次大戦で実際に使用されたのです。
ディズニー映画に登場の爆弾つくってみた 実際は…? 「ディズ…の画像はこちら >>投下された「ディズニーボム」(画像:米軍関係者,パブリックドメイン,via Wikimedia Commons)。
第二次大戦中、イギリス海軍はドイツ海軍の潜水艦「Uボート」に悩まされていました。Uボート基地の重要な施設は強固な鉄筋コンクリート製ブンカー(壕)で防護されており、これを何とか破壊しようと様々な方法を模索していました。
そのようななかの1943(昭和18)年、ウォルト・ディズニーが制作したプロパガンダ映画『空軍力の勝利』を見たイギリス海軍将校が、作中に登場するブンカーの、コンクリート製天井を突き破る架空の爆弾を見て具現化を目論みます。しかしイギリス空軍は消極的でした。紆余曲折を経てアメリカ軍と共同開発したものの、イギリス海軍の航空機には搭載できず、実際に使ったのはアメリカ陸軍航空隊という複雑怪奇な経緯を持っています。
この爆弾の正式名称は「4500ポンド コンクリート貫通/ロケットアシスト爆弾」です。ただしロケット弾のように飛翔していくのではなく、着弾時の衝撃をロケットブースターの加速で増強しようというものでした。ディズニー映画から着想したことから「ディズニーボム」とも呼ばれました。
開発を担当したのは、イギリス海軍予備員の大尉で、海軍兵器開発総局に勤めていたエドワード・テレルという人物です。戦前には野菜の皮むき器などの特許も持っていた発明家で、夢の兵器の具現化は発明家心を刺激したようです。
一方のイギリス空軍はブンカーを破壊するために超大型爆弾を作りました。5tのトールボーイ(弾頭重量2358kg)と10tのグランドスラム(弾頭重量4144kg)です。
基本原理は着弾してもすぐ爆発せず、コンクリートにめり込んでから炸薬の爆発の衝撃波で構造物を破壊しようというもので、「地震爆弾」ともいわれています。高速で着弾させるためには高高度から投下せねばならず、その分命中精度が悪化するというジレンマがありました。
その点「ディズニーボム」は、細身ながら固い鋼板製外殻の弾体にロケットブースターを取り付け、加速を付けて重力による自由落下よりも高速とすることで、徹甲弾のようにコンクリート製の屋根を貫通させようという原理でした。重さは2t(弾頭重量230kg)で長さは5.03m、本体直径は380mmと、地震爆弾よりもはるかに小型軽量にできるという利点がありました。
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オランダのエイマイデンにあった、ドイツ海軍高速魚雷艇(Sボート)のブンカー(画像:オランダ軍事史研究所,CC BY-SA 4.0,via Wikimedia Commons)。
しかし先述の通り、このアイデアはチャーチル首相が議長を務める対Uボート委員会では空軍省が懐疑的で、承認を得られませんでした。計算上は、ロケットブースターで加速するディズニーボムは超大型爆弾に匹敵する貫通能力を発揮できる可能性があるとアメリカ軍がはじき出し、イギリス海軍はアメリカ陸軍航空隊の援助を受け、B-17爆撃機にモックアップを搭載して見せるなどしようやく委員会から開発承認を得ます。しかし空軍省の消極姿勢は変わりませんでした。
「ディズニーボム」後部にはロケットモーターが19本束ねて収められました。最適投下高度(6100m)で投下するとロケットモーターが3秒間燃焼し、着弾時速度は1584km/h(マッハ1.28)に。ちなみにグランドスラムの最適投下高度は6700mで着弾時速度は1152km/h(マッハ0.93)、トールボーイの最適投下高度は5500mで着弾時速度1210km/h(マッハ0.97)でした。
実戦配備されたのは1945(昭和20)年に入ってから。しかし当時のドイツは敗色も濃くなり、目標となるUボートのブンカーもほとんどなくなっていました。実戦初参加は同年2月10日で、この時は「ディズニーボム」を2発ずつ搭載したB-17の9機が、オランダのエイマイデンにあるドイツ海軍高速魚雷艇(Sボート)のブンカーを攻撃しました。以降4回出撃して計158発を投下しましたが、芳しい戦果は認められませんでした。なおアメリカ軍の爆撃隊に損害は出ていません。
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1945年2月10日、オランダのエイマイデンにあるドイツ海軍ブンカーに投下された「ディズニーボム」(画像:米軍関係者,パブリックドメイン,via Wikimedia Commons)。
戦後も実験と検証が続けられ、「ディズニーボム」はトールボーイやグランドスラムのような超大型爆弾と同等の効果ありと認められたものの、ロケットブースターの不発や、外殻の強度不足により着地の衝撃で粉砕される弾体もあり、コンクリート貫通用として完成域には達していないと評価されています。
現代でも地下施設攻撃用の地中貫通爆弾(いわゆるバンカーバスター)が開発されていますが、先祖がディズニー映画の架空爆弾だと思うと、ディズニーの着想(夢)とそれを具現化したイギリス海軍恐るべしといったところでしょうか。