自衛隊のホバークラフト後継どうなる? 能登の被災地で大活躍も… 世界の状況と“選択肢”

令和6年能登半島地震の被災地に対し、海上自衛隊はエアクッション型揚陸艇(LCAC)を投入して援助を行っています。日本ではLCACの運用開始から四半世紀が経過していますが、後継艇は登場するのでしょうか。
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では、石川県を中心とする北陸地域に甚大な被害をもたらしました。なかでも、その後の各自治体や公的機関による被災地支援を妨げているのが、地震により生じた道路の崩落や土砂崩れによる陸路の寸断です。 これを受けて、海上自衛隊では能登半島の沖合に艦艇を派遣し、ヘリコプターなどによる物資輸送を実施しています。しかし、ヘリコプターでは重機をはじめとする車両を輸送することができません。そこで活躍しているのが、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」に搭載されている「エアクッション型揚陸艇(LCAC)」、いわゆるホバークラフト(ホーバークラフト)です。
自衛隊のホバークラフト後継どうなる? 能登の被災地で大活躍も…の画像はこちら >>災害派遣された海上自衛隊の「エアクッション型揚陸艇(LCAC)」(画像:海上自衛隊)。
ホバークラフトは、艇体上面から吸い込んだ大量の空気を圧縮し、それを艇体下面から噴き出すことによって浮上、プロペラなどによって推進します。その原理上、海上はもちろん陸上でも活動することができるため、海から陸へと物資や車両を輸送するのに役立ちます。
そんなホバークラフトの一種であるLCACは軍用の揚陸艇で、約40ノット(時速74km)という高速力ながら50トン以上の積載量を誇ります。海上自衛隊では、「エアクッション艇1号型」の名称で6隻を運用中です。2024年1月現在、このLCACを運用しているのはアメリカ海軍と海上自衛隊のみですが、1984(昭和59)年から運用しているアメリカ海軍では、すでに後継装備の導入が進められています。
アメリカ海軍の新型は「艦艇沿岸間コネクター(SSC:Ship-to-Shore Connector)」と呼ばれます。このSSCは、これまでのLCACと外見上はあまり変化が見られませんが、エンジン出力および燃費が向上しているほか、艇体下面を覆うスカートのデザインも見直されています。また、艇体素材には腐食対策として複合材やアルミ合金を採用し、操縦システムも一新されています。
さらに性能自体も大幅に向上しており、積載量は74トン、速力は35ノット(約65km)以上を誇ります。ちなみに、SSCで新しく採用されたエンジンはロールスロイス社製のガスタービンエンジン「MT7」ですが、これはティルトローター機V-22「オスプレイ」に搭載されているエンジンである「AE1107」から派生したものです。
SSCは、2020年に最初の1隻がアメリカ海軍に引き渡されて以降、現在までに9隻が納入され、初期作戦能力(IOC)の獲得に向けて各種運用試験などが行われています。現在の計画では、アメリカ海軍での導入数は73隻が予定されており、既存のLCACを順次置き換えていく方針です。
一方、海上自衛隊でのLCACの運用開始は1998(平成10)年であり、間もなく26年が経過しようとしています。これまでにも艦齢延伸のための改修などが行われていますが、そろそろ後継について検討する段階が近づいてきています。
アメリカ軍との相互運用性や、これまでの運用に関する経験などを活かそうとするのであれば、海上自衛隊においてもSSCを導入する可能性は高いと筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は思います。ただし、そのほかの選択肢が全くないというわけでもありません。
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アメリカ海軍で導入が進む後継装備「艦艇沿岸間コネクター(SSC)」(画像:テキストロンシステムズ)。
たとえば、2023年にイギリスのホバークラフトメーカーであるグリフォン・ホバーワーク(Griffon Hoverwork)が発表した「ワイヴァーン(Wyvern)」です。ワイヴァーンは、積載量約50トン、速力は50ノット(時速92km)とされています。ただし、グリフォン・ホバーワークでは顧客のニーズに合わせてサイズや性能をカスタマイズすることも可能としており、もし日本が導入を検討する場合には、日本独自のモデルが提案されることが考えられます。
ちなみに、グリフォン・ホバーワークは大分市と大分空港のあいだで15年ぶりに復活するアクセス航路のホバークラフトを納入したメーカーであり、日本との足がかりをつかんでいます。
現在のところ、海上自衛隊のLCAC後継に関して、その方向性などは不明確です。しかし、特に近年の日英関係の強化や日本の防衛産業と海外メーカーとの連携強化という文脈を踏まえると、SSC以外の海外製ホバークラフトについて、提案される可能性は決して低くはないでしょう。

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